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プロローグ
ワクカブの野望
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和久(かずひさ)、アラフォー。
職場では「ワクさん」と呼ばれているが、一部の同僚からは親しみと若干のイジりを込めて「ワクカブ」と呼ばれている。理由は簡単。株が好きだからだ。
休憩室では日経平均の話、帰りのロッカーでは米国ETFの話。
彼のスマホは株アプリの通知で毎日賑やかだ。だが、騒ぐことはない。
彼はそういう話題を「風のように」吹き込んで、さりげなく消えていく。
本業は、郊外のスーパーマーケットの主任。惣菜部門一筋15年。
ポテトサラダの味にうるさく、からあげの漬け込みに一晩かけるこだわり派。
仕事終わりには、職場の「おつとめ品」コーナーで今日の晩酌の相棒を選ぶのがルーティンだ。
「うん。今日のしめ鯖は脂のノリが違うな」
自宅の小さなキッチンで、ゆず胡椒をちょこんと添え、ひとり晩酌。
BGM代わりに流れる天気予報に耳を傾けながら、和久は静かに満ちていく。
そして、彼にはもうひとつの楽しみがある。
それが――お城めぐり。
半年に一度、自分への“利確”として訪れる城。
前々回は熊本城。復旧の進む姿に、粘り強いチャートのような安心感を覚えた。
前回は江戸城。実物はなくとも、敷地の空気に時代の残り香を感じた。
そして今夜。
秋刀魚の塩焼きを肴に、タブレットで全国の城を巡る旅の予習を始める。
画面をスワイプしていると、不意に指が止まった。
弘前城。
紅葉に染まる城郭。白壁の静寂に、遠く冠雪の岩木山。
なにより、城と一体となった季節の美しさに心を奪われた。
「……ここだな」
つぶやきながらスケジュール帳を開く。
10月のカレンダーに赤ペンで「弘前」と書き込む。
その瞬間、和久の中でなにかが確かに動いた。
それは、勝ち筋を読み切った投資家のような静かな確信。
あるいは、ゆるやかな幸せをしっかりと握る日々の継続。
ワクカブの野望はまだ終わらない。
旅の計画と、明日の売り場レイアウトと、来週の銘柄選びを思い浮かべながら、
彼はひと口、冷えた翠ジンソーダをあおった。
職場では「ワクさん」と呼ばれているが、一部の同僚からは親しみと若干のイジりを込めて「ワクカブ」と呼ばれている。理由は簡単。株が好きだからだ。
休憩室では日経平均の話、帰りのロッカーでは米国ETFの話。
彼のスマホは株アプリの通知で毎日賑やかだ。だが、騒ぐことはない。
彼はそういう話題を「風のように」吹き込んで、さりげなく消えていく。
本業は、郊外のスーパーマーケットの主任。惣菜部門一筋15年。
ポテトサラダの味にうるさく、からあげの漬け込みに一晩かけるこだわり派。
仕事終わりには、職場の「おつとめ品」コーナーで今日の晩酌の相棒を選ぶのがルーティンだ。
「うん。今日のしめ鯖は脂のノリが違うな」
自宅の小さなキッチンで、ゆず胡椒をちょこんと添え、ひとり晩酌。
BGM代わりに流れる天気予報に耳を傾けながら、和久は静かに満ちていく。
そして、彼にはもうひとつの楽しみがある。
それが――お城めぐり。
半年に一度、自分への“利確”として訪れる城。
前々回は熊本城。復旧の進む姿に、粘り強いチャートのような安心感を覚えた。
前回は江戸城。実物はなくとも、敷地の空気に時代の残り香を感じた。
そして今夜。
秋刀魚の塩焼きを肴に、タブレットで全国の城を巡る旅の予習を始める。
画面をスワイプしていると、不意に指が止まった。
弘前城。
紅葉に染まる城郭。白壁の静寂に、遠く冠雪の岩木山。
なにより、城と一体となった季節の美しさに心を奪われた。
「……ここだな」
つぶやきながらスケジュール帳を開く。
10月のカレンダーに赤ペンで「弘前」と書き込む。
その瞬間、和久の中でなにかが確かに動いた。
それは、勝ち筋を読み切った投資家のような静かな確信。
あるいは、ゆるやかな幸せをしっかりと握る日々の継続。
ワクカブの野望はまだ終わらない。
旅の計画と、明日の売り場レイアウトと、来週の銘柄選びを思い浮かべながら、
彼はひと口、冷えた翠ジンソーダをあおった。
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