異世界呪われた救世主~異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす~

陽月純

文字の大きさ
96 / 105
第二章 魔王と戦争

第96話 デザートドラゴン対デザートドラゴン

しおりを挟む
 デザートドラゴンに襲われ、反撃に出たが、全く歯が立たず逃げに回った俺たちだった。

 悪い事は続くとはよく言ったものだ。

 昨日のデザートドラゴンが直ぐそこまで近付いていた。俺の様子を見ていたミコトが走りながら声をかけてきた。

「アスカ、どうしたの? 様子が変だけど」
「昨日のデザートドラゴンも直ぐそこまで近付いて来ているんだ。一体だけでも手に負えないのに、もう一体増えてしまう」
「そんな」

 アルに出てきてもらって、パラライズブレスをデザートドラゴンたちに放ってもらうか?

 いや、通用するかも分からないのに、立ち止まるなんてのは以ての外だ。何とかこのまま逃げるしかない。

 でも、どうやって?

 昨日のデザートドラゴンが全力で向かって来ているのか、昨日とは段違いの速さでこっちに向かっている。今潜っているデザートドラゴンよりも速い。

「離れろ!」

 砂の中から、デザートドラゴンが三度飛び出してくる。だが、<感知>を常に使っている俺には動きが全て分かっている。

 出てくるタイミングさえ分かっていれば、いくら速くても躱すことは容易い。だけど、今近付いて来ているデザートドラゴンも加わるとそうはいかなくなるだろう。躱した後に、ガブリとやられかねない。

「あぁ、もう。嫌だぁ」
「ミサオ、泣き言言ってないで、走れ」

 昨日から逃げてばかりで、ミサオの我慢も限界みたいだが、それは俺だって同じだ。デザートドラゴンの方を睨んでみると、様子がおかしい事に気付いた。俺たちの方を向かず、後ろを気にしている。その気にしている方向には、もう一体のデザートドラゴンがいる。もしかして、縄張り争いとか?

「おい、二人共。全力疾走だ。もしかしたら、チャンスかもしれない」

 二人が走りながら不思議そうな顔をする。

「昨日のデザートドラゴンが近付いて来ているんだけど、こいつら、仲間とかじゃなくて、お互い縄張りに入った侵入者みたいな感じなのかもしれない」
「それって……」

 ミコトが最後まで話す前に頷く。

「ああ。モンスター同士の争いになりそうだ」

 デザートドラゴンが砂に潜る。そして、思った通り。俺たちの方ではなく、もう一体の方へと進み出した。

「向こうに行ったぞ。走れ!」

 俺たちはバラトレストに向け、デザートドラゴンとは反対方向へと駆け出した。

 一方、昨日からアスカ達を付け回していたデザートドラゴンは、自分の獲物を横取りしようとした愚か者に頭に来ていた。

『我の獲物を横取りしようなどという愚か者がまだこのエリアにいるとは』

 しかも、こっちに気付き向かって来るとは。身の程知らずにも程がある。人間共に砂の悪魔と恐れられ、近隣のモンスター共も我に恐れを成して近寄りもしないというのに。

 良いだろう。力の差というものを見せてやろう。

 砂の悪魔と呼ばれるデザートドラゴンは、進路を自分の下へ向かって来るデザートドラゴンへと変える。もう一体のデザートドラゴンとの距離が詰まっていく。

 残り二百メートルの所で、もう一体のデザートドラゴンは地上に向かって上がっていく。勢いよく地上へ飛び出したデザートドラゴンは、イルカのようにジャンプすると、砂の悪魔に向けて、角を突き立てる。

『ふん。無駄だ』

 砂の悪魔は右に旋回すると突き刺しを躱す。躱した後、自分も地上へと上がった。

 狙っていた人間が遠ざかっていくのが見える。ここからならブレスで塵と化すのも容易いだろう。

 だが、それはしない。それではこれまで我慢してきた意味がない。あれは、食すのだ。食し、自身の力を強くする。己に力を与えてくれた神のためでもある。

 神と言っても、邪神だが。自分よりも力のあるカオスドラゴンが破れているのを知っている。

 女神のお陰という話もあるが、慎重に事を進めるのは悪くない。まずは、邪魔な同族を始末する。

 デザートドラゴンが二体揃って地上に姿を現す。

 アスカは、その気配を<感知>で感じ、後ろを振り返ると、二体のデザートドラゴンが互いに向き合い、争おうとしているのが分かった。

「仲間割れ、いや、予想通りの縄張り争いといった所か。それにしても、あのデカい方。亜種なのか? 体の色が黒いぞ。だけど、チャンスだ」

 そして、前を向けば遠くに小さいが砂漠には無い、緑の木が見えて来ていた。

「あれは」
「バラトレストとの国境が近いよ」

 アスカが立ち止まる。

「どうしたの?」

 アスカが立ち止まったため、二人も立ち止まった。

「二人共、ごめん。今がチャンスだ。ちょっと我慢してくれ」
「「え?」」

 二人が首を傾げた瞬間、アスカの体が金色の光に包まれ、二人を両肩に担ぎ上げた。

「ちょっと、アスカ」
「何する……」
「喋ってたら舌噛むぞ」
「……のぉおおおおお」

 アスカは二人を担ぎ上げたまま、駆け出す。<アクセルブースト>と加護の力を開放したアスカは、これまで走っていた速度の倍以上の速度で進む。

「えぇぇっ」
「ちょぉおおおっ」

 二人の叫び声を無視して、国境に向け走っていった。

『我の邪魔をする貴様。当然、報いを受けることは覚悟の上なのであろう』

 デザートドラゴンは答えない。いや、答えられない。砂の悪魔は邪神の力により念話の能力を得ている。通常のデザートドラゴンとは違うのだ。

 返事とばかりにデザートドラゴンが咆哮を上げる。

「グォオオオオオオ!」
『愚かな。身の程を知れ!』

 デザートドラゴンが砂の悪魔に向かって突進する。砂の悪魔は避ける素振りも見せず、ただ立ち尽くしている。

 デザートドラゴンの角が砂の悪魔に当たろうという所で突進が止まった。前へ進もうとしても全く進めない。デザートドラゴンは鋭い爪で砂の悪魔を引っ掻こうとするが、やはり引っ掻くことが出来ない。

『無駄だ。貴様程度の力で我の<ドラゴニックバリア>は貫けぬわ』

 砂の悪魔がデザートドラゴンに爪を突き刺すと硬い竜鱗をいとも容易く貫いた。

「ギャオォオオオオ」
『何だ? <ドラゴニックオーラ>も纏えぬ未熟者が我に挑むか?』

 痛みに叫び声を上げながらデザートドラゴンは後ろに下がる。

 そして、その大きな口を開き、砂の悪魔目掛けて<ヒートブレス>を吐く。その熱線は、あらゆる物を溶かす程の熱量を持っていたが、砂の悪魔の<ドラゴニックオーラ>を打ち破る事は出来なかった。

 自身の最大の攻撃が通用しなかったデザートドラゴンは、逃げ出そうと砂の悪魔に背を向け、砂の中へと潜り始める。

『逃がす訳が無いだろう』

 砂の悪魔がデザートドラゴンに向けて<ヒートブレス>を吐くと、辺りの砂を溶かしながらデザートドラゴンを焼き殺す。デザートドラゴンが光の粒子へと変わり、辺りの砂が高温により硝子のようにキラキラと輝いていた。

『さて、獲物を追うか?』

 デザートドラゴンとの戦闘は然程時間は掛かっていない。しかし、アスカ達の気配が自分の索敵範囲から消えていた。

『馬鹿な? この短時間に砂漠を抜けたのか?』

 砂の悪魔は、この砂漠に居るからこそ最大の力を発揮出来る。既に気配を感じないのであれば追う必要は無い。再び訪れた時に仕留めれば良いだけのことだ。砂の中へと潜り別の獲物が現れるのを待つことにした。

「だぁっ。流石に疲れたぁ」
「もう、アスカ。無理し過ぎ」
「いや、無理で済まさないでよ、ミコト。何なのよ。あたし達は荷物じゃないわよ!」
「いや、チャンスだったろ……。取り敢えず、何とか……、バラトレストに、着いたな……」
「そうだけど……」
「兎に角、もうあんなのは二度とごめんよ」
「分かった……」

 何とか、逃げ切れたみたいだ。あの二体のデザートドラゴンの反応は無い。無茶した甲斐があった。取り敢えず、今日はゆっくり休もう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...