短編集

希紫瑠音

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夏休みの過ごし方

3-1

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 やっと夏休みに入ったというのに、暑い中、補習の為に学校に来るはめになろうとは。

 遊ぶ計画を立てていたのだが、どうやら夏休みの前半は自分だけ参加できそうにない。

 追試まで不合格を言い渡され、クラスで唯一の補習対象者となってしまったのだ。

「前ちゃんだって、俺だけの為に補習するのは嫌だよね?」

 どうにか免除にしてもらおうと、担任を丸め込もうと思ったのだが、

「そう言うならさ、追試頑張ってくれたら良かったのにさ」

 と恨めしく言われてしまう。

 確かにその通りだ。ごめんと落ち込む高貴に、前岡は明るく笑って背中を叩く。

「良いよ、良いよ。今回だけは許す」

 何故、今回だけなのかはわからないが、やたらとご機嫌に見えるのは日頃の鬱憤を高貴で晴らそうという算段なのか。

「うへ、なんか怖ぇ」
「ま、補習、楽しみにしてな」

 と、それから数日後、夏休みに入り、補習第一日目が始まる。

 そこに居たのはクラス委員長で、どうしているのかと疑問に思う。

 その理由はすぐに解ることになるのだが、まさか、一緒に遊ぶことになるとは思わなかった。

 嬉しい。その時ばかりは補習で良かったと思ったくらいだ。

 同じクラスになってからずっと気になっていた。

 彼は真面目であまり表情を変えない。いつも本を読んだり予習をしたり、時折クラスメイトの勉強を見てあげている。

 きっと高貴のようなタイプは苦手だろうなと、いつも目で追うだけで、なかなか話しかけることができずにいた。

 だが、実際はそうでもなかった。

 話しかければ話返してくれる。名前で呼び合うことを提案したときも、嫌だと言われなかった。

 本屋に行った時、仲の良い友達にするようなことをしてみたが、それも平気だった。

 友達にしても何も思わないことも、巧巳にすると妙にドキドキとしてしまう。

 時折匂う、清潔感漂う香りが胸を熱くさせる。

 しかも初めて笑顔を見た時には、心臓が飛び出るのでないかと思うくらいに弾んだ。

「もっと笑顔、みたいな」

 その言葉は素直な気持ちであった。もっと色々な表情を見てみたい。

「そのために、夏休みの楽しみ方を教えてくれるのだろう?」

 と、言われて、全力で頑張ろうと心の中で誓った。

 プールへと誘ったのは、下心もあった。

 水泳をやっていたとの言葉に納得したのは、実は衣替えの日に巧巳がちょっとした注目の的となったからだ。

 冬服を着ている時は全く気が付かなかったが、シャツ越しに良い体つきだと見て取れる。

「やべぇ、委員長」

 友人の一人が呟き、周りの視線が一斉に巧巳に向けられる。

 それに何故か目が離せなくなり、それに気が付いた一人が、

「高貴、いくらお前の筋肉がないからって、羨ましがり過ぎだろ」

 と腹を撫でながら細すぎと言われる。

 身長は恵まれたと思う。だが、筋肉がつきにくい体質で、男としてはもう少し筋肉が欲しい所だ。

「水泳の授業があったら、モテそう」

 とゲラゲラと笑う友人たち。確かに脱いだところも見てみたい。だが、きっと、違う意味で彼を目で追ってしまいそうだ。

 そんなこともあり、気になる存在となっていた訳だが、遊ぶために行くプールの方には興味をもってくれたようで、約束の日が楽しみだ。





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