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第三章 生きることの罪
真昼の抗議活動
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その日の昼をちょっと過ぎた頃。
昼休憩のダニーと合流したエフェルローンとルイーズは、適当なカフェでランチを取るために執務室を出ようとしていた。
と、その時――。
――[爆弾娘]の無罪反対!
――[爆弾娘]事件の再審を要求する!
――[爆弾娘]の無罪反対!
――[爆弾娘]事件の再審を要求する!
[べトフォードの涙]の同士たちが木で作ったプラカードを掲げ、憲兵庁の門の前に大挙し、門を守る複数名の憲兵たちに食って掛かっているところであった。
「そこを退け! もしくは、憲兵庁の一番偉い人間を此処に連れて来い!」
「一番偉い奴を出せ!」
「納得のいく説明をしろ!」
複数の憲兵たちが困った顔をしながらも、彼らの侵入を大盾を使って阻止している。
(『上を出せ』と言われても、相手がキースリーじゃ、そう簡単には引きずり出せないだろうな)
誠意も誠実の欠片もないキースリーが、たかだか小市民の戯言に付き合いに出てくるわけがない。
しかも、相手は何をしでかすか分からない過激派と呼ばれる人権擁護団体[べトフォードの涙]である。
キースリーにとって、相手は只の『時間泥棒』且つ、『触らぬ神に祟りなし』と云った所だろう。
(不憫というか、何というか……)
エフェルローンは、この事件に少なからず関わっている以上、そんな[べトフォードの涙]の関係者に申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「何だか気が引けるな」
そう零したエフェルローンに。
ダニーは深く考えるように目を伏せると、口元に片手を添えながらゆっくりと噛み締めるようにこう言った。
「[べトフォードの涙]の人たち、今日も朝からデモ活動に忙しいみたいですね。[爆弾娘]事件の判決から数日経ちますけど、さっき鑑識庁から先輩の所に行く途中もずっとあんな感じで……。事件からもう六年経っていても、憎しみって消えないものなんですね……」
そう言って、鑑識のバリケードの横を通り過ぎるダニー。
エフェルローンたちもそれに続く。
「肉親が、愛する人たちを大勢失っているんだ。彼らがこういう行動を取るのは、当然と言えば当然だろう。『憎むな』という方がおかしいだろうし」
そう彼らをある程度擁護するエフェルローンに。
ルイーズは、神妙な顔をしながら呟くようにこう言った。
「じゃあ、[爆弾娘]は、どうしたら許されるんでしょうか」
その問いに、エフェルローンは難しい顔でこう答える。
「彼らが、[べトフォードの涙]が求めるのは、[罪を認めて[死]んで謝罪する]ことなんだろうが……」
「じゃあ、[爆弾娘]は、死ぬべきなんでしょうか」
真顔でそう尋ねるルイーズに。
エフェルローンはため息交じりに横に首を振ると、ひとつずつ言葉を選びながら答えて言った。
「死んで何が解決する、と云うものでもないだろう。死んだ人間が生き返って来る訳でもない。争うべきは、[無罪]か[有罪]か、という所ではなくて、殺してしまったことに対する[補償]――[死]以外で、彼らとどう向き合い、どう償っていくのかが、この事件の争点なんじゃないかと、俺は考えてる」
そう言って、エフェルローンが言葉を結んだと同時に。
その言葉を耳聡く聞きつけたデモのリーダーらしき男は、憤りも顕にエフェルローンに食って掛かるとこう言った。
「『殺してしまったことに対する[補償]』だと? 愛する家族や友人、恋人や婚約者を失っている俺たちに、よくそんな酷いことが言えたもんだ。それは、愛するものを永遠に失ったことがない人間が言えるセリフだ。俺たちは[補償]を、金を求めているわけじゃない! 俺たちの要求は、愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせることだ! そのためなら、俺たちはどんな労苦も惜しまない! [爆弾娘]に死を!」
そう眉を吊り上げ、目を怒らせるデモのリーダーらしき男の声に合わせる様に。
他の同士たちも、声を同じくしてこう叫ぶ。
――[爆弾娘]に死を!
――[爆弾娘]に死を!
――[爆弾娘]に死を!
(『愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせることだ! そのためなら、俺たちはどんな労苦も惜しまない』、か。それじゃ犯罪者と、[爆弾娘]と何ら変わりないじゃないか……)
そう心の中で呟き、デモの参加者を哀れむように見つめるエフェルローン。
そんなエフェルローンの心の声を代弁するかのように。
突然、一人の男がエフェルローンの前に立ちはだかり、デモのリーダーらしき男に、柔らかな口調でこう詰問し始める。
「『愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせるためならば、どんな労苦も惜しまない』か。憲兵に重傷者を出した憲兵庁への武力襲撃も、その一環という訳かな? どんな崇高な理由があるにせよ、起こったことだけを見れば、それは立派な犯罪だよね?」
そう言って、[べトフォードの涙]のデモのリーダーらしき男の前に悠然と立ちはだかったのは。
煉瓦色の、軽くウェブのかかった髪を後ろで緩く結わいた、紫の瞳を持つ男――二つ名を[紫眼の悪魔]、またの名を[紫眼の貴公子]と呼ばれる、アルカサールの最凶魔術師レオン・フォン・カーレンリース伯爵であった。
昼休憩のダニーと合流したエフェルローンとルイーズは、適当なカフェでランチを取るために執務室を出ようとしていた。
と、その時――。
――[爆弾娘]の無罪反対!
――[爆弾娘]事件の再審を要求する!
――[爆弾娘]の無罪反対!
――[爆弾娘]事件の再審を要求する!
[べトフォードの涙]の同士たちが木で作ったプラカードを掲げ、憲兵庁の門の前に大挙し、門を守る複数名の憲兵たちに食って掛かっているところであった。
「そこを退け! もしくは、憲兵庁の一番偉い人間を此処に連れて来い!」
「一番偉い奴を出せ!」
「納得のいく説明をしろ!」
複数の憲兵たちが困った顔をしながらも、彼らの侵入を大盾を使って阻止している。
(『上を出せ』と言われても、相手がキースリーじゃ、そう簡単には引きずり出せないだろうな)
誠意も誠実の欠片もないキースリーが、たかだか小市民の戯言に付き合いに出てくるわけがない。
しかも、相手は何をしでかすか分からない過激派と呼ばれる人権擁護団体[べトフォードの涙]である。
キースリーにとって、相手は只の『時間泥棒』且つ、『触らぬ神に祟りなし』と云った所だろう。
(不憫というか、何というか……)
エフェルローンは、この事件に少なからず関わっている以上、そんな[べトフォードの涙]の関係者に申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「何だか気が引けるな」
そう零したエフェルローンに。
ダニーは深く考えるように目を伏せると、口元に片手を添えながらゆっくりと噛み締めるようにこう言った。
「[べトフォードの涙]の人たち、今日も朝からデモ活動に忙しいみたいですね。[爆弾娘]事件の判決から数日経ちますけど、さっき鑑識庁から先輩の所に行く途中もずっとあんな感じで……。事件からもう六年経っていても、憎しみって消えないものなんですね……」
そう言って、鑑識のバリケードの横を通り過ぎるダニー。
エフェルローンたちもそれに続く。
「肉親が、愛する人たちを大勢失っているんだ。彼らがこういう行動を取るのは、当然と言えば当然だろう。『憎むな』という方がおかしいだろうし」
そう彼らをある程度擁護するエフェルローンに。
ルイーズは、神妙な顔をしながら呟くようにこう言った。
「じゃあ、[爆弾娘]は、どうしたら許されるんでしょうか」
その問いに、エフェルローンは難しい顔でこう答える。
「彼らが、[べトフォードの涙]が求めるのは、[罪を認めて[死]んで謝罪する]ことなんだろうが……」
「じゃあ、[爆弾娘]は、死ぬべきなんでしょうか」
真顔でそう尋ねるルイーズに。
エフェルローンはため息交じりに横に首を振ると、ひとつずつ言葉を選びながら答えて言った。
「死んで何が解決する、と云うものでもないだろう。死んだ人間が生き返って来る訳でもない。争うべきは、[無罪]か[有罪]か、という所ではなくて、殺してしまったことに対する[補償]――[死]以外で、彼らとどう向き合い、どう償っていくのかが、この事件の争点なんじゃないかと、俺は考えてる」
そう言って、エフェルローンが言葉を結んだと同時に。
その言葉を耳聡く聞きつけたデモのリーダーらしき男は、憤りも顕にエフェルローンに食って掛かるとこう言った。
「『殺してしまったことに対する[補償]』だと? 愛する家族や友人、恋人や婚約者を失っている俺たちに、よくそんな酷いことが言えたもんだ。それは、愛するものを永遠に失ったことがない人間が言えるセリフだ。俺たちは[補償]を、金を求めているわけじゃない! 俺たちの要求は、愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせることだ! そのためなら、俺たちはどんな労苦も惜しまない! [爆弾娘]に死を!」
そう眉を吊り上げ、目を怒らせるデモのリーダーらしき男の声に合わせる様に。
他の同士たちも、声を同じくしてこう叫ぶ。
――[爆弾娘]に死を!
――[爆弾娘]に死を!
――[爆弾娘]に死を!
(『愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせることだ! そのためなら、俺たちはどんな労苦も惜しまない』、か。それじゃ犯罪者と、[爆弾娘]と何ら変わりないじゃないか……)
そう心の中で呟き、デモの参加者を哀れむように見つめるエフェルローン。
そんなエフェルローンの心の声を代弁するかのように。
突然、一人の男がエフェルローンの前に立ちはだかり、デモのリーダーらしき男に、柔らかな口調でこう詰問し始める。
「『愛する者たちと同じ苦しみを[爆弾娘]に味合わせるためならば、どんな労苦も惜しまない』か。憲兵に重傷者を出した憲兵庁への武力襲撃も、その一環という訳かな? どんな崇高な理由があるにせよ、起こったことだけを見れば、それは立派な犯罪だよね?」
そう言って、[べトフォードの涙]のデモのリーダーらしき男の前に悠然と立ちはだかったのは。
煉瓦色の、軽くウェブのかかった髪を後ろで緩く結わいた、紫の瞳を持つ男――二つ名を[紫眼の悪魔]、またの名を[紫眼の貴公子]と呼ばれる、アルカサールの最凶魔術師レオン・フォン・カーレンリース伯爵であった。
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