パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#43 アキラくん

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*月*日

   もう何回逝ったのかさえ憶えていなかった。
 思い出したように快感のうねりがやってきて、お腹の筋肉がブルブルと震える。

 アキラくんが床で唸りをあげている。
 窓から入ってくる風でうっすらと涙ぐんでいる目が涼しい。

 ひとりでするときは必ず全裸になってしまう。快感をひとつといえども逃したくはないからだろうか。

 とにかく着衣のままだと集中できなかった。なんだろう?   身体を起こしてベッドからおり窓に向かう。

 夏でもないのに陽炎みたいに空気が揺れているように見えた。

 見ると対岸で、不思議な光が見えた。
 あの光源はライトではない。
 たぶん、何かを溶接しているのではないかと思った。

 作業している人物がやっと分かる程度だから、手元のトーチが見えるはずもなかったけれど、あの青白く発光する光は、溶接だろう。

 と、そこで一糸纏わぬ全裸であることを思い出し、慌てふためいてペタリと床に座り込んだ。

 恥ずかしさで頬が火照っている。
 完全に見られたと思った。
 それも全裸を。

 腰から下は窓枠の下だから見られてはいないものの、気分的には全裸を見られたことと寸分違わない。

 おそるおそる窓から目だけ出して、外の様子を窺ってみる。

 とうとうと流れる川と、のどかな春の川辺の景色がいつもと変わらず広がっているばかりだった。

 誰も見ているものなどいない。
 見られたと思って、ひとりで騒いだのが、恥ずかしかった。

 そして、自分一人で勝手に恥ずかしがって慌てふためいていたことにムカツいた。
 お尻を突き出した格好で、ベッドの方へ這っていく。

 女豹のようなしなやかな身ごなしで、腰を振りながら。

 火照りは消えない。
 馬鹿みたいだった。
 そして……。
 そうだ! と思った。

 絶対度肝を抜かさせてやる。
 このままじゃ気がすまない。
 どうせ誰も気付かないんだから、思いっきりやってやる。

 気付いたところで遠すぎて何も見えやしないんだし。テーブルを窓のところまで運んで壁に押し付ける。

 アンティークな猫足がかわいい、アールデコ調のお気に入りのテーブルだ。
 もともとはミシン台らしい。

 ちょっと風が冷たくなってきたのでキャミソールだけ着た。下は、スッポンポン。
 テーブルに上がって体育座りする。

 右手にはアキラくん。
 そして。
 はじめた。

 花弁に中指と人差し指を置き、ぱっくりと開いてみせた。
 嫁入り前の花も恥らう薔薇の花弁。

 蜜を湛えた、その可憐な佇まいは、ほんものの花かと見紛うほどだった。肉色の花弁の奥には、幾千幾万もの濡れ光るピンクの襞が、びっしりと連なり、奥へ奥へと無限に続いているのだ。

 アキラくんのスイッチを入れると、アキラくんは、頭をくねらせながらすぐに花弁のありかを探しはじめる。

 これはほんとうに不思議だった。
 嘘だと思ったら是非あなたもやってみてほしい。

 ショーツを脱いで、剥き出しにした花弁の前でアキラくんの電源をいれてみてほしい。アキラくんは蠕動し、身悶えするかのごとくに身をくねらせはじめるだろう。

 そして、雌しべの匂いを嗅ぎつけるや否や、ぬるりと頭を突っ込んでくる。今まさにアキラくんは、花弁を押し開き、ふかぶかと突きささるや、水を得た魚のように嬉々として私をこねくり回し続けている。

 私の奥から聞こえてくるくぐもった動作音が、たまらなくいやらしかった。思わず声を洩らしてしまう。

 でも、対岸で作業している人たちは誰も気付かないようだ。悔しいので更に大胆なポーズをと思って、今度は後ろを向き、お尻を高々と突き上げた。

 が、こんなにふしだらで淫靡な花弁を白日のもとにさらけ出しているというのに、何も起こらなかったし、誰も騒がなかった。

 花も恥らうヲトメの美しい花弁が、それもロハで見られるというのに実に勿体ない話だと思った。出血大サービスなのに……。

 川面を渡ってくる冷たい風が、火照った頬を優しくなぶる。

 落日前の静謐なひととき。

 ずーっと向こう、背の高い煙突の白い煙が、音もなく風に流されていく。
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