パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#146 短小

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   ぼくが渋谷にある美術館で古書をマイクロ撮影していとときのことをちょっと思い出したので、書いてみたいと思います。






   その美術館の地下のだだっ広いコンクリート打ち抜きのフロアの奥に黒幕を張って撮影をしました。






    ぼくは油絵が趣味なので、こんな風に広いアトリエがあれば最高だななんて思いながら、撮影の準備を進めました。







   そして、そこに彼女がいたのです。彼女は顔に痣がありました。はじめてその痣を見たときには、なぜかどきどきしました。







   女性で、しかも顔に痣があるなんてほんとうにかわいそうだと思った事をよく憶えています。







   話をしていて失礼だとは思いながらも、ぼくはどうしても彼女の顔にある痣から視線をそらすことができませんでした。






   御多分に洩れず長い間空気に触れていない虫喰いだらけの古書の撮影ですので、貼り付いている頁を一枚一枚丁寧に剥がしていかなければならず、撮影は遅々としていました。







   そんなある日。作業を終えて帰ろうとしていると唐突に彼女はぼくに「抱いてください」と言うのです。これにはたまげました。







   お昼にランチをたまたま一緒に食べていた時にも、何か言いたげな表情をしているなとは思っていたのですが、そう言われた途端、まるでホラー映画を観ているような感じがしました。






   それは、違和感ではなく、デペイズメントな異和感です。
   





  そしてさらにベッドの上で一糸纏わぬ生まれたままの姿になった彼女に骨ごとバリバリ捕食されている自分が脳裏に浮かんだのです。







   そして、ぼくはマジに困ってしまいました。人助けだと思ってどうかお願いします。と彼女に懇願されればされれるほど、怖いという感情が、どうしても湧いてくるのでした。








「理由を教えてください」








  ぼくは、やっと彼女にそう言いました。







「実は、私のこの痣は、以前にはもっともっと酷かったんです。胸の辺りから首にかけて一面の赤青い痣があったんです。








   それであるとき、占い師のおばさんにみてもらったんです。そうしたら、あなたのその痣は、男の人に抱かれたら抱かれただけ綺麗になっていくでしょうといわれたんです。でも、その相手は恋人ではだめだともいうんです」








「痣が小さくなったということは、言われたとおりにしてみたら本当に小さくなったということなんですか?」








「そうなんです。でも結果的にはそうなってしまったんです」







「結果的?」








「はい。むしろ私はそんな占いを信じてはいませんでしたから。抱かれるたびに痣が消えていく、なんて聞いたこともありませんから」







「で?」









「それで、そんな占いも忘れていたんですが、ひょんなことから行きずりの男の人と出会って......」








「旅行にでも行ったんですか?」








「そうなんです。京都にひとり旅して」









「旅先で抱かれたんですね」









「は、はい」








「イッちゃったんですね?」








「まぁ。でも別に私がそう仕向けたわけでも誘ったわけでもありません。でも、むろん占いを信じたい気持ちも少なからず働いていたのは否めないかもしれません」










「それで、その後で気づいたら痣が少し消えていたということですか?」








「少しだけ薄くなっていました」








「じゃあ、とにかくそれで占いがほんとうであったことが、証明されたんですね?」









「そうです。それで、それからよくひとり旅に行くようになって、ここまで痣が消えたんです。なので、人助けだと思って抱いてください」









「まぁ、そういうことならばですね、ぼくとしても据え膳食わぬは男の恥とか言いますし」









「よかった!   じゃお願いします」









「まあね、Hすることに吝かではないんですが、じ、実はですね、ぼくは、女性の人とそういったことをした事がないんです」









「えー!   いわゆる童貞という?」










「いや、ぶっちゃけてしまうと、ぼくは女性には興味がなくてですね......」



 





「あー。友達にいます。でも自分の考えているセクシュアリティって案外違ってたりしますよ?  ノンケだと思ってた男性がある事をきっかけにして同性を好きになってしまったりとかザラにありますから」








「そうなんだ!」



 





「そう。なので女性を知ったらあなたも変わるかもですよ?」








「なるほど」









「じゃあ、そういうことで善は急げで、今夜お願いします」









   そんなこんなで素面で抱くわけにもいかず、喫茶店を出て居酒屋で軽く一杯ひっかけた。










   円山町のラブホなら知っていたので、道玄坂から右に折れて坂道を上っていく。









「あの、もうひとつ心配といえば心配なことがあるんですが?」



 





「はい?  大丈夫ですって。私こう見えてテクニシャンなんです」


 






「いや、やっぱり勃たなかった、とかいうのを心配してるんじゃなく」


 






「避妊はちゃんとしてくださいね」



 






「それはそうなんですが。実はぼくかなり......」










「あー、そんなこと心配してたんですか?  大丈夫ですって。 やっぱり男性の方は、サイズを気にしますよね。大丈夫です、私全然気にしませんから、むしろ大きいと怖いです、壊されそうで」











「そうですよね、いや、なのでやはり今回はなかったということで」











「えー!   何言ってるんですか?  やってみなきゃわからないじゃないですか?  パンセクシュアルかもしれませんよ?」


 







「いや。そっちの方じゃなく。サイズが」










「もう。うじうじしてるのは女性に一番嫌われますよ、サイズなんて関係ありませんから。小さくてもいいじゃない」

 






「いや、小さくはないんですよ」



 






「は?  はい?  じゃ?」


















「すいません。30cm弱、29センチくらいかな」










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