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ガキ扱いすんなよ
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心配していた紫雲との関係は、あの日以降も良好で、何事もなかったかのように接してくる紫雲の姿に、美空は少し安堵した。
二人の間の変化と言えば、連絡先を交換した事だ。
「何かあった時に、連絡できる相手は多い方がいいと思うんだ」という晴斗の勧めで、二人はLINEを交換した。
時々送られてくる何の変哲も無いメッセージに、美空の胸は僅かに弾む。
息子と言えども、イケメン男子高校生と繋がっている現状に、美空の顔は緩みっぱなしだ。
丸く切り取られたテニスボールのアイコンを見るたび、美空は幸せな気持ちになった。
ある晩。
自宅で持ち帰りの仕事をしていると、突然紫雲からLINEが届いた。
『タピオカミルクティー飲んでみた』というメッセージの後、おどけた表情でストローを咥える紫雲の画像が続けて送られてきた。
どうやら最近学校の近くにできたカフェに、友だちと一緒に立ち寄ったらしい。背後に紫雲と同じ高校の制服を着た学生の姿がちらほら見える。
『今度父さんと行ったら?』の直後、『やっぱムリ』『中年オヤジ引くわー』と続き、オエッとした表情のスタンプが送られてきた。
思わずぷっと吹き出した後、『晴斗さんだって、まだまだイケます!』と、美空も負けじと怒り顔のスタンプを付けて送り返した。
根を詰めて作業をしていた美空は、この予期せぬ面白メッセージに、すっかり力が抜けてしまった。
息抜きにコーヒーでも淹れようと立ち上がった時、再び受信を知らせる通知音が鳴った。
『今なにしてんの?』
まるで恋人同士のやり取りみたいなメッセージに、自然と顔がニヤけてしまう。カメラが作動していないのが幸いだ。
『オバケ作ってる』
『オバケ?』
『夏祭りに使うオバケ』
美空の園では毎年、小学校が夏休みに入った頃を目掛けて、夏祭りを行っている。
夏祭りには、お化け屋敷やゲームコーナーの他、綿あめやポップコーンなどの屋台もある。
卒園児や保護者も招く為、その日は大変な賑わいとなる。夏の一大イベントだ。
夏祭り自体は午前中で終わるが、年長児はその後『お泊り保育』というイベントがある。
一旦帰って支度をし、夕方再び登園するのだ。
初めて一人で外泊する子も多く、楽しみ半分、不安半分の夜を過ごす。
美空が今作っているのは、日中のメインイベント、お化け屋敷に使うオバケだ。
白い布を袋状に縫い、詰め物をし、巨大なてるてる坊主オバケを作っているのだ。
お世辞にも上手いとは言えないデザイン画をLINEで送ると、『なにこれ』『ウケるww』と返ってきた。
コメントが、いちいち若者だ。
『実物はもっと可愛いから』
怒り絵文字を交えて送れば、『オバケが可愛いとかww』と返ってくる。
ああ言えばこう言う紫雲に、美空は『地味にムカつくからww禁止!』と送った。
完全な八つ当たりだ。
「ちょっと大人気なかったかな?」
美空が呟いた時、『ごめん』と申し訳なさそうに頭を掻くキャラクターのスタンプが送られてきた。
そういうところが女心をくすぐるのだということを、彼は気付いているのだろうか?
「こういうのを天然タラシって言うんだろうなぁ」
画面を見つめ、美空はくすりと笑った。
暫く間が空いたので、コーヒーを淹れて戻って来ると、紫雲から新しいメッセージが届いていた。
『また手伝いに行ってもいい?』
手伝いって、夏祭りのことだろうか?
『夏祭り?』と送ると『そう』『夏休みだし』と返ってきた。
『勉強は?』
『今頑張ってるから大丈夫』
『受験生だよ?』
『知ってる』『息抜きも必要』『勉強しすぎて死ぬ』
立て続けに三件送られてきた。
死ぬほど勉強しているようには到底見えないが、その後も『いいでしょ?』『お願い』『ちゃんと勉強するから』と続き、あまりのしつこさに、美空はついに根負けした。
『わかった。園長に聞いてみる』
送信した直後、『やったー』とバンザイするキャラクターのスタンプが送られてきた。
「可愛すぎだし」
美空はトーク画面を見つめ、声を上げて笑った。
二人の間の変化と言えば、連絡先を交換した事だ。
「何かあった時に、連絡できる相手は多い方がいいと思うんだ」という晴斗の勧めで、二人はLINEを交換した。
時々送られてくる何の変哲も無いメッセージに、美空の胸は僅かに弾む。
息子と言えども、イケメン男子高校生と繋がっている現状に、美空の顔は緩みっぱなしだ。
丸く切り取られたテニスボールのアイコンを見るたび、美空は幸せな気持ちになった。
ある晩。
自宅で持ち帰りの仕事をしていると、突然紫雲からLINEが届いた。
『タピオカミルクティー飲んでみた』というメッセージの後、おどけた表情でストローを咥える紫雲の画像が続けて送られてきた。
どうやら最近学校の近くにできたカフェに、友だちと一緒に立ち寄ったらしい。背後に紫雲と同じ高校の制服を着た学生の姿がちらほら見える。
『今度父さんと行ったら?』の直後、『やっぱムリ』『中年オヤジ引くわー』と続き、オエッとした表情のスタンプが送られてきた。
思わずぷっと吹き出した後、『晴斗さんだって、まだまだイケます!』と、美空も負けじと怒り顔のスタンプを付けて送り返した。
根を詰めて作業をしていた美空は、この予期せぬ面白メッセージに、すっかり力が抜けてしまった。
息抜きにコーヒーでも淹れようと立ち上がった時、再び受信を知らせる通知音が鳴った。
『今なにしてんの?』
まるで恋人同士のやり取りみたいなメッセージに、自然と顔がニヤけてしまう。カメラが作動していないのが幸いだ。
『オバケ作ってる』
『オバケ?』
『夏祭りに使うオバケ』
美空の園では毎年、小学校が夏休みに入った頃を目掛けて、夏祭りを行っている。
夏祭りには、お化け屋敷やゲームコーナーの他、綿あめやポップコーンなどの屋台もある。
卒園児や保護者も招く為、その日は大変な賑わいとなる。夏の一大イベントだ。
夏祭り自体は午前中で終わるが、年長児はその後『お泊り保育』というイベントがある。
一旦帰って支度をし、夕方再び登園するのだ。
初めて一人で外泊する子も多く、楽しみ半分、不安半分の夜を過ごす。
美空が今作っているのは、日中のメインイベント、お化け屋敷に使うオバケだ。
白い布を袋状に縫い、詰め物をし、巨大なてるてる坊主オバケを作っているのだ。
お世辞にも上手いとは言えないデザイン画をLINEで送ると、『なにこれ』『ウケるww』と返ってきた。
コメントが、いちいち若者だ。
『実物はもっと可愛いから』
怒り絵文字を交えて送れば、『オバケが可愛いとかww』と返ってくる。
ああ言えばこう言う紫雲に、美空は『地味にムカつくからww禁止!』と送った。
完全な八つ当たりだ。
「ちょっと大人気なかったかな?」
美空が呟いた時、『ごめん』と申し訳なさそうに頭を掻くキャラクターのスタンプが送られてきた。
そういうところが女心をくすぐるのだということを、彼は気付いているのだろうか?
「こういうのを天然タラシって言うんだろうなぁ」
画面を見つめ、美空はくすりと笑った。
暫く間が空いたので、コーヒーを淹れて戻って来ると、紫雲から新しいメッセージが届いていた。
『また手伝いに行ってもいい?』
手伝いって、夏祭りのことだろうか?
『夏祭り?』と送ると『そう』『夏休みだし』と返ってきた。
『勉強は?』
『今頑張ってるから大丈夫』
『受験生だよ?』
『知ってる』『息抜きも必要』『勉強しすぎて死ぬ』
立て続けに三件送られてきた。
死ぬほど勉強しているようには到底見えないが、その後も『いいでしょ?』『お願い』『ちゃんと勉強するから』と続き、あまりのしつこさに、美空はついに根負けした。
『わかった。園長に聞いてみる』
送信した直後、『やったー』とバンザイするキャラクターのスタンプが送られてきた。
「可愛すぎだし」
美空はトーク画面を見つめ、声を上げて笑った。
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