28 / 127
第二章 秘められた悪意
べトフォードの涙
しおりを挟む
エフェルローンが宙を凝視すること数秒。
ルイーズが突如、何かを思い出したかのようにポンと手を合わせると、乱雑に重ねられた資料の中から縒れた茶封筒をエフェルローンに差し出してこう言った。
「あのう、遅くなっちゃったんですけど。今日、遺留品管理室から帰る途中でキースリー……さんの秘書の方から渡されたものです」
おずおずと茶封筒を差し出すルイーズに、エフェルローンは剣呑な視線を向けるとこう言った。
「お前、そんな大事なものを今まで放置していたのか?」
「ご、ごめんなさい……」
「貸せ!」
そう言って、差し出された茶封筒を怒りに任せ取り上げると。
エフェルローンは、乱暴に中身を取り出し内容を確認する。
中には、追加の捜査資料が一枚。
「被害者の詳しい背景か……」
エフェルローンはそう言って片手を顎に添えると、資料の内容を読み上げていく。
「被害者、グラハム・エイブリー。性別男。年齢四十四歳。出身地ベトフォード。[爆弾娘]処刑賛成派組織[べトフォードの涙]に所属する熱心な活動家であり、腕の立つジャーナリスト。つい最近まで追っていたネタは―—[爆弾娘事件]?」
べトフォードに[爆弾娘事件]――事件の点が繋がり始める。
ルイーズが、ふと思い出したようにこう言った。
「[爆弾娘事件]って、確か、数日前に解決しましたよね? 事件の判決内容に何か思うところでもあったのでしょうか。ベトフォード出身の方のようですし……」
そう語尾を濁すと、ルイーズは複雑な表情で顎に手をやり、そのまま視線を手元の捜査資料に落とす。
「ベトフォード出身のジャーナリストか……」
エフェルローンは深いため息を吐くと、椅子に深くもたれ掛かった。
ベトフォード出身のジャーナリストで、しかも[べトフォードの涙]に所属し、個人的に[爆弾娘事件]を追っていたということは、この男、ルイーズの言っている通り、つい最近判決が出た[爆弾娘事件]に何かしら思うところがあったのだろうと推測できる。
そうなると、今回出た[爆弾娘]の判決――[推定無罪]は、彼にとって相当腹立たしい内容だったに違いない。
そこで、腕の立つジャーナリストの彼は思い立つ。
[爆弾娘]を確実に有罪にできる新たな証拠を見つけようと。
そして彼は、見つけたのかもしれない。
[爆弾娘]を有罪に出来るネタを。
しかし彼は、そのネタを世に流布する前に殺されてしまう。
殺された彼の下には一枚のメモ紙。
――青銅も銀も駄目だ。確実にやるなら金だ。
「『確実にやるなら[金]だ』……[金]か、きん……カネ」
――カネ?
そうなると、この文章の意味も変わってくる。
――確実にやるなら、金だ。
[爆弾娘]を殺す暗殺者でも雇うつもりだったのだろうか。
だが、その推理には限界がある。
メモにあったもうひとつの文章――『[青銅]と[銀]も駄目だ』の意味に繋がらない。
やはり、[金]は[金の魔痕跡]のことなのだろう。
ということは、『確実にやるなら[金]』とはどういう意味なのだろうか。
「金の魔魂石で何かをするつもりだったのは確かだ、ただ――」
――一体、何を?
被害者が[べトフォード出身]で、[べトフォードの涙]に所属していることが分かった時点で、金目当ての殺害の線は薄くなった。
その代わり、新たな線がひとつ見えてくる。
――[べトフォードの涙]内の抗争。
被害者グラハム・エイブリーが調べていた[爆弾娘事件]で、何か不都合な真実が発覚した。
それで、被疑者グラハム・エイブリーは自分の仲間から殺されることになってしまった。
それに[べトフォードの涙]には、血生臭い噂が後を絶たないのも事実である。
実際、人権擁護団体[爆弾娘の罪を晴らす会]の会長を襲撃、殺人未遂を起こしたという経歴もある。
――あり得なくはない、か。
「…………」
虚空を睨みつけ、むっつりと黙り込むエフェルローンに、ルイーズは心配そうな眼差しを向けるのであった。
ルイーズが突如、何かを思い出したかのようにポンと手を合わせると、乱雑に重ねられた資料の中から縒れた茶封筒をエフェルローンに差し出してこう言った。
「あのう、遅くなっちゃったんですけど。今日、遺留品管理室から帰る途中でキースリー……さんの秘書の方から渡されたものです」
おずおずと茶封筒を差し出すルイーズに、エフェルローンは剣呑な視線を向けるとこう言った。
「お前、そんな大事なものを今まで放置していたのか?」
「ご、ごめんなさい……」
「貸せ!」
そう言って、差し出された茶封筒を怒りに任せ取り上げると。
エフェルローンは、乱暴に中身を取り出し内容を確認する。
中には、追加の捜査資料が一枚。
「被害者の詳しい背景か……」
エフェルローンはそう言って片手を顎に添えると、資料の内容を読み上げていく。
「被害者、グラハム・エイブリー。性別男。年齢四十四歳。出身地ベトフォード。[爆弾娘]処刑賛成派組織[べトフォードの涙]に所属する熱心な活動家であり、腕の立つジャーナリスト。つい最近まで追っていたネタは―—[爆弾娘事件]?」
べトフォードに[爆弾娘事件]――事件の点が繋がり始める。
ルイーズが、ふと思い出したようにこう言った。
「[爆弾娘事件]って、確か、数日前に解決しましたよね? 事件の判決内容に何か思うところでもあったのでしょうか。ベトフォード出身の方のようですし……」
そう語尾を濁すと、ルイーズは複雑な表情で顎に手をやり、そのまま視線を手元の捜査資料に落とす。
「ベトフォード出身のジャーナリストか……」
エフェルローンは深いため息を吐くと、椅子に深くもたれ掛かった。
ベトフォード出身のジャーナリストで、しかも[べトフォードの涙]に所属し、個人的に[爆弾娘事件]を追っていたということは、この男、ルイーズの言っている通り、つい最近判決が出た[爆弾娘事件]に何かしら思うところがあったのだろうと推測できる。
そうなると、今回出た[爆弾娘]の判決――[推定無罪]は、彼にとって相当腹立たしい内容だったに違いない。
そこで、腕の立つジャーナリストの彼は思い立つ。
[爆弾娘]を確実に有罪にできる新たな証拠を見つけようと。
そして彼は、見つけたのかもしれない。
[爆弾娘]を有罪に出来るネタを。
しかし彼は、そのネタを世に流布する前に殺されてしまう。
殺された彼の下には一枚のメモ紙。
――青銅も銀も駄目だ。確実にやるなら金だ。
「『確実にやるなら[金]だ』……[金]か、きん……カネ」
――カネ?
そうなると、この文章の意味も変わってくる。
――確実にやるなら、金だ。
[爆弾娘]を殺す暗殺者でも雇うつもりだったのだろうか。
だが、その推理には限界がある。
メモにあったもうひとつの文章――『[青銅]と[銀]も駄目だ』の意味に繋がらない。
やはり、[金]は[金の魔痕跡]のことなのだろう。
ということは、『確実にやるなら[金]』とはどういう意味なのだろうか。
「金の魔魂石で何かをするつもりだったのは確かだ、ただ――」
――一体、何を?
被害者が[べトフォード出身]で、[べトフォードの涙]に所属していることが分かった時点で、金目当ての殺害の線は薄くなった。
その代わり、新たな線がひとつ見えてくる。
――[べトフォードの涙]内の抗争。
被害者グラハム・エイブリーが調べていた[爆弾娘事件]で、何か不都合な真実が発覚した。
それで、被疑者グラハム・エイブリーは自分の仲間から殺されることになってしまった。
それに[べトフォードの涙]には、血生臭い噂が後を絶たないのも事実である。
実際、人権擁護団体[爆弾娘の罪を晴らす会]の会長を襲撃、殺人未遂を起こしたという経歴もある。
――あり得なくはない、か。
「…………」
虚空を睨みつけ、むっつりと黙り込むエフェルローンに、ルイーズは心配そうな眼差しを向けるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
現代ダンジョン奮闘記
だっち
ファンタジー
15年前に突如としてダンジョンが登場した現代の地球。
誰が何のために。
未だに解明されていないが、モンスターが落とす魔石はすべてのエネルギー源を代替できる物質だった。
しかも、ダンジョンでは痛みがあるが死なない。
金も稼げる危険な遊び場。それが一般市民が持っているダンジョンの認識だ。
そんな世界でバイトの代わりに何となくダンジョンに潜る一人の少年。
探索者人口4億人と言われているこの時代で、何を成していくのか。
少年の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる