あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

文字の大きさ
41 / 90
内緒の遊園地

しおりを挟む
 爽やかな風が頬を心地良く撫でていく。
 ベランダで洗濯物を干し終えた美空は、青く澄み渡った空を見上げた。
「気持ちいい」
 あまりの心地良さに、自然と声が漏れる。
 こんなに天気の良い日曜日に、よりによって休日出勤しなければならない晴斗に憐みのLINEを送ると、美空は大きく伸びをした。

 ここの所、土日は大抵デートに時間を費やしていた美空にとって、久しぶりに訪れたフリーの休日。
 天気も良いのでオープンカフェで読みかけの小説でも読もうかと思案しながら部屋に戻ると、テーブルの上のスマホが着信を知らせる音を立てた。

「電話? 誰だろう?」
 このご時世、メールやLINEである程度の用事は足りる。わざわざ電話を掛けてくるなど、余程の事に違いない。
 急いでスマホを取り上げると、美空は画面表示を見た。
美颯みはや?」
 表示されていたのは、妹の名前だった。
 もしや家族に何かあったのではと、美空は慌てて通話ボタンをタップした。

「もしもし?」
「あ、お姉ちゃん?」
 受話口から、美颯の忙しない声が流れてきた。
「どうしたの? 何かあった?」
 妹のただならぬ慌てように、美空は声を強張らせた。
「実は……」
 美空の声を聞いて安心したのか、美颯は少しだけ声のトーンを落とした。

 今日は久しぶりに友だちとランチの約束をしていたのだが、今朝になって夫が急遽出勤することになり、息子のしょうを預けられなくなったというのだ。
「こんな日に限って、じぃじとばぁばも出掛けてるし……」
『じぃじ』と『ばぁば』は、美空の両親だ。
 二人は揃って地域の旅行に参加しており、朝早くからブドウ狩りへと出掛けたらしい。
 共働きの為、日頃地域との交流が希薄な二人は、年一回のこの旅行を毎年楽しみにしているのだ。
「で、翔を見る人がいないってことか」
「そうなの。お姉ちゃんが駄目なら私が連れて行くしかないんだけど……」

 受話口の向こうで、溜息を吐く音がした。
 美颯の声からは、連れて行きたくないオーラがひしひしと伝わってくる。確かに、せっかくの友だちとのランチに子連れで行ったら、思う存分楽しめないだろう。それに、相手にも気を遣わせることになる。
「いいよ別に。今日暇だし」
 一人で時間を持て余すより、一緒に過ごす相手がいた方が楽しいだろう。
 美空は二つ返事で承諾した。

「良かったぁ。持つべきものは、保育士の姉だね」
「調子いいんだから。後できっちり保育料戴きますからね」
「ええ? ブドウでいい?」
「それ、父さんたちの旅行土産じゃない」
「へへっ。バレた?」
 ひとしきりふざけ合った後、支度が出来次第迎えに行くと約束し、美空は通話を切った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

処理中です...