懐かぬ猫と寂しがり屋

希紫瑠音

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つながる想い

(2)

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帰りに委員長の尾沢おざわに話しかけられた。

 同じクラスになって、はじめから俺に話しかけてきたのは尾沢だけだったので名前も憶えていた。

「今日、昼に御坂がお弁当のおかずを食べたそうだね」
「あぁ」
「そこに聖人もいたんだって?」

 尾沢が神野を名前の方で呼ぶような仲だとは知らなかった。教室で話している姿は見たことがあるが、つるんでいるようには見えなかったからだ。

「勝手にいるだけだ」
「お弁当、作ってあげているんだ」

 あまりクラスの奴等に知られたくない。それ故に返事がそっけないものになる。

「どうでもいいだろ」
「葉月、事情を知っているんでしょ?」
「あぁ」
「慧のことは聞いた?」

 御坂のこともか。しかも抱えている事情も知っているようだし、彼ら三人は何でも話し合える友達なのだろう。

「食うのは珍しいって」
「そうなんだ。俺の家族が作った物しか食べられないと思ってたのに」

 何か言いたげな目をしている。だが、これ以上は聞く気はない。俺には関わり合いの無いことだから。

「まて、尾沢。詳しい事情は話さなくていい」
「……そうだな」

 聞きたくないという俺の気持ちを感じ取ったようで、それ以上は何も言わない。

 そこに、

「何を話しているの」

 と神野が話しかけてきた。

「慧のことだ」

 そのまま話は御坂のことになりそうな雰囲気だったので、

「俺には関係ねぇよな、それ」

 そうキッパリと口にする。これ以上聞いてしまったら、神野の時のようになりかねない。

「葉月」
「俺はお前等の友達じゃねぇ。だからこれ以上の厄介事はごめんだ」

 聞きたくないとばかりに鞄を手にし教室を出た。





 同情なんかして弁当を作ってやったりしたものだから神野も調子に乗るのだ。

「あれ、今日は神野さん、お休みなの?」

 弁当が一つ足りないからだろう。神野の分の弁当を作っていることは透も知っていた。 

「良いんだ。ほら、さっさと行けよ」

 バスの時間にはまだ余裕があるが、これ以上聞かれるのが嫌で追い出す様に玄関へと向かう。

「うん。行ってきます」

 出ていく姿を見てホッとする。

 だが直ぐにドアが開き透が顔をのぞかせた。

「なんだ、忘れ物か?」
「うんん。神野さん」
「何っ」

 透の後ろからひょっこりと顔を出した。

 何故、こいつがここにいるんだ。驚く俺に、爽やかな笑顔を向ける。

「おはよう、葉月。一緒に学校に行こう」
「冗談じゃねぇ」

 朝から周りにどんな目で見られることやら。それを考えただけでウンザリとする。

「今日、俺の分のお弁当、ないんだ」
「大体さ、俺がお前の分まで作ってやる必要なくねぇ? 女子に作ってもらえよ」

 好きという気持ちがたくさん詰まっている弁当だ。愛情に飢えている神野には丁度良いだろう。

「俺が欲しいのはあざとい愛情のつまった弁当じゃなくて、食べる人のことを考えて作られた弁当だ」
「は、それなら女に頼んで……」
「あぁ、もうっ、回りくどい言い方はやめる。葉月の作ったお弁当がイイの」
「なっ」
「お前の弁当を食べていると、冷たかったここが暖かくなるんだ」

 と神野が自分の胸に手を当てる。

「そんなことを言われても」

 困る。

 自分の作った物で暖かい気持ちになるなんて、そんなことを言われたのは初めてだ。

「顔、真っ赤」
「うるさい」
「かわいい」

 そうはっきりと言われるようになったのは、つい最近のこと。誕生日にカップケーキを焼いてやった日からだ。

 俺は女じゃねぇし、しかも周りから怖がられている奴に言う台詞じゃない。

「お前の目は腐ってんのかよ」
「ごめん」

 ふ、と、唇に柔らかいものがふれた。

 俺、アイツとキスしてる?

「んぁっ」

 舌が歯列を撫でて舌に絡みつく。それがぞくぞくするくらい気持ち良くて、頭がぼっとしてきた。

「きもちいい?」
「う、ぁ」
「おれも」

 ちゅっと音をたて、唇が離れる。

「あぁ、涎」

 親指で唇を拭われ、そこで我に返って後ずさる。

「おま、何をっ」
「キス」
「なんで」
「なんとなく」

 しれっと言われて、俺の手が神野の頬を殴っていた。

「いたぁっ」
「さっさと学校に行けよっ!」

 出て行けと玄関を指さす。

「葉月」
「俺は、なんとなくでキスしねぇ」

 馬鹿にされた。アイツにとってなんでもないことなんだ。

「え、あ……」
「出てけよ」 

 狼狽える神野の肩を押すが立ちつくして動かない。それに痺れを切らし、腕をつかむと乱暴に引っ張りながら玄関へと向かう。

「まって、違う」
「二度と来るな」

 言い訳なんて聞きたくない。神野を外へと追い出すと玄関のドアを乱暴に閉じた。
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