クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
21 / 73

Side : ケン 1 修行の日々

しおりを挟む
   ケンはそのころどうしていたかというと、一生懸命地味な訓練を続けていた。 

   すぐさま、ふつうに空中浮遊してみたり、50メートルプールを歩いて若しくは走って渡ったり、デッカいビルを根元からズクズクにして倒壊させるとか、3階のフロアだけぶっこ抜くとか、ただの水をワインに替えるとか、やってはいけないことだけれど、未来に少し飛んで菊花賞の勝ち馬をたまたま知ってしまい、2012年8月4日の新潟第5R、メイクデビュー(芝1400)で発生した払戻金(3連単)2983万2950円の歴代最高配当を上回る馬券とは知らずにたまたま買ってしまったり、やってはいけないことだけれど、女子更衣室の生着替えをこっそり目撃してしまったり、現時点で世界で一番速い鉄道の最高速度である時速603kmを記録したリニアモータカーとレースをやって軽々と抜き去るとか、やってはいけないことだけれど女風呂を透視するとか、世界中を瞬間移動で飛び回るとか、やってはいけないことだれど大好きな推しメンの部屋をちょっと覗いてみるとか、いろいろやりまくりたかったがそんな一朝一夕に、超人になれるわけもなかった。

   あの鬼滅でも、はじめの鍛錬だか修行の時間が長すぎるのではないかとの編集者サイドの意見に対して吾峠呼世春先生は、一般人がそんなに急に強くなれるはずがないので修行の描写の短縮はしないと譲らなかったというエピソードがあるくらいだし、話が進まないことに業を煮やして、というか作者自身も基礎鍛錬に励む単調な反復練習に時間を割いて重ねて描いていくのも、結構ツライという内情もあるやもしれなかったが、やはり端折ってしまうのはいろいろよくないのかもしれず、やはりトレーニングの日々をないがしろにしてしまうならば、つまらない小説がさらに輪を描いてつまらなくなりそうではあった。

   それで、ぶっちゃけその単調な繰り返し作業を書いてみると、ランダムナンバージェネレーターというサイトでランダムに繰り出されてくる数字を、任意に1~100の中から5つとか設定し、頭に思い描いた数字をコンピュータに強引に出させるとか、真っ直ぐに伸ばしたクリップを消しゴムに刺して台座にし、クリップの一方の尖った先に小さな紙片で風車みたいなやつを作ってのせて、念力で回転さるとかティッシュを一枚浮かせてみるとか、トランプの数字を透視するとか、街角で次に角を曲がって来るのは男性か女性かを予想したり、電車に乗り合わせた見知らぬ人を念で呼び続け、こちらを向かせるとか延々とやり続けるのだ。

   誰でもやればできるという先例があれば、なかなか結果がでなくともなんとか頑張り続けられるかもしれないが、誰もがそんな、たわけたまねをして大切な時間を潰してしまうなら、ゲームでもやっていた方がよっぽど楽しくて精神衛生上もいいというだろう。

   たしかに、それはまちがってはいない。だが、ケンは実体験としてナオトの部屋でスプーンやらフォークを何本も曲げて使い物にならなくしてしまったり、なんでそんなマネをしたのか自分でもわからないが、たまたま電車で横に座った見知らぬ若い女性に、思いっ切りキスしたいとか好きだとか心の中で話しかけていたら、その女性が驚いたようにケンをマジマジと見たということがあり、ケンはヤバいと思いうつむいたまま、しらばっくれていたが女性は降車する際にもケンをジッと見つめていたということがあった。

   あるいは、地下鉄の乗り換えの際の移動中に、向こうから来るリーマン風中年男性に対して、「ウザいんだよ、ジジィ」と心の中で呟いてしまったケンを、その男性はすれ違いざまケンの棘のある言葉に傷ついたように憮然とした表情で見返してきたということもあった。

   だから、ケンとしては必ず何かあるという思いがあるのだった。恋人同士ならば喋らなくても以心伝心みたいなことは確かにあるだろうし、あとこれは冗談でもやって欲しくはないが、例えば四六時中、「死にたい!死にたい!」と考えていると本当にそういう状況になってしまうということは容易に想像できるのだった。

   なので、人の想念は目に見えないものだから存在しないのではなく、目に見えないだけで、とんでもないパワーがあるとケンは思わざるを得ないのだ。

   具体的な訓練は、少しでもやってみればすぐわかるが、全力で脱力し気持ちだけ強く念じるというのは、かなりムズイのだった。

   腕力を使わないで、念だけ通すというコツを掴むまで繰り返し繰り返しやるしかない。しかし、なかなか容易に会得できるものではないし、雲を掴むような話なので忍耐がいる。

   だが、どんな仕事やスポーツでもコツコツと毎日積み上げていくしかないのだから、まして超能力などというノウハウのないスキルを習得するのは、自分で試行錯誤を繰り返すほかないのだった。

   あとは、まあ絶対できると信じることだろう。これもまた、新しい技を習得するとか、自己記録を更新するアスリートにはあたりまえのことで、絶対できるという強いメンタル、そして、できている自分を強く心の中でトレースする、イメトレは言うに及ばず重要だ。

   実は、驚くべきことに脳は実際に行ったことと、鮮明にイメージしたことを区別できないらしい。なので未だ結果がついてこないケンもアスリートを見習って頑張るしかないなと思うのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...