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王都
シリル ⑤
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今日はレジスのお見舞いに行こうと思っていたが、ヴァレリーに話があると言われて後に続く。
向かった先は彼の部屋ではなく謁見の間だった。中に入ると王と王妃、そして王太子が待っていた。
「シリルを呼び立てしたのは二つほど話しておきたいことがあるからだ」
王の言葉に王妃と兄達の表情に緊張が走る。それで何となく気が付いた。
「カルメのことでしょうか」
そう口にすると王が一つ目はなという。
「ヴァレリー」
「はい。あの後……」
マルクを牢獄から出すのが先と、カルメが息子は利用されただけだと真犯人だと男を連れてきたのだ。
あの現場を目撃していたヴァレリーとファブリスの証言があるというのに、カルメは老臣の名を告げ、周りの大臣を取り込み王を黙らせようとしたが、目論見はうまくいかずに成人の儀が終わるまで謹慎となる。
いざとなれば老臣が助けてくれるだろう、そう思っていたのに彼は助けてくれるところか自分を謹慎にさせた。
その結果に怒り、配下を使い地下牢に入れられた息子をだすと、カルメに与えられた領地に閉じこもり、私兵と共に反乱を起こす準備を始めたのだが、それはすぐに鎮圧されることとなる。
老臣の手の者がカルメを捕らえたからだ。しかも、服毒自殺をはかり死亡したという連絡と共に。
彼にとっては勝手に暴走し、迷惑でしかない存在だったのだろう。
成人の儀までには幕引きにしたかった王は、それ以上は追及しなかった。
色々と疑惑の残る結果となってしまった。
「結局、何もできませんでした」
レジスにしたことだけでも償わせたかった。それなのにもう機会はない。
老臣は証拠を残すことはない。しかもこちらの先を行く。
悔しそうなヴァレリーに、シリルはその手を握りしめる。
「すまぬ、余の力が足りぬゆえに歯がゆい思いをさせてしまうな」
「いえ、父様。わかっております。僕は成人の儀を無事に終えることだけを考えます」
シリルは力を持たぬ。戦いを挑んだところで簡単にやられてしまうだろう。
それ所か王にまで迷惑をかけてしまうだろう。
「さて、もう一つの話なのだが。例の物を」
と王が言うと銀のトレイをもってが謁見の間へと入ってくる。
「シリル、前へ」
「はい」
王と王妃の近くへ立つと、二人が席から立ち上がり宰相からトレイの物を受け取った。
王の手にはシリルの瞳と同じ色をした宝石のついたスカーフリング、王妃の手には金の刺繍が施された紺色のスカーフがある。
成人の儀に身に着ける宝石は親から子に贈られる。雌はネックレス、雄はスカーフリングだ。
「父様、母様」
二人の手から直接頂けるとは思わず、シリルは嬉しさから尻尾を震わせる。
「ありがとうございます。大切にします」
贈り物を胸の中に抱きしめ、二人に頭を下げる。
その姿に二人も嬉しそうに笑ってくれた。
「シリル良かったな」
「はい、ヴァレリー兄様」
「成人の儀が楽しみだな」
とアドルフがいい、シリルはうなずく。
「はい。とても楽しみです」
これを身に着け、どうどうとした態度で成人の儀にのぞみたい。
毛並みの悪さにあざける者もいるだろう。だが、関係ない。こんな自分を愛してくれる家族のため、そして友のために。
「さて、シリルよ。今日は素敵なゲストをお呼びした。夕食を楽しみにしているがいい」
ゲストとはランベールのことだろうか。
家族と共に食事をするのは嬉しいが、そこにランベールが加わったらさらに喜びが増す。
「はい。楽しみにしてます」
そう返事をし、謁見の間を後にした。
部屋に戻ると、ランベールがソファーに座りお茶を飲んでいた。
「シリル、戻ったようだね」
「ランベール」
やはりゲストとはランベールのことだったのかと、皆で食事をするのが待ち遠しくなる。
「成人の儀で身につける宝石は受け取ったのかい?」
「あぁ」
ランベールに見せるとよかったねと頭を撫でられる。
「これを身につけるのが楽しみだ」
とそれを撫でると机の上に飾った。
「さて、シリル、私からも贈り物がある」
ランベールから渡された物は七色に光る宝石で出来たネックレスと耳飾り、そして指輪であった。
「これ……」
成人の儀の後のパーティには王と王妃から贈られた物をそのまま身に着けるつもであった。
獣人は成人の儀を終えなければ婚姻を結べない。それ故に好いた相手がいる者は揃いのアクセサリーを作り、求婚を申し込むのだ。
恋人や婚約者がいる者は、その相手と揃いのアクセサリーを身に着けてパーティに出席する。
だが、シリルにはそんな相手はいないし、誰もアクセサリーを贈ろうなんて思わないだろう。
「パーティにはこれを身に着けて欲しい」
ランベールの耳と帯止めには、あきらかに同じデザインである宝飾類を身に着けている。
「ランベール、これを僕に?」
「あぁ。私の番になってほしい」
信じられなかった。
こんなに美しくて強い雄が自分のような毛並みが悪い子供を選んでくれるのだから。
「本当に?」
「もちろんだ。愛おしいよ、君が」
「駄目だ、ランベールなら雌と番になれるだろう」
雌は強く毛並みの良い雄に惹かれる。子を持つチャンスだってある。
「年甲斐もなく、若くて可愛い君に求婚をする私は嫌かね?」
「そんなことない。こんなに素敵な雄はいない」
「君ほど可愛い雄はいない」
ずっとその言葉が欲しかった。我慢しきれずに涙を流す。王宮に戻ってきてからというもの、幸せなことがこんなにも続くなんて。
「シリル、受け取ってくれるかい?」
「あぁ、もちろんだ」
互いに鼻先を舐めあいキスをする。
深い口づけはシリルの身体を熱くとろかせる。このまま全てを貰ってほしい。だが、ランベールの舌は離れていく。
「はぁ、かわいい顔をして。成人の儀が終わるまでおあずけとは酷だね」
濡れた口元をランベールの指がぬぐう。
「そう、なの?」
これ以上は貰えないなんて切ない。おもわずキューンと声が出てしまう。
「あぁ、鳴かないでおくれ。王との約束を破るわけにはいかないんだよ」
いいこ、いいこ、と頭を撫でられてランベールの首に鼻をすり寄せた。
「父様とどんな約束を?」
「成人の儀までは交尾はしないという約束だよ」
「そうか」
今すぐにでも感じあいたいが、王との約束ならしかたがない。
「成人の儀が終わったら、いっぱい中に注いでほしい」
「あぁ、この子は。もちろんだとも」
あふれるまで注いであげるよと、耳に口づける。
「ランベール、大好き」
「私もだよ」
再び深く口づけをすれば、
「叔父上」
とドア越しにファブリスの声がする。
「はぁ。もう邪魔をしにきたのかね、甥っ子よ」
ランベールはため息をつくと立ち上がりドアを開いた。
「そろそろ屋敷に戻るようにと王からのご命令です」
「はぁ、しょうがないね。シリル、帰るよ」
その言葉にシリルはえっ、と声を上げる。
「ゲストってランベールじゃ……」
「いや、私ではないよ」
と笑うと、鼻先にキスをする。
「ランベール」
「またあした、会いにくるよ」
そういうとランベールは部屋を出て行った。
向かった先は彼の部屋ではなく謁見の間だった。中に入ると王と王妃、そして王太子が待っていた。
「シリルを呼び立てしたのは二つほど話しておきたいことがあるからだ」
王の言葉に王妃と兄達の表情に緊張が走る。それで何となく気が付いた。
「カルメのことでしょうか」
そう口にすると王が一つ目はなという。
「ヴァレリー」
「はい。あの後……」
マルクを牢獄から出すのが先と、カルメが息子は利用されただけだと真犯人だと男を連れてきたのだ。
あの現場を目撃していたヴァレリーとファブリスの証言があるというのに、カルメは老臣の名を告げ、周りの大臣を取り込み王を黙らせようとしたが、目論見はうまくいかずに成人の儀が終わるまで謹慎となる。
いざとなれば老臣が助けてくれるだろう、そう思っていたのに彼は助けてくれるところか自分を謹慎にさせた。
その結果に怒り、配下を使い地下牢に入れられた息子をだすと、カルメに与えられた領地に閉じこもり、私兵と共に反乱を起こす準備を始めたのだが、それはすぐに鎮圧されることとなる。
老臣の手の者がカルメを捕らえたからだ。しかも、服毒自殺をはかり死亡したという連絡と共に。
彼にとっては勝手に暴走し、迷惑でしかない存在だったのだろう。
成人の儀までには幕引きにしたかった王は、それ以上は追及しなかった。
色々と疑惑の残る結果となってしまった。
「結局、何もできませんでした」
レジスにしたことだけでも償わせたかった。それなのにもう機会はない。
老臣は証拠を残すことはない。しかもこちらの先を行く。
悔しそうなヴァレリーに、シリルはその手を握りしめる。
「すまぬ、余の力が足りぬゆえに歯がゆい思いをさせてしまうな」
「いえ、父様。わかっております。僕は成人の儀を無事に終えることだけを考えます」
シリルは力を持たぬ。戦いを挑んだところで簡単にやられてしまうだろう。
それ所か王にまで迷惑をかけてしまうだろう。
「さて、もう一つの話なのだが。例の物を」
と王が言うと銀のトレイをもってが謁見の間へと入ってくる。
「シリル、前へ」
「はい」
王と王妃の近くへ立つと、二人が席から立ち上がり宰相からトレイの物を受け取った。
王の手にはシリルの瞳と同じ色をした宝石のついたスカーフリング、王妃の手には金の刺繍が施された紺色のスカーフがある。
成人の儀に身に着ける宝石は親から子に贈られる。雌はネックレス、雄はスカーフリングだ。
「父様、母様」
二人の手から直接頂けるとは思わず、シリルは嬉しさから尻尾を震わせる。
「ありがとうございます。大切にします」
贈り物を胸の中に抱きしめ、二人に頭を下げる。
その姿に二人も嬉しそうに笑ってくれた。
「シリル良かったな」
「はい、ヴァレリー兄様」
「成人の儀が楽しみだな」
とアドルフがいい、シリルはうなずく。
「はい。とても楽しみです」
これを身に着け、どうどうとした態度で成人の儀にのぞみたい。
毛並みの悪さにあざける者もいるだろう。だが、関係ない。こんな自分を愛してくれる家族のため、そして友のために。
「さて、シリルよ。今日は素敵なゲストをお呼びした。夕食を楽しみにしているがいい」
ゲストとはランベールのことだろうか。
家族と共に食事をするのは嬉しいが、そこにランベールが加わったらさらに喜びが増す。
「はい。楽しみにしてます」
そう返事をし、謁見の間を後にした。
部屋に戻ると、ランベールがソファーに座りお茶を飲んでいた。
「シリル、戻ったようだね」
「ランベール」
やはりゲストとはランベールのことだったのかと、皆で食事をするのが待ち遠しくなる。
「成人の儀で身につける宝石は受け取ったのかい?」
「あぁ」
ランベールに見せるとよかったねと頭を撫でられる。
「これを身につけるのが楽しみだ」
とそれを撫でると机の上に飾った。
「さて、シリル、私からも贈り物がある」
ランベールから渡された物は七色に光る宝石で出来たネックレスと耳飾り、そして指輪であった。
「これ……」
成人の儀の後のパーティには王と王妃から贈られた物をそのまま身に着けるつもであった。
獣人は成人の儀を終えなければ婚姻を結べない。それ故に好いた相手がいる者は揃いのアクセサリーを作り、求婚を申し込むのだ。
恋人や婚約者がいる者は、その相手と揃いのアクセサリーを身に着けてパーティに出席する。
だが、シリルにはそんな相手はいないし、誰もアクセサリーを贈ろうなんて思わないだろう。
「パーティにはこれを身に着けて欲しい」
ランベールの耳と帯止めには、あきらかに同じデザインである宝飾類を身に着けている。
「ランベール、これを僕に?」
「あぁ。私の番になってほしい」
信じられなかった。
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「本当に?」
「もちろんだ。愛おしいよ、君が」
「駄目だ、ランベールなら雌と番になれるだろう」
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「君ほど可愛い雄はいない」
ずっとその言葉が欲しかった。我慢しきれずに涙を流す。王宮に戻ってきてからというもの、幸せなことがこんなにも続くなんて。
「シリル、受け取ってくれるかい?」
「あぁ、もちろんだ」
互いに鼻先を舐めあいキスをする。
深い口づけはシリルの身体を熱くとろかせる。このまま全てを貰ってほしい。だが、ランベールの舌は離れていく。
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濡れた口元をランベールの指がぬぐう。
「そう、なの?」
これ以上は貰えないなんて切ない。おもわずキューンと声が出てしまう。
「あぁ、鳴かないでおくれ。王との約束を破るわけにはいかないんだよ」
いいこ、いいこ、と頭を撫でられてランベールの首に鼻をすり寄せた。
「父様とどんな約束を?」
「成人の儀までは交尾はしないという約束だよ」
「そうか」
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ランベールはため息をつくと立ち上がりドアを開いた。
「そろそろ屋敷に戻るようにと王からのご命令です」
「はぁ、しょうがないね。シリル、帰るよ」
その言葉にシリルはえっ、と声を上げる。
「ゲストってランベールじゃ……」
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