58 / 73
魔王編
消えたリカ
しおりを挟むフエは、ユタカとケンジと合体すると一気に上空へと移動した。反重力を利用しているので、飛翔というよりも移動という感じだ。
そして、上空のある一点で静止しながら会話した。
「それで、どうする?」とフエ。
「とりあえず、コミューンに戻りたい」
「早くリカに会いたい」とケンジ。
「ok! じゃ、ユタカどっちの方角?」
「あの山の向こうだよ」と、ユタカはくるりと身を翻し、それほど高くはない山を指差した。
「わかった。とりあえずあの山の真上まで移動するから」といった次の瞬間にはもう山の真上の上空にいた。
ケンジは高いところがダメなので、一切何もない宙空に浮かんでいる自分が自分でないような、へんな感じがした。
それは、具体的に言うと心と身体がバラバラになりそうな変な感覚で、お尻のあたりがムズムズし背中がゾワゾワした。
「ほら、あそこに見える!?」
ユタカはコミューンのある場所を指差しそう言ったものの、何か様子がおかしい。もともとちっぽけな掘っ建て小屋が幾つかあっただけだが、それが、影も形もない。
そこは、敵から身を守るためにいわば自然の要塞を利用し、背後から攻められることがないように、絶壁を背にしている谷底の一角にあった。
切り立つ絶壁の威容に、ほとんどの者は衝撃を受けるが、天辺のオーバーハングしている白い一枚岩と相俟って誰が言い出したのかはわからないが、いつしかその絶壁は死に損ないの糸切り歯という名で呼ばれるようになっていた。
遠目にはそこには、小屋の残骸すらなく跡形もなくユタカたちの生活の痕跡は消えているように見えた。
フエはすぐさまそこに移動し、空爆を受けたかのように根こそぎ消えてしまった元コミューンがあったという場所に降り立った。
変異したドワーフたちも、エルフもいない。飼っていた様々な動物たちもいない。
ケンジは、リカを捜したが一緒に暮らしていた横穴にもどこにもリカはいなかった。
「リカー! リカー!」血声のようなケンジのリカを呼ぶ声が虚しくあたりに響くばかり。
「ユタカ、どういうことなんだよ」
「たぶん、襲撃されたんだろうな」
「でも、跡形もないってなにさ? 焼き討ちにあったとかでも焼け跡に残骸とか痕跡があるもんだよね?」
「だよなぁ」とユタカ。
「つまり、ここの空間を直方体みたいな感じで切り取って、どこかに移動した、みたいな?」とフエ。
「そんな羊羹切るみたいなことできるわけ? そしたら切られてなくなった羊羹の部分は、何もないはずじゃ?」
「そうなんだよね。じゃあ、実際は全然ふだんと変わりなく生活しているんだけれど、不可視になってるとか」
「なんやのそれ?」とユタカ。
「まあ、いわゆるひとつの魔法ってやつでしょ。ここら辺一帯を擬似亜空間にしてしまったんじゃないかな? だからこちらからも、あちらからも見えない」
「生き物だけ次元の違う亜空間に移動してしまう魔法か」
「もしくは透明マントを着てるとか? そうだったらうれしいんだけど」とケンジ。
「なんでわざわざそんなもん着るんだよ、ヤギとかウサギとかも透明マントかい」
「リカー、もう出ておいでよー、鬼ごっこは終わりだよ~」
「リカ~! リカ~!」ケンジの声が谷底に木霊する。
「ケンジ、気持ちはわかるけどそんなんしても虚しくなるだけやろ。ま、こうなったらドワーフやエルフのみんなや、リカを絶対捜し出さなあかんな」
「そうなの? じゃマジにリカ攫われたってこと?」半泣きのケンジ。
「まあ。事実上はね、そうなるのかもだけど、とにかくこの事態を受け容れるしかないだろ。メソメソしてもはじまんないぞ」
「捜すったって、どんな理由があるのか、どんな相手なのか、まるっきりわからないんだから、手がかりゼロじゃん」
「それがそうではないかもよ?」
「なんでさ、フエちゃん、何か思い当たることあるの?」
「なんかね、たぶんだけど。こんなわけわかんない魔法を使うやつらは、あまりいないからさ」
フエがケンジにそう言った。
「そうなんだ? やっぱ魔族とか」
「それはそうなんだけど、魔族にもいろいろ種族があるからさ、でもこれはきっと西のやつらの仕事だと思う」
「西?」
「西のエリアに強大な魔王がいるらしいんだよ。その魔王が関連してるんじゃないかなと思うんだよね」とフエ。
「その根拠は?」
「いや。ナッシング。ただの直感」
「ふーむ。直感ね」と腕組みしながら半信半疑のユタカ。
「でもね」とフエはさらに続ける。
「このやり方。ユタカたちにとって小さいけれど温もりを感じることのできる唯一の場所だったんだよね? そのコミューンをそっくり消してしまった。ただの小物ならせいぜい焼き討ちくらいが関の山。それが、一切の痕跡を残さないという実にスマートな、だからこそ実に冷徹なやり方。これをやるのはあの魔王だとしか思えないんだよ」
「まあ。魔王ってのはいずれにせよ皆一様に非道なものだけどね、フエがそういうんなら、そうなのかもな」
「でも、そうだとしてその西の国へ行くにはどうしたらいいの?」とケンジ。
「そりゃ、フエが反重力でだな、一瞬にして」
「いや、それがさ西の国だけはどこからも侵入できないって聞いてる」
「マジ? 結界みたいなものか?」
「だね、それだけその魔王が強大ってことだよ」
「なら、どうすんのさ」とケンジ。
すると、したり顔でフエが言った。
「まあ、手はないこともないよ。ボクが間違ってなければだけどね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる