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ガキ扱いすんなよ
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「やっぱり母親にはなれないのかなぁ……?」
「ん? 何か言った?」
ご飯茶碗を見つめ盛大にため息を吐く美空の顔を、晴斗が心配そうに覗き込んだ。
「いえ。何でもありません」
食器棚の扉を閉めると、美空はにっこり微笑んだ。
いつまでもお客様用茶碗を使っている美空に、「そろそろ美空専用アイテム置こうよ」と言う晴斗の提案のもと、今日は二人でショッピングに出掛けて来たのだ。
紫雲はテニス部仲間と一緒に、朝から図書館で勉強だ。少しは受験生の自覚があるらしい。
買って来たおニューの食器を並べていると、美空の脳裏に昨日の紫雲の言葉が蘇ってきた。
ーー母親だなんて……思ってない……。
紫雲は確かに、そう言ったのだ。
あれは、美空は母親の器ではないという意味なのか。それとも、この世で母親は、実の母親ただ一人だということなのか……。
一晩考えても、答えは出なかった。
二人の物とは違う女性ものの食器たちが、美空の目には、異質な存在に映る。なんだかまるで、二人の生活を邪魔しているみたいだ。
「それ片付けたら、お茶にしようか」
晴斗の優しい笑顔が、美空の不安を包み込む。
「はい」
笑顔で返すと、美空は、散らばっている包装紙を片付け始めた。
「あの……」
早速買ってきたマグカップにコーヒーを淹れると、美空は話を切り出した。
「ん?」
美空の顔を伺いながら、晴斗はコーヒーを一口飲んだ。
「気を悪くしたらごめんなさい」
「何? 怖いんだけど」
マグカップを両手で包み込み、晴斗はわざとおちゃらけて聞いた。
「紫雲君のお母さんって……、どんな方……だったんですか?」
「どうしたの? いきなり」
「ごめんなさい。ちょっと、気になって……」
マグカップに描かれている猫のシルエットを撫でながら、美空は申し訳なさそうに俯いた。
「もしかして……。昨日から元気がないのって、そのせい?」
「えっ?」
驚いて顔を上げると、心配そうな晴斗の顔がそこにあった。
「昨日迎えに行った時、なんか様子がおかしかったから……」
昨日は紫雲がいるため、十時にはお開きとなり、晴斗から車で迎えに来てもらったのだ。
恵令奈と哲太は、引き続き何処かに飲み直しに行ったようだ。高校生の前では、できない話もあるのだろう。
「美空、車の中で一言も話さなかったから、どうしたのかと思って」
「そうでしたっけ?」
「うん。紫雲もずっとスマホいじってたし」
「ああ……」
「紫雲に何か言われた?」
美空はドキリとした。紫雲の思いつめた表情が頭をかすめる。
晴斗に相談してみようか? 思ってすぐに考え直した。
紫雲の真意がわからない今、むやみに話すのは得策ではない。
もしも、晴斗が紫雲に問いただしてしまったら、彼を傷つけてしまうかも知れない。そうなれば、せっかくうまくいっている三人の関係を壊しかねない。
いずれ紫雲の気持ちを確かめることになったとしても、それは晴斗には関係のないことだ。
これは自分と紫雲の問題だ。なるべくなら、晴斗の手を煩わせたくはない。
それに、紫雲も多感な年頃だ。こんな話、父親には聞かれたくないだろう。
「いえ。ただ単純に、興味があるだけです」
曖昧な笑顔を浮かべると、美空は恥ずかしそうに晴斗を見つめた。
「そっか……」
同じく曖昧な表情で見つめ返した晴斗は、「ちょっと待ってて」と言い残し、そのまま部屋から出て行った。
「ん? 何か言った?」
ご飯茶碗を見つめ盛大にため息を吐く美空の顔を、晴斗が心配そうに覗き込んだ。
「いえ。何でもありません」
食器棚の扉を閉めると、美空はにっこり微笑んだ。
いつまでもお客様用茶碗を使っている美空に、「そろそろ美空専用アイテム置こうよ」と言う晴斗の提案のもと、今日は二人でショッピングに出掛けて来たのだ。
紫雲はテニス部仲間と一緒に、朝から図書館で勉強だ。少しは受験生の自覚があるらしい。
買って来たおニューの食器を並べていると、美空の脳裏に昨日の紫雲の言葉が蘇ってきた。
ーー母親だなんて……思ってない……。
紫雲は確かに、そう言ったのだ。
あれは、美空は母親の器ではないという意味なのか。それとも、この世で母親は、実の母親ただ一人だということなのか……。
一晩考えても、答えは出なかった。
二人の物とは違う女性ものの食器たちが、美空の目には、異質な存在に映る。なんだかまるで、二人の生活を邪魔しているみたいだ。
「それ片付けたら、お茶にしようか」
晴斗の優しい笑顔が、美空の不安を包み込む。
「はい」
笑顔で返すと、美空は、散らばっている包装紙を片付け始めた。
「あの……」
早速買ってきたマグカップにコーヒーを淹れると、美空は話を切り出した。
「ん?」
美空の顔を伺いながら、晴斗はコーヒーを一口飲んだ。
「気を悪くしたらごめんなさい」
「何? 怖いんだけど」
マグカップを両手で包み込み、晴斗はわざとおちゃらけて聞いた。
「紫雲君のお母さんって……、どんな方……だったんですか?」
「どうしたの? いきなり」
「ごめんなさい。ちょっと、気になって……」
マグカップに描かれている猫のシルエットを撫でながら、美空は申し訳なさそうに俯いた。
「もしかして……。昨日から元気がないのって、そのせい?」
「えっ?」
驚いて顔を上げると、心配そうな晴斗の顔がそこにあった。
「昨日迎えに行った時、なんか様子がおかしかったから……」
昨日は紫雲がいるため、十時にはお開きとなり、晴斗から車で迎えに来てもらったのだ。
恵令奈と哲太は、引き続き何処かに飲み直しに行ったようだ。高校生の前では、できない話もあるのだろう。
「美空、車の中で一言も話さなかったから、どうしたのかと思って」
「そうでしたっけ?」
「うん。紫雲もずっとスマホいじってたし」
「ああ……」
「紫雲に何か言われた?」
美空はドキリとした。紫雲の思いつめた表情が頭をかすめる。
晴斗に相談してみようか? 思ってすぐに考え直した。
紫雲の真意がわからない今、むやみに話すのは得策ではない。
もしも、晴斗が紫雲に問いただしてしまったら、彼を傷つけてしまうかも知れない。そうなれば、せっかくうまくいっている三人の関係を壊しかねない。
いずれ紫雲の気持ちを確かめることになったとしても、それは晴斗には関係のないことだ。
これは自分と紫雲の問題だ。なるべくなら、晴斗の手を煩わせたくはない。
それに、紫雲も多感な年頃だ。こんな話、父親には聞かれたくないだろう。
「いえ。ただ単純に、興味があるだけです」
曖昧な笑顔を浮かべると、美空は恥ずかしそうに晴斗を見つめた。
「そっか……」
同じく曖昧な表情で見つめ返した晴斗は、「ちょっと待ってて」と言い残し、そのまま部屋から出て行った。
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