パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#207 鬼キャン

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 俺の自慢の86は、正面からみるとタイヤがハの字に見えるネガティブキャンバーだ。









 ネガティヴキャンバーは、タイヤが下に向かって「ハの字」に広がった角度になるため、踏ん張っているように見える。だから、どん臭いようにも見えるが、実はもともとはモータースポーツで採用されたものであり、コーナーで速く走るために、最初から角度をつけたのが始まりといわれている。











 サーキットのコーナーを曲がるとき、遠心力によって右コーナーならば左側のタイヤは外側に、右側のタイヤは内側部分に荷重が集中するが、より十分なグリップカを得るため、最初からコーナリングで最適な角度(キャンバー角)に設定することで、旋回スピードが上がりタイムアップにつながるというわけだ。










 いにしえの、あの『頭文字イニシャルD』の拓海がパンダトレノのAE86で、路肩の溝にタイヤを引っ掛けてグリップし、旋回スピードをあげた、例のアレだ。










 しかし、とにかくタイヤの角度を過度につけた鬼キャンは、タイヤの摩耗が激しくて仕方ない。ボンビーなオレに高いタイヤをホイホイ替えられるわけもないのだった。









 で、ドライバーが手元でキャンバー角を可変できるようにできないのかとずっと考えていた。それが可能ならば、車検のたびにいちいちヤキモキ、ヒヤヒヤしなくていい。











 ただ、聞いたところによると、タイヤの中心部から前方30度、後方50度の範囲においてタイヤの回転部分(タイヤ、ホイール、ナットなど全部分)がフェンダーからはみ出していなければ鬼キャンであっても一応車検には通るらしい。知らんけど。



 








 そうこうするうちに、ランボルギーニが、走行中にキャンバー角とトー角を連続可変させるデバイスを開発しているということを知り、それを顔見知りの自動車修理工場のおっちゃんに実現可能なのか訊いてみた。

 






 すると、おっちゃんは、こう言った。








「その技術における問題はハードウェアではないな。難関は、ハブをスタビリティコントロールやアクティブエアロダイナミクスといった他のソフトウェアシステムと協調動作させるという制御面だ」


 




 オレにはチンプンカンプン。









「つまりだな、EVの時代になり高い電気駆動システムが装備されるようになって、はじめて可能性が見えてきた、というわけだ」









 「おっちゃん、オレの86バカにしてんちゃうやろな?」










「バカたれ、人の話を聞いてねーのか、そもそも大きなバッテリーを積んでないガソリン車じゃ実現不可能。考える事じたい意味をなさない技術なんだよ、アホがよー」







 それでもオレは食い下がり、








「じゃあさ、じゃあさ、リモートの鬼キャンは、諦めるけど、200mmのオーバーフェンダーを可変式にしてほしいんやけど?」









 と、おっちゃんに頼んでみたが、無言で頭をはたかれた。










 向こうに行きかける、おっちゃんの背中に、











「おっ、おっちゃん、ひ、ひどいやんか、おっ、おっちゃん、オレのことは嫌いでも、86のことは嫌いにならないでください😭」












おっちゃんは、くるりと振り向いて、


 









「いやいや。前田敦子か~~い!」

















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