正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

べトフォードの涙

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 エフェルローンが宙を凝視すること数秒。
 ルイーズが突如、何かを思い出したかのようにポンと手を合わせると、乱雑に重ねられた資料の中かられた茶封筒をエフェルローンに差し出してこう言った。

「あのう、遅くなっちゃったんですけど。今日、遺留品管理室から帰る途中でキースリー……さんの秘書のかたから渡されたものです」

 おずおずと茶封筒を差し出すルイーズに、エフェルローンは剣呑な視線を向けるとこう言った。

「お前、そんな大事なものを今まで放置していたのか?」 
 「ご、ごめんなさい……」
「貸せ!」

 そう言って、差し出された茶封筒を怒りに任せ取り上げると。
 エフェルローンは、乱暴に中身を取り出し内容を確認する。

 中には、追加の捜査資料が一枚。

「被害者の詳しい背景か……」

 エフェルローンはそう言って片手を顎に添えると、資料の内容を読み上げていく。

「被害者、グラハム・エイブリー。性別男。年齢四十四歳。出身地ベトフォード。[爆弾娘リズ・ボマー]処刑賛成派組織[べトフォードの涙]に所属する熱心な活動家であり、腕の立つジャーナリスト。つい最近まで追っていたネタは―—[爆弾娘リズ・ボマー事件]?」

 べトフォードに[爆弾娘リズ・ボマー事件]――事件の点が繋がり始める。

 ルイーズが、ふと思い出したようにこう言った。

「[爆弾娘リズ・ボマー事件]って、確か、数日前に解決しましたよね? 事件の判決内容に何か思うところでもあったのでしょうか。ベトフォード出身のかたのようですし……」

 そう語尾を濁すと、ルイーズは複雑な表情で顎に手をやり、そのまま視線を手元の捜査資料に落とす。

「ベトフォード出身のジャーナリストか……」

 エフェルローンは深いため息を吐くと、椅子に深くもたれ掛かった。

 ベトフォード出身のジャーナリストで、しかも[べトフォードの涙]に所属し、個人的に[爆弾娘リズ・ボマー事件]を追っていたということは、この男、ルイーズの言っている通り、つい最近判決が出た[爆弾娘リズ・ボマー事件]に何かしら思うところがあったのだろうと推測できる。

 そうなると、今回出た[爆弾娘リズ・ボマー]の判決――[推定無罪]は、彼にとって相当腹立たしい内容だったに違いない。
 そこで、腕の立つジャーナリストの彼は思い立つ。

爆弾娘リズ・ボマー]を確実に有罪にできる新たな証拠を見つけようと。
 
 そして彼は、見つけたのかもしれない。
 [爆弾娘リズ・ボマー]を有罪に出来るネタを。

 しかし彼は、そのネタを世に流布する前に殺されてしまう。
 
 殺された彼の下には一枚のメモ紙。

――青銅も銀も駄目だ。確実にやるなら金だ。

 「『確実にやるなら[金]だ』……[金]か、きん……カネ」

――カネ?

 そうなると、この文章の意味も変わってくる。
 
――確実にやるなら、カネだ。

 [爆弾娘リズ・ボマー]を殺す暗殺者でも雇うつもりだったのだろうか。

 だが、その推理には限界がある。
 メモにあったもうひとつの文章――『[青銅]と[銀]も駄目だ』の意味に繋がらない。

 やはり、[きん]は[フリソスの魔痕跡]のことなのだろう。

 ということは、『確実にやるなら[金]』とはどういう意味なのだろうか。
 
「金の魔魂石で何かをするつもりだったのは確かだ、ただ――」

  ――一体、何を?

 被害者が[べトフォード出身]で、[べトフォードの涙]に所属していることが分かった時点で、金目当ての殺害の線は薄くなった。
 その代わり、新たな線がひとつ見えてくる。
 
――[べトフォードの涙]内の抗争。

 被害者グラハム・エイブリーが調べていた[爆弾娘リズ・ボマー事件]で、何か不都合な真実が発覚した。
 それで、被疑者グラハム・エイブリーは自分の仲間から殺されることになってしまった。
 それに[べトフォードの涙]には、血生臭い噂が後を絶たないのも事実である。
 実際、人権擁護団体[爆弾娘リズ・ボマーの罪を晴らす会]の会長を襲撃、殺人未遂を起こしたという経歴もある。

――あり得なくはない、か。

「…………」

 虚空きょくうにらみつけ、むっつりと黙り込むエフェルローンに、ルイーズは心配そうな眼差まなざしを向けるのであった。

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