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魔王編
コミューン
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ユタカは、ケンジとリカをドワーフの村に連れてきた。村といっても数名しかいないのだが。
ユタカ自身もここで生まれ育ったわけではなく、流れ流れてここにたどり着いたというわけだった。
ケンジとリカは、なぜかホッとした。生まれ故郷である日本の原風景とは異なるはずなのに、そこにある緑豊かな山と森と大地や川はふたりの気持ちを和ませる何か不思議な力を持っていた。
転移してからこっち、気が緩むことなくのんびりと過ごしていた学生生活のことなど夢のことのようで、まさに戦場に丸裸で放り出された何も知らない民間人のように過酷な日々の連続だった。
ユタカは、とにかく腹の空いているふたりに食べ物を与えた。
それは、ナゾの肉だったがケンジとリカは、何のためらいもなく肉の塊にかぶりついた。
ケンジは、なぜか昔読んだ異国の地での紀行文だかで、現地のタクシーの運ちゃんに筆者が、そこら中に咲き誇っている赤い扇情的な花の名前を尋ねたところ、「赤い花には名前などない、ただの赤い花だ」と言われという一節を思い出した。
つまり。ナゾ肉はナゾ肉でしかない、それがすべてだ。味は鶏肉よりは豚に近いといえばいいだろうか。
あとは、何やら黒いパンらしきもの。いや、食べてみたらまさにパンのそれだった。ということは、小麦も作っているのだろうか。
ふたりは、一週間ほどだろうか、まともに食べてはいなかった。わけのわからないそこらへんに生えている草を食べたり、見たこともない果実を齧ってみたり地べたに這いつくばるようにして湧き水を飲んで生き延びてきた。
ここは、地球のどこかなのか、あるいはまったく別な知らない星なのか、それともゲームの世界に入り込んでしまったのか、なんて最初の頃は考えてもいたが、もうそんな事はどうでもよくなった。
とにかく、ここがどこであれ生き延びていくしかないのだ。一緒に転移してきたクラスメイトは、ほぼ全滅したと思ってまず間違いないだろう。
原因があって結果があるのだから、必ずこうなる原因があったはずだ。それがなんなのかは皆目見当もつかないけれど、それに巻き込まれてしまったのではないか。ケンジはそう考えていた。
お腹がいっぱいになると、石器時代のほら穴のような住まいのなかで、リカと抱き合いながら、いつのまにかケンジは眠ってしまった。
◯
ここでは、自分の身は自分で守らなくてはならない。むろん、死にたくなければの話だが。
みな多分、以前はヒトだったのだろうが、ある時を境にミュータントが生まれはじめたのだ。
そして、それらとはまた別に、ヒトとしてこの世に生を受けた者たち、旧人類もある程度は自分が好ましい思われる姿形へと徐々にメタモルフォーゼしていくのが、ここらあたりでは普通だった。
ここらあたりとは、このシマでということであり、このシマのなかにも小さなコミューンが100近くあるのだから、シマの外はそれこそ無数の生き物が存在し、その生態系の頂点には想像を絶するような、身の毛もよだつモンスターがいると思われていた。
この小さなコミューンにはドワーフみたいなのにメタモルフォーゼしている連中は全部で十一人いて、そのなかでもユタカは、ハンスと呼ばれているやつといちばん仲がよかった。
むろん彼らは、はじめから十一人いたわけではなく、放浪しているうちに、ひとりまたひとりと増えてきたらしい。
いまは、洞窟を卒業して藁葺きというか、尾花(ススキ)の掘っ建て小屋を塒にしているが、ここに流れつく前には、まったくのボヘミアンで、足の向くまま、気の向くまま転々としてきたのだ。
とてつもなく大きな新月がふたつ、砂漠の上にちょうど横たわるようにして浮いていた。いつ見てもその威容にユタカは畏怖の念を覚えるのだった。
ときどき頭に浮かぶイメージが、自分のかつて見た夢なのか、映画だったのか、あるいは小説なのか錯綜してしまってわからないことがユタカにはよくある。
なんかそれらは、常に甘美な思い出というか、くすぐったいような感覚をともなって眼前に起ち現れてくる。
でも、むろんそれは鮮明なイメージとして甦ってくるのではない。紗がかかったような、薄いモザイクがかかったようなほんとうに曖昧な微かな香りのように、仄かに匂い起つのだった。
だから、なおさら甘美に思われるのかもしれない。見えそうで見えない遠いイメージは、掴もうとすればするほど遠退いてゆく。
近づいてきたかと思うとまたすぐに、するりと身をかわして逃れて行ってしまう。そして、それよりも更に曖昧で甘美な思い出がふわりと舞い降りてくることがある。
それは、イメージですらなくその輪郭さえつかめない、ただの記憶なのだ。だが、確かな記憶の戸籍として鮮明に甦り、脳のある部分(記憶中枢?)を占有して再生が試みられるものの、そこには記憶のコアらしきものがあっても所詮コードであって、ユタカにもとうてい読み取れるものではない。
なにかとっても優しい心温まるような、というか、とってもウキウキするような、胸がちくちく痛むような、そんな恋の訪れの予感みたいな本当に甘美な記憶として、その記憶の形骸だけが心にひっそり降りてくる。
ユタカ自身もここで生まれ育ったわけではなく、流れ流れてここにたどり着いたというわけだった。
ケンジとリカは、なぜかホッとした。生まれ故郷である日本の原風景とは異なるはずなのに、そこにある緑豊かな山と森と大地や川はふたりの気持ちを和ませる何か不思議な力を持っていた。
転移してからこっち、気が緩むことなくのんびりと過ごしていた学生生活のことなど夢のことのようで、まさに戦場に丸裸で放り出された何も知らない民間人のように過酷な日々の連続だった。
ユタカは、とにかく腹の空いているふたりに食べ物を与えた。
それは、ナゾの肉だったがケンジとリカは、何のためらいもなく肉の塊にかぶりついた。
ケンジは、なぜか昔読んだ異国の地での紀行文だかで、現地のタクシーの運ちゃんに筆者が、そこら中に咲き誇っている赤い扇情的な花の名前を尋ねたところ、「赤い花には名前などない、ただの赤い花だ」と言われという一節を思い出した。
つまり。ナゾ肉はナゾ肉でしかない、それがすべてだ。味は鶏肉よりは豚に近いといえばいいだろうか。
あとは、何やら黒いパンらしきもの。いや、食べてみたらまさにパンのそれだった。ということは、小麦も作っているのだろうか。
ふたりは、一週間ほどだろうか、まともに食べてはいなかった。わけのわからないそこらへんに生えている草を食べたり、見たこともない果実を齧ってみたり地べたに這いつくばるようにして湧き水を飲んで生き延びてきた。
ここは、地球のどこかなのか、あるいはまったく別な知らない星なのか、それともゲームの世界に入り込んでしまったのか、なんて最初の頃は考えてもいたが、もうそんな事はどうでもよくなった。
とにかく、ここがどこであれ生き延びていくしかないのだ。一緒に転移してきたクラスメイトは、ほぼ全滅したと思ってまず間違いないだろう。
原因があって結果があるのだから、必ずこうなる原因があったはずだ。それがなんなのかは皆目見当もつかないけれど、それに巻き込まれてしまったのではないか。ケンジはそう考えていた。
お腹がいっぱいになると、石器時代のほら穴のような住まいのなかで、リカと抱き合いながら、いつのまにかケンジは眠ってしまった。
◯
ここでは、自分の身は自分で守らなくてはならない。むろん、死にたくなければの話だが。
みな多分、以前はヒトだったのだろうが、ある時を境にミュータントが生まれはじめたのだ。
そして、それらとはまた別に、ヒトとしてこの世に生を受けた者たち、旧人類もある程度は自分が好ましい思われる姿形へと徐々にメタモルフォーゼしていくのが、ここらあたりでは普通だった。
ここらあたりとは、このシマでということであり、このシマのなかにも小さなコミューンが100近くあるのだから、シマの外はそれこそ無数の生き物が存在し、その生態系の頂点には想像を絶するような、身の毛もよだつモンスターがいると思われていた。
この小さなコミューンにはドワーフみたいなのにメタモルフォーゼしている連中は全部で十一人いて、そのなかでもユタカは、ハンスと呼ばれているやつといちばん仲がよかった。
むろん彼らは、はじめから十一人いたわけではなく、放浪しているうちに、ひとりまたひとりと増えてきたらしい。
いまは、洞窟を卒業して藁葺きというか、尾花(ススキ)の掘っ建て小屋を塒にしているが、ここに流れつく前には、まったくのボヘミアンで、足の向くまま、気の向くまま転々としてきたのだ。
とてつもなく大きな新月がふたつ、砂漠の上にちょうど横たわるようにして浮いていた。いつ見てもその威容にユタカは畏怖の念を覚えるのだった。
ときどき頭に浮かぶイメージが、自分のかつて見た夢なのか、映画だったのか、あるいは小説なのか錯綜してしまってわからないことがユタカにはよくある。
なんかそれらは、常に甘美な思い出というか、くすぐったいような感覚をともなって眼前に起ち現れてくる。
でも、むろんそれは鮮明なイメージとして甦ってくるのではない。紗がかかったような、薄いモザイクがかかったようなほんとうに曖昧な微かな香りのように、仄かに匂い起つのだった。
だから、なおさら甘美に思われるのかもしれない。見えそうで見えない遠いイメージは、掴もうとすればするほど遠退いてゆく。
近づいてきたかと思うとまたすぐに、するりと身をかわして逃れて行ってしまう。そして、それよりも更に曖昧で甘美な思い出がふわりと舞い降りてくることがある。
それは、イメージですらなくその輪郭さえつかめない、ただの記憶なのだ。だが、確かな記憶の戸籍として鮮明に甦り、脳のある部分(記憶中枢?)を占有して再生が試みられるものの、そこには記憶のコアらしきものがあっても所詮コードであって、ユタカにもとうてい読み取れるものではない。
なにかとっても優しい心温まるような、というか、とってもウキウキするような、胸がちくちく痛むような、そんな恋の訪れの予感みたいな本当に甘美な記憶として、その記憶の形骸だけが心にひっそり降りてくる。
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