転生の行く末

かじ たかし

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試練その参

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 蒸し暑い空気の中大型車独特の低いアイドリング音が、静まり返った夜に響き渡っている。エコもへったくれもない。だが自分のその内の1人であるのには間違いない。軽い夕食を済ませた後、熊田紳助は缶チューハイを寝酒に一本飲む事にした。今日はPAで寝泊まりして明日の朝まで運転する事もない。時刻はPM8時を少し過ぎた所である。世間ではゴールデンウィークに差し掛かっていて、更には今の時間はゴールデンタイムである。にも拘らず誰とも関わりようのない紳助は携帯電話が唯一の友達だった。明日の朝荷物を積めば、その後の配達はない為2日間の連休がある。特に予定等ないが地元に帰れば彼女の朱鳥と久々に会えると勝手に決め込んでいる。彼女と言えども唯の性欲を満たす動物位にしか思っていない。現に連絡を取り合っている異性は片方の指を折っても足りないくらいだ。休日に朱鳥と会えない時は替えの女で欲求を満たす、言わば下衆である。
大した趣味も持たない紳助はお金の遣い所がなく、風俗やキャバクラに注いでいる。それも休日が少なく疎らな為仕方のない事でもあった。
コンコンとトラックのドアをノックする音が聞こえカーテンを開ける。
「オニイサン、ゴセンエンデドウデスカ」見るからに安っぽいフィリピン系の女性が片言の日本語で語りかけてくる。
PAでは違法行為である風俗紛いの商売が存在する噂は聞いていた。風俗に全く抵抗のない紳助だが、こんな汚れた女に金を叩く気にはなれないらしく、「いらねぇよ。他所でやんな」きつく言い放ち一瞥をくれ手で追っ払った。
「もっとマシな奴いねぇのかよ」カーテンを再び閉め1人呟いた。
 紳助はどちらかとゆうと美形に入る顔立ちで女受けが良く、それに加えて話術にも長けている為女には苦労していない。朱鳥もそうだった。真夏の海でナンパして出会った。ナンパで出会ったのだから一般的に聞こえは良くないが、紳助自身いつもの感覚とは違っていた。何処にでもいそうな尻軽女ではなく、正式に交際するまで手を出さないでくれと言う位の女だった。そのガードの固さが紳助の闘争心に火を点けたのだ。勿論今となっては何とも思っていないのだが。する事もなく1人想いふけっているとムラムラしてくる。さっきのフィリピン人らしき女が恋しくなり、カーテンの隙間から外を覗くと右斜め前のトラックに交渉を仕掛けていた。どうせ断わられるだろう。断わられたら直様俺が相手してもらおうと決意する。しかし意外にも重い10tトラックの扉が開き女が中に吸い込まれていった。相変わらず股間はムズムズしている。とりあえず朱鳥に電話を掛ける。しかし虚しくもコール音が数回なり留守電に切り替わってしまう。長い溜息を吐き1人虚しくも長い夜を過ごす事になった。
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