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第三章 生きることの罪
苦渋の選択
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――もしや、伯爵が追われているのはバックランド候なのではありませんか。
ダニーの父の、その鋭い指摘に。
エフェルローンは思わず言葉を飲み込んだ。
(……さすがは一軍の長、洞察力に長けている)
悲しいかな、ダニーの父のその推測は、正しい。
だが、それが分かったところで、今はそれが良い事なのか悪い事なのか。
エフェルローンは、思わず心の中で苦い顔をする。
だが、いくらダニーの父の推測が正しいからと言って、その言をそのまま認め、余計な恐怖心を煽る訳にもいかず。
エフェルローンは、ダニーの父からの執拗な詰問をやり過ごしたい一心で、苦し紛れに自らの視線を下に落とした。
「…………」
そんな、エフェルローンの気持ちを察してなのだろう。
ダニーの父は、フッと笑みを漏らすと、「分かっている」とでも云うようにこう言った。
「隠さずとも良いのですよ、伯爵。実は襲われた時、この布を胸ポケットに押し込まれましてね」
そう言って、紋章の描かれた布を片手で弄びながら。
ダニーの父は、改まってエフェルローンをじっと見つめると、有無を言わせずこう尋ねる。
「察するに、伯爵と息子はバックランド候の不都合な何かを暴こうとされているのですかな」
まるで、「全て見抜いている」とでも云わんばかりに鋭さを増すダニーの父の追及に。
隠し通すことは難しいと思い至ったエフェルローンは、深いため息をひとつ吐くと、観念した様にこう言った。
「……包み隠さず申し上げれば、そうなります」
「そう、でしたか……」
ダニーの父は、難しい顔をすると、徐に左手を顎に添えると唸るように顎を扱いた。
と、そんな父を横目に、ダニーはおどおどと視線を彷徨わせると。
腹の前で組んだ手をもぞもぞと動かし、言い出し辛そうにこう言った。
「先輩……」
その控えめな呼びかけに。
エフェルローンは事を察してダニーに視線を動かす。
(やっぱり、事件から手を引きたいよな)
命は助かったとはいえ、家族が何者かに襲われ重傷を負ったのである。
これが、心穏やかでいられるはずがない。
それを十分踏まえた上で。
エフェルローンは、ある種、覚悟を決めてこう言った。
「ダニー、どうした」
エフェルローンのその問いに。
案の定、ダニーは眉を顰めると、心底申し訳なさそうにこう言った。
「父が……家族が狙われた以上、僕はもうこの捜査に手を貸すわけにはいきません」
そう言って、無念そうに口を噤むダニーに。
エフェルローンは不敵に笑って見せると、安心させるようにこう言った。
「分かってる。気にするな。それと……今までありがとな」
正直、今ここでダニーが抜けるのは、かなり痛い。
だが、こうして現実問題として犠牲者が出てしまった以上、ダニーを無理やり引き留める権利はエフェルローンには無い。
「なに。今まで一人で十分やって来れたんだ。お前一人が居なくたったところで別にどうって事はない。心配するな」
そうは言ってみたものの、心細くないと言えば、それは噓になる。
だが、エフェルローンは敢えてそう言うと、気丈に鼻で笑って見せた。
と、そんなエフェルローンの態度から、その心情を察したのだろう。
ダニーは「本意ではない」という涙を瞳にじわりと滲ませると、眉を顰め、口の端をグッと引き結びつつこう言った。
「こんな中途半端な状態で……ほんとに、すみません」
そう声を震わせながら、ダニーは深々と頭を下げる。
しかし――。
「待ちなさい、ダニー」
意外にも。
ダニーの、その苦渋の選択を鋭く制したのは、襲撃にあったダニーの父本人であった。
ダニーの父の、その鋭い指摘に。
エフェルローンは思わず言葉を飲み込んだ。
(……さすがは一軍の長、洞察力に長けている)
悲しいかな、ダニーの父のその推測は、正しい。
だが、それが分かったところで、今はそれが良い事なのか悪い事なのか。
エフェルローンは、思わず心の中で苦い顔をする。
だが、いくらダニーの父の推測が正しいからと言って、その言をそのまま認め、余計な恐怖心を煽る訳にもいかず。
エフェルローンは、ダニーの父からの執拗な詰問をやり過ごしたい一心で、苦し紛れに自らの視線を下に落とした。
「…………」
そんな、エフェルローンの気持ちを察してなのだろう。
ダニーの父は、フッと笑みを漏らすと、「分かっている」とでも云うようにこう言った。
「隠さずとも良いのですよ、伯爵。実は襲われた時、この布を胸ポケットに押し込まれましてね」
そう言って、紋章の描かれた布を片手で弄びながら。
ダニーの父は、改まってエフェルローンをじっと見つめると、有無を言わせずこう尋ねる。
「察するに、伯爵と息子はバックランド候の不都合な何かを暴こうとされているのですかな」
まるで、「全て見抜いている」とでも云わんばかりに鋭さを増すダニーの父の追及に。
隠し通すことは難しいと思い至ったエフェルローンは、深いため息をひとつ吐くと、観念した様にこう言った。
「……包み隠さず申し上げれば、そうなります」
「そう、でしたか……」
ダニーの父は、難しい顔をすると、徐に左手を顎に添えると唸るように顎を扱いた。
と、そんな父を横目に、ダニーはおどおどと視線を彷徨わせると。
腹の前で組んだ手をもぞもぞと動かし、言い出し辛そうにこう言った。
「先輩……」
その控えめな呼びかけに。
エフェルローンは事を察してダニーに視線を動かす。
(やっぱり、事件から手を引きたいよな)
命は助かったとはいえ、家族が何者かに襲われ重傷を負ったのである。
これが、心穏やかでいられるはずがない。
それを十分踏まえた上で。
エフェルローンは、ある種、覚悟を決めてこう言った。
「ダニー、どうした」
エフェルローンのその問いに。
案の定、ダニーは眉を顰めると、心底申し訳なさそうにこう言った。
「父が……家族が狙われた以上、僕はもうこの捜査に手を貸すわけにはいきません」
そう言って、無念そうに口を噤むダニーに。
エフェルローンは不敵に笑って見せると、安心させるようにこう言った。
「分かってる。気にするな。それと……今までありがとな」
正直、今ここでダニーが抜けるのは、かなり痛い。
だが、こうして現実問題として犠牲者が出てしまった以上、ダニーを無理やり引き留める権利はエフェルローンには無い。
「なに。今まで一人で十分やって来れたんだ。お前一人が居なくたったところで別にどうって事はない。心配するな」
そうは言ってみたものの、心細くないと言えば、それは噓になる。
だが、エフェルローンは敢えてそう言うと、気丈に鼻で笑って見せた。
と、そんなエフェルローンの態度から、その心情を察したのだろう。
ダニーは「本意ではない」という涙を瞳にじわりと滲ませると、眉を顰め、口の端をグッと引き結びつつこう言った。
「こんな中途半端な状態で……ほんとに、すみません」
そう声を震わせながら、ダニーは深々と頭を下げる。
しかし――。
「待ちなさい、ダニー」
意外にも。
ダニーの、その苦渋の選択を鋭く制したのは、襲撃にあったダニーの父本人であった。
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