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第3章 投資ロマン
第九夜 詐欺と替え玉と信用取引
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あの日の損切りから、少しだけ気持ちが軽くなった。キャッシュポジションを増やしたおかげで、相場のうねりにも構えられる余裕ができたのかもしれない。
とはいえ、口座に現金があると、なにかしら誘惑が増えるのも人の性というものだ。「ラクして増やせますよ」「プロに任せてみませんか」……そんなDMが、日々届くようになる。SNSでも「必ず儲かる」と謳う怪しげな広告がタイムラインをにぎわせている。
「詐欺、流行っとるなあ……」
スマホをスクロールしながら、ワクカブはつぶやいた。何十年も前から変わらない、儲け話に群がる人間の心理。投資詐欺も、形を変えながら次々と現れる。
ワクカブ自身、昔とある案件でやられかけたことがある。会社の実態はなく、説明会の資料は借り物。今思えば、あれはよくある「ポンジスキーム」だったのだろう。
——人を信用して、お金を託すのは難しい。
だが、信用“取引”も、なかなか難しい。
信用取引。証券口座の“信用枠”を使って、現金や株を担保に、自己資金以上の金額で売買できる仕組みだ。いわば借金して株を買うようなもの。
「替え玉みたいなもんやな……ラーメン頼んで、うまいからもう一玉いっとく、みたいな」
だが、お腹が空いてないのに替え玉を頼んでしまったら? それは無理して詰め込むことになる。信用取引も、勢いでやってしまうと、消化不良どころか、胃袋に穴があくリスクもある。
日中、仕事の合間に軽く売買するならまだしも、夜間のPTSや、決算直前の勝負などで信用枠を使うのは、ベテランでも緊張する。「上がると思ったのに……」という勘違いが、信用買いの落とし穴だ。
しかも、下がっていくと“追証”という請求がくる。「追加でお金入れてください」だ。レバレッジは怖い。少し間違えれば、投資ではなく博打になる。
もちろん、信用取引がすべて悪いわけではない。使いこなす人にとっては、強力な武器になる。ただしそれは、「自分の性格」と「相場のクセ」をよく理解してこそ。
夜。冷たい風が吹くなか、ワクカブはいつもの帰り道を外れて、駅前のラーメン屋へと足を向けた。
カウンター席。背中に流れる昭和歌謡。味噌ラーメンにチャーシューをトッピングして、瓶ビールを一本。今日の“信用取引”は、ちょっとだけの贅沢だ。
替え玉は……やめておこう。今日はキャッシュポジション多め、が正解だ。
「ノージンジャー、やったな……」
カウンターの端に置かれた紅しょうがに目をやりながら、ワクカブは静かに笑った。生姜焼き、甘酢生姜、焼きサバ……連日の生姜三昧だったことを思い出した。
たまには、生姜のない夜も悪くない。
けれど、相場の世界で“味付け”を忘れたら、大やけどする。
情報を見極めること。欲をコントロールすること。
信用は、信じすぎず、疑いすぎず。
ラーメンも、投資も、替え玉には慎重に。
とはいえ、口座に現金があると、なにかしら誘惑が増えるのも人の性というものだ。「ラクして増やせますよ」「プロに任せてみませんか」……そんなDMが、日々届くようになる。SNSでも「必ず儲かる」と謳う怪しげな広告がタイムラインをにぎわせている。
「詐欺、流行っとるなあ……」
スマホをスクロールしながら、ワクカブはつぶやいた。何十年も前から変わらない、儲け話に群がる人間の心理。投資詐欺も、形を変えながら次々と現れる。
ワクカブ自身、昔とある案件でやられかけたことがある。会社の実態はなく、説明会の資料は借り物。今思えば、あれはよくある「ポンジスキーム」だったのだろう。
——人を信用して、お金を託すのは難しい。
だが、信用“取引”も、なかなか難しい。
信用取引。証券口座の“信用枠”を使って、現金や株を担保に、自己資金以上の金額で売買できる仕組みだ。いわば借金して株を買うようなもの。
「替え玉みたいなもんやな……ラーメン頼んで、うまいからもう一玉いっとく、みたいな」
だが、お腹が空いてないのに替え玉を頼んでしまったら? それは無理して詰め込むことになる。信用取引も、勢いでやってしまうと、消化不良どころか、胃袋に穴があくリスクもある。
日中、仕事の合間に軽く売買するならまだしも、夜間のPTSや、決算直前の勝負などで信用枠を使うのは、ベテランでも緊張する。「上がると思ったのに……」という勘違いが、信用買いの落とし穴だ。
しかも、下がっていくと“追証”という請求がくる。「追加でお金入れてください」だ。レバレッジは怖い。少し間違えれば、投資ではなく博打になる。
もちろん、信用取引がすべて悪いわけではない。使いこなす人にとっては、強力な武器になる。ただしそれは、「自分の性格」と「相場のクセ」をよく理解してこそ。
夜。冷たい風が吹くなか、ワクカブはいつもの帰り道を外れて、駅前のラーメン屋へと足を向けた。
カウンター席。背中に流れる昭和歌謡。味噌ラーメンにチャーシューをトッピングして、瓶ビールを一本。今日の“信用取引”は、ちょっとだけの贅沢だ。
替え玉は……やめておこう。今日はキャッシュポジション多め、が正解だ。
「ノージンジャー、やったな……」
カウンターの端に置かれた紅しょうがに目をやりながら、ワクカブは静かに笑った。生姜焼き、甘酢生姜、焼きサバ……連日の生姜三昧だったことを思い出した。
たまには、生姜のない夜も悪くない。
けれど、相場の世界で“味付け”を忘れたら、大やけどする。
情報を見極めること。欲をコントロールすること。
信用は、信じすぎず、疑いすぎず。
ラーメンも、投資も、替え玉には慎重に。
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