パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#62 ジルコニウムの曼珠沙華

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そのとき。

不意に後ろから、声をかけられた。


そうですか。あなたには、見えたんですね。サルベージ船が。なぜだかわからないけれども、見える人と見えない人がいるようなんですよね。それはなぜかと問われても、作者としてもわからないと答える以外にないのですが。

作者? どういうことなんですか?

いや、じつはあれ、ああみえてアート作品の、つもりなんですね。

それは、えっと。実に興味深いですね。いったいなにをサルベージしようとしているのかしら? というか、ミイラ取りがミイラになっちゃった、みたいな、とってもシニカルなジョークを感じもしますね。

そういう風に、みていただくととてもうれしいですね。

でも、見えたり、見えなかったりするというのは、またなぜなんでしょう?

ああ、それはですね。あれはまったくぼくの想像の産物なんですね。頭のなかでできた構造物を、そのまま投影しているといったわけなんです。

そうなんだ、芸術作品だったんですね。でも、ホログラムかなんかで、実体はないんですよね?

そうなんです。そんな感じですね。しかし、まれにですが、触れることができる人もいるようなのです。じゃあ、いきましょうか?

はい?

いや。見学なさりにきたのではないのですか?

見学?

ああ、ごめんなさい。ここへ他所からくる人は、滅多にいないものですからね。  地元の人間がくるわけがないし。でも、どうです、せっかくここまできたんだし、見ていきませんか?

ああ、それっていったい?

木乃伊ですよ。

ミイラ! どんなミイラなんでしょう?

原発の木乃伊です。

ははあ。なるほど、廃炉になった原発を見るってことですか?

いえいえ。掛け値なし、ほんとうの木乃伊ですよ。

え   でもミイラって、人間がなるもんじゃないんですか?

そうですね。だから、ここの原発を見る価値があるわけです。ただのどこにでもある廃炉ではないのです。

というと?

原発廃止の気運がたかまっていた当時、国内でいちばん最初に大きなデモがここで起こったんです。そして、デモがおわったあとも、五人の男女が座り込みつづけた。ハンガーストライキですね。

でも強制撤去されたんじゃないんですか? まさか、そのままたべずにミイラになっちゃったんですか?

うーんと、そこらへんは、あれなんですけどねえ。むろん、撤去されたんですけれども、そのとき、被爆してしまったわけなんですね。いや、被爆してしまったんじゃないかといわれているんです。

実際、座り込みしたその場所は、危険なところではなかったわけなのですが、強制的に場所を移動させられた彼らは、そのことによって、さらに気持ちだけは原発の中心である、原子炉内にいるつもりで、さらに座り込みつづけた、というわけなのです。

彼らは、ひとり残らずそれから十年以内に亡くなってしまったのですが、不思議なことにそのハンガーストライキがあってから五年後にここは、廃炉が決定したのですが、時代の趨勢による原子力時代の終わりとかではなく、それは、なんと、格納容器の表面に座り込みした、あの五人が、浮き出してきたからなんです。

格納容器は、ジルコニウムという二千度くらいで溶けはじめる金属で被膜されているのですが、そのジルコニウムの被膜のなかに五人の姿がくっきりと、描かれていたんですよ。曼珠沙華とともにね。


あー。そういうの、苦手なんですよね。遠慮しときます。

あ、そうですか。じゃ、ま、そういうのは抜きにして、地下をご覧にいれますよ。
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