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スタートラインと新たな絆

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 クラスに入ったとき、俺を出迎えたのは逞しい男の背中だった。
 さらに言えば、目の前の男は誰かと揉めていた
「俺は、魔法工学を専攻すると決めていると、何度も言っているすまないが騎士科には行けない」
「いやいや、その体格を活かさないってもったいないでしょ、それに魔法工学って今時流行らないし時間の無駄だって」
 そんな会話を聞いて、内心イラつきながらも声をかける
「すまないが、どいてもらえるかな。そんなところで会話されると入ってくる人間の邪魔になるぞ」
 そういうと、目の前にいた男は申し訳なさそうに道を開けると、彼と会話していたであろう男はふてくされたように道を譲ってくれた、この男も先の彼に比べたら細く見えるが、引き締まった体をしており見るからに何かの武術をやっているとわかる風貌をしている。
「すまない」
 そう断って俺は彼らの前を通り過ぎるもののついでに細身の男に声を変える
「そうそう、流行ってるとか云々ではなく自分が何を学びたいってことが重要で他人が偏見で強要するのはセンスないんじゃないか、魔法工学がなかったら今の生活ないし」
 そういい、体格のいい男は同意するように頷き、細身のほうは苦虫を噛み潰したように顔をゆがめる、ここで魔法を使わないくらいには理性的で安心した。俺はそう言い残し手招きするニーナのそばに行きその後ろの先に腰を下ろした。
「ご苦労様」
「なにが?」
 煽るように笑うニーナに眉をひそめる、ニーナは顔を動かさず眼だけでさっき俺が話していた細身の方を指す
「ああいう輩の相手、好きじゃないでしょ? 私が教室に着いてからずっとあんな感じだったし」
「まぁ、向こうが言ってることも理解できなくはないからな。とはいえ他人の道にとやかくいうのは嫌いなだけだ」
 そういい、嵌めていた手袋を外して制服のポケットに入れる、流石にこれからの式には相応しくないし初日から目立ちたくないからな……もう遅いかもしれないが
「ちょっといいか?」
 そう声をかけられて振り向くとそこには先ほど話した体格のいい男がいた。
「割り込むようですまない、先ほどはすまなかった」
 そういい男は小さく頭を下げる俺はそれを手で制する
「別に、あの状況だと君が邪魔だっただけだし、向こうの言い分に気まぐれに返しただけだから……えと……」
「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺の名前はグラシナス・ホルン、イルミナ領の出身だ」
「イルミナ領のホルンって魔力馬車の……」
「あぁ、そのホルンだ。俺は三男坊だけど」
 そういいグラシナスは俺の隣の席に腰を下ろす。
「カズミ・スミス、ゲシュバルト領の出だ」
「私はニーナ・ゲシュバルト。カズミと同郷よ、ゲシュバルトだけど領主家じゃなくて商会のほうね」
 俺たちも自己紹介を返し、俺は入り口でのことを思い出しグラシナスに声をかける。
「そういえば、グラシナスは……」
「グランでいいぞ、あとそんなに堅苦しい口調でなくてもいい」
「グランは魔法工学の専攻みたいだが間違いないよな?」
「ああ、そうだがカズミもか?」
「あぁ、実家が工房やってたのもあってか昔から好きで独学で魔力回路を書いてたからこの学校でさらに勉強しようと思ってな、そっちも家業の影響か?」
「いや、実家は知っての通り魔力馬車を作ってるが俺は小型魔道具の方に興味があってそっちの道に行こうかと思ってな」
「なるほど、俺も似てるけど魔法補助具の方が専門かな」
「補助具……杖か。ずいぶんマイナーな分野だな」
「俺自身、魔法を使うことに難があってな、その関係で勉強を始めたのさ」
 そういい、ポケットに仕舞っていた手袋を取り出す。
「ちなみにこの手袋が俺の作った『杖』だ」
「これがか? てっきり棒状の物だと思った」
「あっちだと、携帯性とか実用性に難があってな」
「はいはい、盛り上がっている所悪いけど、そろそろ時間よ」
 そうニーナが声をかけると同時に教室に教師が入ってきて移動を呼びかけた。
 俺とグランは話を切り上げると、入学式が行われる講堂へ移動を始めた。










「えー、ガルラニュール魔法学校は我国の未来を若人の未来を切り開くための力を育みために…………」
 入学式、来賓である文科大臣が祝辞を述べる中、俺は不意に来る眠気を紛らわせるため、小さく欠伸をしていた。
 正直、この手の席での来賓の挨拶なんて『おめでとう』の一言で十分なんだよな。
 無駄に尺だけあって中身がない話を聞くより、早く終わらせて級友との交流に時間使ったほうが、有意義だと思うんだよなこのあとのスケジュール詰まってるしさ
「眠そうだな」
 眠さとめんどくささが混じった顔をしてると、グランが小さく声をかけてきた。
「昨日徹夜で魔法回路組んでたから、正直限界点突破してる」
 そういい、欠伸を噛み殺す。
 深呼吸して頭覚ましたいが式の最中だとそれもしにくい、腕をつねって眠気を騙して俺は思考の海に頭を切り替える、昨晩思いついた新しい回路のシミレーションを脳内で繰り返す。
「……であるからして、私は君たちの未来に幸あることを願っている」
 そういいもんか大臣は祝辞を締めくくり壇上から下りた。
 そのあとは、クラス担任の発表とこのあとのスケジュールの連絡がつつがなく終わり、教室に戻った。
 ウチのクラス担任はどうやら若い女の先生みたいだ。
 やや、シュートボブの脱色気味の黒髪に無気力そうに垂れ下がったブラウンの瞳、皺だらけの白いワイシャツと同じく皺の多い黒のパンツスーツという出で立ち、傷だらけの両手から何かしらの技術科目を受け持ってるようだ。
 俺はクラスの流れに従って教室への道を歩いた。














「えー、このクラスを担当するジルヴィア・ハランツだ。専門科目は魔法工学、正直自分の研究に集中したいからなるべく面倒事は持ち込まないでくれ、相談には乗るがな」
 そういい、ポケットから棒付きキャンディーを取り出し口に入れる器用に口のはしに収めると、手元のバインダーに視線を落とす。
「このあとは、各自の専攻の希望確認と現時点の実力の確認のためのテストだな、ウチは一番最後だからそれまでに配った用紙に専攻希望を書いて提出するように、実力テストに関しては受験時の的当てとは違って、ある程度実践的なものになるから、心の準備はしときな」
 そう言うと、ジルヴィア先生は教卓のそばに置かれた椅子に座ると寝始めた。
 講堂ではあまり良く見てなかったが、この教師目の下のクマや服装で印象良く見えなかったが顔立ちは整ってるし、スタイルも悪くない猫背で台無しだけど、そんな感じで担任を観察しながら俺は手早く用紙に必要事項を書き込むと教卓に置かれた箱に入れると、このあとのテストのための英気を養うため、眠りについた。
 この試験が原因でトラブルに巻き込まれるとは予想だにしなかった。




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