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7.計画

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計画

 私が絵の存在を知ったのは偶然だった。退職届を出そうと、三か月ぶりに行った職場で、偶然にも元同僚に合い、偶然口が軽い奴で、偶然その絵を運搬する予定だと聞いた。

 五年前から、私の見る景色からは色が消えていた。世界そのものが白黒になったわけではない、ましては目が悪くなったわけでもない。そのことは、絵を見て分かった。

 偶然であり奇跡であったのはわかっている。だが、その時その絵を見た瞬間から、これは、導きだと思った。そして気づけば、その「002」と書かれた絵を内密に持ち出していた。計画など少しも立ててはいない。自分がどんなことをしているのかは、痛いほどわかっていた。

 便所にいった同僚の鞄からトラックのカギを盗み、数分軽く話をした後。同僚は今日はもう家に帰って寝ると言い、家に帰った。彼はプライベートの車と仕事用のトラックのカギは分けていると聞いたことがある。

 そのあとのことはもうほとんど覚えていない。唯一、鮮明に焼き付いていた記憶は、学生を引きかける数秒前だった。自分の手で人を殺める。そんな状況で頭の中では全く別の絵のことを考えていた。盗んだはいいが、どこに隠そうか、見つからない場所はないか。アクセルを踏んだ足は離れようともしない。ブレーキをかけるという選択肢がもう私の中にはなかったのだ。私はどうなってもいい、でもこの絵だけは、なんとしても私のもとに。ずり落ちそうな、太い黒ぶちの眼鏡を人差し指で上げた。そこからはまた、なにも覚えていない。
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