パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#148 弾かないギタリスト

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*月*日


   ギターを弾かないギタリストのコンサートに行ってきた。

   ジョン・ケージの『4分33秒』は、失敗だった。目の不自由な方が観るビデオには音声ガイダンスが入る。

   4分33秒のビデオには、30秒ごとに「ピアノの前にピアニストが座っています」という音声が流れてしまい、無音ではないからだ。

   ひどいのになると、「ピアノの前に男の人が座って難しい顔をして鍵盤を見つめています、もしかしたらこの男の人は単にピアノが弾けないのかもしれません」であるとか、「ピアノの前にある椅子に座る男の人は、目の前にあるピアノが楽器であるのかさえ、わからないようです。ピアノの鍵盤の蓋は閉じられたままです」とか流れるらしい。

   実際に聞いたことはないので、勝手に想像しているだけだが。

  それで。

  今日、私が観て来たコンサートは、いろいろなバリエーションがあって驚いた。

  緞帳が上がり、真っ暗なステージに僅かな光がさしはじめると、椅子に座り後ろ手に両手を縛られたギタリストが、設置されたギターの前で一生懸命縄をほどこうと、ずっともがいていた。

   ギタリストはなぜか縄だけでなく猿轡もされていて、そのわけのわからなさは圧巻だった。

   暗転し、次のステージでは、ギタリストは縛られてはおらず、両手が自由に使えるのだが、ギターからなぜか音がまったく聞こえてこない。

   よく見てみると、弦が張ってないギターを涼しい顔して弾いているのだった。
華麗なアルペジオや豪快なコードストロークはまったく聞こえない。

   ステージは、その曲の後さらに暗転。
再び明るくなってくると、そこにはギタリストとピアニストが座っていた。

   合奏をするらしい。

   だが、私は不意に睡魔に襲われてしまい、眠りこけてしまった。再び目が覚めた時には、ステージはおろか、客席にも誰ももういなかった。

   私は焦って立ち上がり、出口に向かおうと歩きだしたその直後、背後からまるで押されるかのように圧倒的な音の壁がぶつかって来て、つんのめった。


おわり。
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