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第二章 秘められた悪意
アデラの影
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入れたての珈琲の香ばしい匂いがする。
次の日の朝、七の刻。
憲兵庁にある自分の執務室で、エフェルローンは支給品の新聞に目を通していた。
――憲兵死亡、検挙誓う憲兵隊。
一面に踊る大見出しに、エフェルローンは大きなため息をひとつ吐いた。
(なにが、「検挙誓う」だ)
内部では陰謀が大手を振って跋扈しているというのに、それに対し憲兵庁上層部は、知ってか知らずか見て見ぬ振りときてる。
(それで真実を暴けと? 冗談じゃない!)
現に、証拠品の[日記]は姿を消し、捜査資料も知らぬ間に差し替えられていた。
その状況で本気で真実を暴けというのなら、それは上層部の横暴でしかない。
しかもギルの案件に関して言えば、エフェルローンが追いかけていた[魔魂石事件]との繋がりがありそうなのにも関わらず、さして情報が回って来ない。
上層部の意向なのか、はたまた、絶大な権力を持つ誰かが握り潰しているのか。
エフェルローンは怒りを鎮めるため、卓上の珈琲カップに手を伸ばす。
そしてそれを口元に運び、ホッと一息吐いたそのとき。
「先輩」
ルイーズが捜査資料を目で追いながらこう言った。
「ギルさんを殺害した犯人って、ギルさんたちが事件で追いかけていたアデラなんでしょうか?」
新人の新人による新人らしい考察に、エフェルローンは腕を組みながらこう答えた。
「ディーンはアデラがギルを殺したと思っているみたいだったけど、実際のところは分からない。確かに、あいつらはアデラを追っていたからな。その報復として、ギルが殺されたと考えてもおかしくはない。そこでだ、この事件のひとつのポイントは、ディーンたちが『何のためにアデラを追いかけていたのか』ってことだ。それが分かれば、ギルを殺したのがアデラなのかそうではないのか、ある程度はっきりするだろうが……なぜか、俺の所にその情報は回ってこない。ギルの事件は俺の担当なのにな。ディーンもディーンだ。旧友のよしみで少しぐらい情報を流してくれてもいいものを……いや、ひょっとして……あいつ、俺に何か隠してる、とか」
そう言ってフツと思考に沈むエフェルローンに、ルイーズ不愉快そうに眉を顰めた。
「先輩、ひょっとして、ディーンさんを疑ってたりするんですか? ディーンさんは先輩のご友人なのに……」
不服そうにそう言うと、ルイーズはしょんぼりと下を向く。
知り合い――しかも同業者を疑いたくないのは良く分かる。
だが、事件の真相は感情論だけでは決して暴けないのもまた事実。
エフェルローンは首を左右に振ると、両足を机の上に投げ出してこう言った。
「別に、疑ってるって訳じゃない。ただ、あいつらがアデラを追っていたなら、なぜアデラを追っていたのか、その情報が欲しいだけだ。それにあの時、なぜディーンはあの葬儀の場で無意識とはいえ[アデラ]の名を口にしたのか。犯人が本当に[アデラ]だというのなら、俺はその理由が、根拠が知りたい。ただそれだけだ」
「そう、でしたか」
ルイーズはそう言うと、納得したようにコーヒーを一口啜る。
そんなルイーズに、エフェルローンは安心させるようにこう言った。
「だから先ず、俺はディーンの調書を読むんじゃなく、ディーン本人に話を聞いてみようと思っている」
エフェルローンのその答えに、ルイーズはほっとしたような笑みを浮かべると、カップの中のコーヒーを真摯な眼差しで見つめながらでこう言った。
「少しでも手がかり、掴めるといいですね、先輩……」
――と、そのとき。
「せっ、せんぱい……僕に急用って、なんなんです? 今、仕事場に行ったら、そう言付けがあるって、き、聞いたんですけど……」
そう言って、息を切らせながら執務室の扉をノックもせず開けたのは、遺留品管理官のダニーであった。
次の日の朝、七の刻。
憲兵庁にある自分の執務室で、エフェルローンは支給品の新聞に目を通していた。
――憲兵死亡、検挙誓う憲兵隊。
一面に踊る大見出しに、エフェルローンは大きなため息をひとつ吐いた。
(なにが、「検挙誓う」だ)
内部では陰謀が大手を振って跋扈しているというのに、それに対し憲兵庁上層部は、知ってか知らずか見て見ぬ振りときてる。
(それで真実を暴けと? 冗談じゃない!)
現に、証拠品の[日記]は姿を消し、捜査資料も知らぬ間に差し替えられていた。
その状況で本気で真実を暴けというのなら、それは上層部の横暴でしかない。
しかもギルの案件に関して言えば、エフェルローンが追いかけていた[魔魂石事件]との繋がりがありそうなのにも関わらず、さして情報が回って来ない。
上層部の意向なのか、はたまた、絶大な権力を持つ誰かが握り潰しているのか。
エフェルローンは怒りを鎮めるため、卓上の珈琲カップに手を伸ばす。
そしてそれを口元に運び、ホッと一息吐いたそのとき。
「先輩」
ルイーズが捜査資料を目で追いながらこう言った。
「ギルさんを殺害した犯人って、ギルさんたちが事件で追いかけていたアデラなんでしょうか?」
新人の新人による新人らしい考察に、エフェルローンは腕を組みながらこう答えた。
「ディーンはアデラがギルを殺したと思っているみたいだったけど、実際のところは分からない。確かに、あいつらはアデラを追っていたからな。その報復として、ギルが殺されたと考えてもおかしくはない。そこでだ、この事件のひとつのポイントは、ディーンたちが『何のためにアデラを追いかけていたのか』ってことだ。それが分かれば、ギルを殺したのがアデラなのかそうではないのか、ある程度はっきりするだろうが……なぜか、俺の所にその情報は回ってこない。ギルの事件は俺の担当なのにな。ディーンもディーンだ。旧友のよしみで少しぐらい情報を流してくれてもいいものを……いや、ひょっとして……あいつ、俺に何か隠してる、とか」
そう言ってフツと思考に沈むエフェルローンに、ルイーズ不愉快そうに眉を顰めた。
「先輩、ひょっとして、ディーンさんを疑ってたりするんですか? ディーンさんは先輩のご友人なのに……」
不服そうにそう言うと、ルイーズはしょんぼりと下を向く。
知り合い――しかも同業者を疑いたくないのは良く分かる。
だが、事件の真相は感情論だけでは決して暴けないのもまた事実。
エフェルローンは首を左右に振ると、両足を机の上に投げ出してこう言った。
「別に、疑ってるって訳じゃない。ただ、あいつらがアデラを追っていたなら、なぜアデラを追っていたのか、その情報が欲しいだけだ。それにあの時、なぜディーンはあの葬儀の場で無意識とはいえ[アデラ]の名を口にしたのか。犯人が本当に[アデラ]だというのなら、俺はその理由が、根拠が知りたい。ただそれだけだ」
「そう、でしたか」
ルイーズはそう言うと、納得したようにコーヒーを一口啜る。
そんなルイーズに、エフェルローンは安心させるようにこう言った。
「だから先ず、俺はディーンの調書を読むんじゃなく、ディーン本人に話を聞いてみようと思っている」
エフェルローンのその答えに、ルイーズはほっとしたような笑みを浮かべると、カップの中のコーヒーを真摯な眼差しで見つめながらでこう言った。
「少しでも手がかり、掴めるといいですね、先輩……」
――と、そのとき。
「せっ、せんぱい……僕に急用って、なんなんです? 今、仕事場に行ったら、そう言付けがあるって、き、聞いたんですけど……」
そう言って、息を切らせながら執務室の扉をノックもせず開けたのは、遺留品管理官のダニーであった。
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