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第三章 生きることの罪
仕事への姿勢
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レオンたちと別れてから数時間後の夜の七刻半頃。
エフェルローンとルイーズは、各机のオイルランプと壁に吊るされた数個のランタンで明かりを取りつつ、各々の業務に励んでいた。
「日記の捜査資料の進捗はどうだ」
作業の傍ら、机の端に放り置いていた新聞の見出しに目を留めながら。
エフェルローンは、日記から抜粋した資料と補足情報をまとめつつ、そうルイーズに尋ねる。
「原本を各項目ごとに振り分け直したものに、今、補足情報を書き足しているところで……きちんとした資料を作るには、まだまだ時間がかかりそうです」
資料を机の至る所に並べながら、ルイーズはそう言って資料と格闘していた。
(十日後までに耳を揃えて日記の資料を提出しなきゃならないからな。今は、ともかく時間が惜しいところだが……)
そう心で呟きながら、チキンサンドを頬張るエフェルローン。
それを、ルイーズが無理やり入れたビターなココアで流し込むと。
エフェルローンは、もう一度新聞の見出しに目をやりこう呟く。
「ユーイング先輩は言葉を濁していたけど、やっぱり冬になる前にもう一度、クランシールの攻勢がありそうだな」
そんなエフェルローンの、最悪の予想に。
ルイーズは、ふっと手に持った万年筆の手を止めると、目を伏せ、俯き加減にこう言った。
「べトフォード……折角、復興し始めてるのに、また戦争の危険に曝されるんですね」
「まあ、そうならないように騎士団が存在しているんだけどな」
(そういえば、ユーイング先輩はまた戦場に駆り出されるんだろうか)
つい先日、前線から戻ってきたばかりだったはずだが、大規模な戦争になるとすれば、いつ駆り出されてもおかしくはない。
「前線での戦闘経験も豊富な先輩が、前線に駆り出されないわけがない、か。先輩も色々と大変だよな……」
大陸でも数少ない[二つ名]を持つユーイングである。
国民の期待と、肩にかかる国家の威信の重さは並大抵のものではないだろう。
(それを、そうとは見せないのがあの人の凄い所だけど。でも、その期待と威信に、ユーイング先輩がどのくらい重きを置いているのかと考えると、ちょっと難しい所だな……)
元々、普通の感性では測れない男である。
人の心の内側を抉り出すのが仕事であるエフェルローンですら、ユーイングに関しては、一体何を考えて生きているのか全く分からないところがある。
もしかしたら、案外「何も考えていない」だけなのかもしれないが。
(悪運だけは強い人だから、どんな手を使ってでも、どうにかこうにか生き延びそうではあるけど)
と、そんなことをぼんやり考えながら、資料の原本に補足情報を加えつつ、提出用の捜査報告書を仕上げていた、まさにその時――。
「先輩、焼き芋食べます?」
そう言ってルイーズ持ってきたのは、新聞紙で包んだ焼き芋であった。
「お前、何処からそんなもの……」
何となく状況が見えてきたエフェルローンは、声を低くしてそう尋ねる。
ルイーズはと云うと、きょとんとした顔でほくほくの焼き芋の先端(先っちょは切り落としている)に嚙り付くと、美味しそうに顔を綻ばせこう言った。
「薪ストーブだし、折角だから焼き芋焼いてみました。夜食にも美容にも良いし、何より美味しいですよ? しかも旬ですし」
「ああ、そうかい」
「本当に仕事する気があるのか!」と突っ込みを入れたくなるような、ルイーズの不安を感じさせる一連の行動に。
エフェルローンは心の中で頭を抱えた。
だが、そんなエフェルローンの心中などお構いなしと云うように。
ルイーズは、手際よく芋を割ると、口を付けていない方の半分を、新聞紙で包み、エフェルローンの執務机の上に置いてこう言った。
「先輩の分、ここに置いておきますね。あ、昨日の新聞使わせて頂きました」
「新聞使わせていただきましたってな、お前……」
(職務中に、ストーブで芋を焼いて食べるか、普通……)
机の上に置かれた、出来立てほやほやの焼き芋を見つめながら。
「もう何を言っても無駄だ」と九割方諦めたエフェルローンは、焼き芋を手に取ると、それにやけくそ気味にかぶり付くのだった。
エフェルローンとルイーズは、各机のオイルランプと壁に吊るされた数個のランタンで明かりを取りつつ、各々の業務に励んでいた。
「日記の捜査資料の進捗はどうだ」
作業の傍ら、机の端に放り置いていた新聞の見出しに目を留めながら。
エフェルローンは、日記から抜粋した資料と補足情報をまとめつつ、そうルイーズに尋ねる。
「原本を各項目ごとに振り分け直したものに、今、補足情報を書き足しているところで……きちんとした資料を作るには、まだまだ時間がかかりそうです」
資料を机の至る所に並べながら、ルイーズはそう言って資料と格闘していた。
(十日後までに耳を揃えて日記の資料を提出しなきゃならないからな。今は、ともかく時間が惜しいところだが……)
そう心で呟きながら、チキンサンドを頬張るエフェルローン。
それを、ルイーズが無理やり入れたビターなココアで流し込むと。
エフェルローンは、もう一度新聞の見出しに目をやりこう呟く。
「ユーイング先輩は言葉を濁していたけど、やっぱり冬になる前にもう一度、クランシールの攻勢がありそうだな」
そんなエフェルローンの、最悪の予想に。
ルイーズは、ふっと手に持った万年筆の手を止めると、目を伏せ、俯き加減にこう言った。
「べトフォード……折角、復興し始めてるのに、また戦争の危険に曝されるんですね」
「まあ、そうならないように騎士団が存在しているんだけどな」
(そういえば、ユーイング先輩はまた戦場に駆り出されるんだろうか)
つい先日、前線から戻ってきたばかりだったはずだが、大規模な戦争になるとすれば、いつ駆り出されてもおかしくはない。
「前線での戦闘経験も豊富な先輩が、前線に駆り出されないわけがない、か。先輩も色々と大変だよな……」
大陸でも数少ない[二つ名]を持つユーイングである。
国民の期待と、肩にかかる国家の威信の重さは並大抵のものではないだろう。
(それを、そうとは見せないのがあの人の凄い所だけど。でも、その期待と威信に、ユーイング先輩がどのくらい重きを置いているのかと考えると、ちょっと難しい所だな……)
元々、普通の感性では測れない男である。
人の心の内側を抉り出すのが仕事であるエフェルローンですら、ユーイングに関しては、一体何を考えて生きているのか全く分からないところがある。
もしかしたら、案外「何も考えていない」だけなのかもしれないが。
(悪運だけは強い人だから、どんな手を使ってでも、どうにかこうにか生き延びそうではあるけど)
と、そんなことをぼんやり考えながら、資料の原本に補足情報を加えつつ、提出用の捜査報告書を仕上げていた、まさにその時――。
「先輩、焼き芋食べます?」
そう言ってルイーズ持ってきたのは、新聞紙で包んだ焼き芋であった。
「お前、何処からそんなもの……」
何となく状況が見えてきたエフェルローンは、声を低くしてそう尋ねる。
ルイーズはと云うと、きょとんとした顔でほくほくの焼き芋の先端(先っちょは切り落としている)に嚙り付くと、美味しそうに顔を綻ばせこう言った。
「薪ストーブだし、折角だから焼き芋焼いてみました。夜食にも美容にも良いし、何より美味しいですよ? しかも旬ですし」
「ああ、そうかい」
「本当に仕事する気があるのか!」と突っ込みを入れたくなるような、ルイーズの不安を感じさせる一連の行動に。
エフェルローンは心の中で頭を抱えた。
だが、そんなエフェルローンの心中などお構いなしと云うように。
ルイーズは、手際よく芋を割ると、口を付けていない方の半分を、新聞紙で包み、エフェルローンの執務机の上に置いてこう言った。
「先輩の分、ここに置いておきますね。あ、昨日の新聞使わせて頂きました」
「新聞使わせていただきましたってな、お前……」
(職務中に、ストーブで芋を焼いて食べるか、普通……)
机の上に置かれた、出来立てほやほやの焼き芋を見つめながら。
「もう何を言っても無駄だ」と九割方諦めたエフェルローンは、焼き芋を手に取ると、それにやけくそ気味にかぶり付くのだった。
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