正義の剣は闘いを欲する

第二章 秘められた悪意

国を愛しすぎた男

「私の父は、地方領主バックランド候の下もと、一官僚として誠実に務めを果たしていました。父の稼ぎはそこそこあったので、父子二人、生活は多少苦しくても、それなりに幸せな生活を送っていました。あの事件――そう、あの［爆弾娘リズ・ボマー］が、べトフォードを消し去るその時までは……」

　そうぽつりぽつりと話し始めるアダム。
　そのアダムの話に、博学なダニーは付け加るようにこう言った。

「バックランドと言えば、アルカサールとグランシール帝国の国境を守護する領地ですよね、確か」
「はい」

　ダニーのその的確な説明に、アダムは短くそう答える。
　そんなダニーの注釈に加え、エフェルローンは更にこう補足する。

「それに、かつて交易都市と言われていたベトフォード――今の廃墟都市を抱える領地でもあるな」

　エフェルローンのその注釈に大きく一回頷くと。
　アダムは、自らの中に沸々と湧き上がる負の感情と懸命に闘いながら、努めて冷静にこう言った。

「その廃墟都市――べトフォードが消し飛んだ理由、それは何も、［爆弾娘リズ・ボマー］の不幸な暴走だけが原因という訳ではありません」

　そう理路整然と語るアダムの瞳が、一瞬、剣呑な光を帯びる。

――廃墟都市が滅んだ理由が、［爆弾娘リズ・ボマー］の暴走だけではない？

「……どういう事だ」

　眼前の机に身を乗り出し、前のめりにそう尋ねるエフェルローンに。
　アダムは静かに両の目を閉じると、口元に皮肉な笑みを浮かべたままこう言った。

「［爆弾娘リズ・ボマー］の不幸な暴走の裏に、国を愛し過ぎた男――バックランド候爵の暴走ありってね」

　意味ありげにそう答えるアダムに。
　エフェルローンは口元を片手で覆うと、複雑な表情かおでこう呟いた。

「バックランド、侯爵……」

　その家名に。
　エフェルローンの心臓は嫌な音を立てる。
　
　バックランド侯爵――それは、かつてエフェルローンが唯一愛した、現キースリー伯爵夫人・クローディアの実の父の家名だったからであった。