異世界チートはお手の物

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第11話 少女の名はミーシャ

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 その女の子は割と小柄で、セミロングの綺麗な水色の髪が印象的だった。年齢は14,5歳といったところだろうか。服装はローブなのでおそらく魔法使いなんじゃないかと思う。

 そして、その魔法使いらしき女の子は、さっきからずっと俺の前でブルブル震えながら、襲わないで食べないでと念仏のようにぶつぶつ唱えている。
 俺はさすがに見かねて声をかけた。

「おーい。別に襲ったり食ったりしないから大丈夫だぞー」

「襲わないでください食べないでくださ……え? あ、あれ? 人? な、なーんだモンスターじゃなかったんですね。よかったー」

 そう言うと女の子は安堵の表情になった。
 どうやらモンスターが襲いかかってきたと思っていたらしい。

「やっと落ち着いたか。えーっと、それで君は一体何者なんだ? 名前は?」

 聞きたいことはいろいろあるが、まず名を尋ねる。

「わ、私ですか? 私はですね―――」

 女の子が名乗ろうとしたところで、エミリアが遅れてやってきた。

「はあ……はあ……。置いてかないでよもう。こんな迷宮ではぐれたら大変なことになるんだから……って、誰よその子?」

「俺も今丁度それを聞いてたとこだよ。で、君の名前は?」

「あ、はい。私はミーシャ・パートレンといいます。魔法使いやってます」

 やっぱり魔法使いか。まあどう見てもそんな感じだったしな。

「ミーシャっていうのか。あー、俺も名乗っとくか。俺はユウト・アキヅキ。そんでこいつが――――」

「エミリア・ウィルフォードよ」

「ユウトさんとエミリアさんですね。よろしくお願いします。あ、あのー、私からも質問いいですか?」

「おう、いいぞ」

「ここはどこですか?」

「「……へ?」」

 予想外の質問に俺とエミリアは間抜けな声を上げてしまった。

「……えーっと、質問の意味が良く分からないんだけど、ここにいる人間がここがどこか知らないってよく分からないんだが」

「そ、それは……」

 困った表情になるミーシャ。一体どうしたというのか。

「ユウト、この子何か訳ありみたいよ。だってここにあたしたち以外の人がいるってそもそもおかしいもの。ここはギルドが昇級クエスト用に作ったダンジョンで、ギルドにある魔法陣以外での出入りは基本的にできないんだから」

「あー」

 なるほど。確かにそうだ。
 まあこっそりギルドに入って、俺たちの後にあの青い魔法陣に乗って転移してきたなんてことも考えられはするが、部外者がいたら受付のエマがまず気付くだろうし、無理だろうな。でも一応聞いてみるか。

「なあミーシャ。お前って実はギルド所属の冒険者なのか?」

「い、いえっ、私は冒険者なんかじゃないです。冒険者には憧れてますし、なってみたいなって気持ちはすごくあるんですが、私は落ちこぼれの魔法使いなのでたぶん無理ですし……」

 そう言ってしゅんとしてしまうミーシャ。ちょっとかわいい。
 うーん、冒険者ではないとなると、やっぱギルドから転移してきたわけではないよなあ。

 となると自然に1つの疑問が浮かんでくる。
 俺はその疑問を解消するためにミーシャに尋ねた。

「なあ、ミーシャ。ここは俺とエミリアみたいな冒険者しか入れない冒険者専用のダンジョンなんだ。一体このダンジョンにどうやって入ってきたんだ?」

「そ、それはですね……って、ここは冒険者のダンジョンで2人は冒険者なんですか!?」

 俺の質問に答えようとしたかと思いきや、突然ミーシャがそう叫んだ。

「そ、そうだよ。まあ俺はエミリアよりも歴が短い新米冒険者だけどな」

「あたしも新米みたいなもんよ。てかあんたの場合、実力的には新米ってレベルじゃない気がするけどね」

「す、すごいです。初めて冒険者の人に会いました。あ、握手してもらっていいですか?」

 そう言われて俺とエミリアはミーシャと握手する。いやー、握手を求められるなんてなんか有名人みたいだなあ。
 ……って、そうじゃないだろ!

「そんなことはいいんだよ! どうやってここに入ってきたかが知りたいんだ」

「あっ、そうでしたね。すみません。ここへは転移魔法の練習中に失敗して入ってきちゃいました」

「て、転移魔法? 失敗?」

 転移魔法って言うと魔法大全に載ってたな。確か自分の身体やそれ以外にも物や人、動物とかを瞬間移動させられる魔法だ。

「はい。実は私、最近転移魔法を覚えようと練習してまして、その練習中に10メートルくらい移動してみようと転移したら、魔法が暴発して気付いたらここにいました」

 な、なんじゃそりゃ。ということは完全にミスでここに入っちゃったてことか。
 てか転移魔法って結構難しかったはずじゃなかったっけか。俺もまだ覚えられてないし。
 俺と同じことを思ったのかエミリアが今度は質問する。

「ねえ、ミーシャ。さっきあなた自分を落ちこぼれって言ってたけど、転移魔法って高難度の魔法のはずよね。それが使えるってことは、あなた実はすごいんじゃないの? あたし使える人初めてみたわよ」

「い、いえっ! 全然すごくはないんです。使えると言ってもあんまり成功したことないですし。そもそも私、この魔法以外ぜんぜん使えないんです」

「そ、そうなの? それはそれで凄いわね。極端というかなんというか……」

「そんなことは……。私、ファイアボールすらまともに撃てなくて故郷の村の魔法使いの中でも特に落ちこぼれで……。でも、たまたま本で見た転移魔法をなんとなく使ったらそれはなぜか使えたんです。だからマスターしようと思ってさっきまで村の近くで練習をしてたんです」

「ふーん。まあ確かに転移魔法みたいな無属性魔法って、普通の魔法とは勝手が違うっていうしね。ミーシャは無属性向きなのかもね」

 へー、そういうものなのか。勉強になったぜ。

「あれ? ちょっと待って。今、村って言ったわよね?」

 エミリアがミーシャに尋ねる。心なしか驚いてるような表情になっている。

「はい、言いました。それが何か?」

 キョトンとするミーシャ。

「自分の村で練習してたの? 王都ジールでとかじゃなくて?」

「はい。出身のマリス村の近くで練習してました」

「マ、マリス村!? それって王都の何千キロも北の村じゃない! そんな長距離を転移したってわけ? 暴発にも程があるわよ。ミーシャ、あんたやっぱタダものじゃないかも」

「そ、そうですかね。というか王都ジールのクエストダンジョンなんですかここ? そんなとこまで転移してたなんて……。びっくりです」

「ま、まあ正確には王都の近くに作られたダンジョンってのが正しいはずだけどね。はあ、なんかユウトといいミーシャといい、最近あたしの周りにおかしな人が現れすぎて参っちゃうわね」

 おかしな人で悪かったな。俺はエミリアを心の目で睨んだ。本物の目で睨んだら後が怖いからね。。

「ま、まあとにかくあれだな。入ってきてしまったもんはしょうがないし、とりあえずミーシャも俺たちと一緒行こうぜ」

「え? いいんですか?」

「ああ。まさか一人置いてくわけにもいかないしな。いいだろエミリア?」

「もちろんよ。一緒に行きましょうミーシャ」

「あ、ありがとうございます!」

 嬉しそうに頭を下げるミーシャ。いいってことよ。あ、そうだ。

「ミーシャ。1つお願いしてもいい?」

「はい。なんでしょうか?」

「俺を転移魔法で瞬間移動させてくれよ。あの辺にでいいから」

 そう言って俺は数メートル先を指差す。

「ええっ!? ユウトさんを転移するんですか!? や、やめた方がいいですよ。まだ失敗ばっかですし。現にここにも失敗して入った訳ですし……」

「少しの距離ならきっと大丈夫だって。頼むよ。せっかくだからどんなもんか味わってみたいんだよ」

「そ、そこまで言うならやってみます。いきますよ? えいっ!!」

 ミーシャの声とともに俺の身体は瞬間移動した。
 しかし、移動先は俺の指定した位置とはならず、気付けば俺は壁に左半身が埋まった状態になっていた。

「な、なんじゃこりゃあああ!!」

「す、すみませえええん!!」

「何よその格好!! あははははっ!!」

 転移に失敗しペコペコと頭を下げ必死で謝るミーシャと、俺の滑稽な姿に大爆笑するエミリア。
 笑い事じゃねえっつーの! どうすんだこれ!

 その後、仕方ないので魔法をぶっ放して壁を破壊し、俺はなんとか脱出に成功した。
 あとで壁の修理費とか請求されないだろうかと、少し不安になる俺なのだった。
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