【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:秋

秋のランチ

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※お腹が空く描写を意図的にしておりますので、ご注意ください。

 小鍋にミリンを入れ強火でアルコールを飛ばす。
 砂糖を煮溶かして、醤油を加えて、粗熱がとれたら、カエシを冷蔵庫で保存。

 薄い櫛形に切った玉葱をラッキョウ酢に漬けて、冷蔵庫で保存。

 豚ヒレ肉を塊のままフライパンで焼き目をつける。
 肉をジッパー付きの保存袋に入れて、グレープフルーツジュースをヒタヒタになるまで加えて、湯煎で弱火で煮る。

 寸胴で、大量の乱切りの玉葱を炒めながら、みじん切りにした人参、ジャガイモ、セロリ、怪しくなってきたプチトマトを筆頭に、半端な残り野菜を加える。
 ストレス解消に握りつぶしたホールトマト、更にグレープジュースを入れ、出汁とりにも使える布製の小袋お茶パックに適当なローリエとかのハーブを詰めてブーケガルニとして、フタを閉めて弱火で、しつこく煮込む。
 玉葱が煮溶けたら、フタを開けて、水気を飛ばして煮詰める。

 鍋で豚バラ肉の細切れ、ゴボウなどを炒め、水を入れて煮る。

「ランチ食べたい!」
「食べたい!」
 菊池さんが叫び、九十九さんが調子を合わせた。
 今は、土曜日の三時過ぎ、有名無実の喫茶タイム真っ最中だ。
 菊池さんは、いつものように最近お気に入りのギネスに、パウンドケーキとカボチャのシブーストクレープの二個食い。
 九十九さんは、パウンドケーキとアイスコーヒーのセットだ。
 ちなみに、パウンドケーキは、クルミ入りでクルミのリキュール、ノチェロを染み込ませている。
 二人とも、マスカルポーネチーズを塗って、軽くトースターで焼くオプション付きだ。
 チーズが溶けて端が焦げ、その塩味とケーキの甘さ、温まったリキュールの香が湧き立って、噛み締めればクルミの脂が染みてきて、飲み込むのがもったいないこと請け合いだ。
 コーヒーは、トアルコトラジャがベース。
 九十九さんは、百田さんが店長のジムで、いくつもレッスンのコーチを入れているので、休憩中だ。
 土曜日はジムも、かき入れ時で、レッスンも多いし、トレーナーも多い。
 なので、通うようになって日が浅い九十九さんは、混み合う休憩室を遠慮して、お店に一人で来ているのだ。
 まあ、あの朴念仁に、「私を追ってきて」作戦が、通じるはずはない。
 なので、「お昼をいっしょに」作戦を狙って、菊池さんの尻馬に乗って、ゴネているのだ。
 前から、ランチのリクエストはあったので、とりあえず土曜日だけ、始めてみることにする。
 ただ、メニューは一種類のみ、しばらくは毎週、同じ予定だ。
 数も五食、用意しても、余ってしまうんじゃないかな。
 菊池さんは「お昼食べずに呑みに来られる!」、九十九さんは「お昼に誘う!」と喜んでいるが、どうなることやら。

 グレープフルーツジュースで煮たヒレ肉を厚めに輪切り、水気をとって小麦粉、卵、自家製の粗いパン粉をつけて、ラードで、ジュージュー揚げ焼きにする。
 その間、二本の徳利に、ウスターソース、もう一方はカエシを入れ、湯煎で温める。
 鍋の中身を小鍋にとり、麦味噌を溶く。
 寸胴のトロミが出た中身を別の小鍋にとり、カレー粉を溶く準備。
 お皿に、硬めに炊いたご飯を盛って、千切りのキャベツ、それに触れないようにヒレカツを乗せる。
 トン汁のお椀、玉葱のピクルス(と名付けたラッキョウ酢漬け)の小鉢、辛子をつけた小皿、徳利二本をトレーに乗せて、菊池さんと九十九さんのテーブルに向かった。
 「朴念仁をランチに誘う」作戦は、失敗したようだ。
「お待たせしました、ランチのヒレカツライスのカレー添えです。カレーは、途中で持ってきますね」
 ランチには、縁遠い徳利を示して、
「茶色い方の中はカエシ、甘くした醤油が入っていますので、小皿に注いで、辛子を溶いて、それでカツを食べてみてください」
 豚肉には、甘い味付けが合うので、辛子のインパクトもあって、驚くはずだ。
 素直に言われた通りにした二人が、
「これ、ダメ!」
「これはマズイ」
 え?
 美味しくなかった?
「お肉が分厚いのに、柔らか過ぎ!」
「臭みどころか爽やかなのに、でもヒレなのに豚肉って感じがすごい」
 グレープフルーツジュースで柔らかくなるまで煮て、豚の脂ラードで揚げ焼きにしたからね。
「甘ジョッパくて、辛子で締まってダメ!」
「これカツなのに、あっさり食べられて、マズイ」
 そっちのダメとかマズイか、よかった。
「黒い徳利は、熱いウスターソースが入っているので、気をつけてください。キャベツはソースで、シンナリするまで待って食べるのがお勧めです」
「サックサクの衣に染みたソースが肉汁と、じゅっわーって!」
「このソースの熱でシンナリしたキャベツ、歯ごたえがいいとこも残っていて、無限に食べられそう」
 トン汁を啜って、
「お味噌汁に、初めて豚肉入れた人って天才!」
「トン汁の匂いって、本当に独特で好き」
「カレー、持ってきますね」
 その背に、
「この玉葱、口がサッパリしちゃって、またカツが欲しくなる!」
「ソースつけたカツに、玉葱乗せるのもアリだし、キャベツに玉葱混ぜても美味しい」
「ソースの口に、甘ジョッパい辛子醤油が、またいい!」
「マズイ、甘いのと辛いので、無限に食べられそう」
 生の卵黄を中央に落したカレーの器とスプーンをテーブルに置きながら、
「このカレーは、塩味をつけていないので、ソースやカエシで味を調節してください」
「カレーの匂いって、それだけでお腹が空く!」
「がっつりカツ食べたのに、カレーって食べたくなるから反則」
 二人は、カレーの熱で半熟になりかけた卵黄を割らないように残っているご飯に乗せてカレーをかけ、味を確かめながら、ソースを加えた。
「カレー、辛い!」
「うん、想像したより、辛い。カレーにソースとか、レトロっていうか、ちょっと罪悪感」
 九十九さんは、カエシを多めに足していたので、甘党かな。
「あっさりしたカレーだから、カツに合う!」
「カレーだけだったら物足りないかも、でもカツ食べながらだと丁度いい」
 重くなりすぎないように、カツと真っ向勝負ではなく、野菜だけのカレーだから、カツといっしょで本領発揮なのだ。
 カツカレーで食べた後、スプーンを卵黄に突き立てる、と生と半熟の中間くらいが、カレーの小山を、ゆっくり流れた。
「辛いカレーにトロトロ卵の黄身って、最強!」
「ソースやカエシで甘い分、辛さが鮮烈に感じるけど、卵があると、まろやか」
「はい、食後のドリンクです」
 九十九さんの前にアイスコーヒー、今日はランチ試食のお礼も兼ねてなので、奮発してカラパゴス・ブルボン。
 菊池さんには、不本意ながらギネスだ。
 カツカレーでギネスをングング呑む彼女に、少しイラっとする。
「ぷっはー!カツカレーにギネスって無敵!」
「これ、ライスお代わり自由じゃなくてよかった。太っちゃう」
 お皿に残ったカレーをスプーンでコソゲ取ってはギネスを呑む菊池さんは、それとは別の意見のようだ。
 そこへ悪魔、いや商いの天使の誘惑をしてみる。
「デザートは、いかかですか?」
 さっ、と挙げた菊池さんの手を、九十九さんが、そっと握った。
「え?なになに?」
「今日は、ビール呑んだからダメだけど、来週はいっしょにジムへ行こう?」
 きょとん、とした顔の菊池さんを真剣な目で見る九十九さん。
「いっしょに、ジム、行こう?」
 彼女が見つめる、その視線の先から、僕は眼を逸らした。

 『土曜日に遅めのランチ始めました(十四時から)』
 駅周辺の飲食店でのランチタイムが終わり、コンビニも品薄になるタイミングを狙ったのが功を奏したのか、仕事で昼食を食べそびれてしまった方、遅く起きた方など、元々少数だけど、毎週のランチは売れ残りがなく、好評だった。
 ただ、菊池さんは、ダイエットのために九十九さんにジムへ強制連行されて、ランチに訪れることはなかった。


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「秋の」とあったら(以下略)

はい、食欲の秋です。
(開き直った)

「秋のお菓子編三部作」が完結し、油断(誰が?)したところへの飯テロです。
(自分が減量期だから、ストレスぶつけてるだけだろ?)
(いやいや、喫茶メニューが安定?してきたから、ランチ問題を解決しただけですよ?)

前回、ぐだぐだとグルメ描写について語ったので、読んだら、お腹が減るように書こう、との発想でできた物語です。
(やっぱり、減量期のストレスだろ?)
(いやいや、トンカツ専門店、カレー専門店のカツカレーって良い意味でバランスが悪いので、素人の方が、バランス良くできるんじゃないかな、ってだけ)
(カツにカレーに白飯って、ダイエットの敵だな、おい?)
(ラード使いたかったんで、重くなりすぎないように、ヒレにしたけど?)
(ご飯、トン汁、キャベツお代わり自由にしなかったのは、最後の良心か?)
(ランチが少数限定だから、ご飯とかの量が読めなくなるって、商い的な理由だけ。足りなかったら、デザート売れるし)
(悪魔か?)
(デザート阻止したんだから、天使でしょ?)

というか、食べ物ネタ続けた後に、ダイエットぶっこんでオチにして大丈夫か、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(そういえば、猫でてなくない?)
(台風で猫テーマ書いたのと、同行避難問題で困ってる方いるだろうから自粛)
(で、飯テロって、どうよ?)
(カレーなら、いいかな、って。それに、××食べたい!って原動力になるし?)
(摂食障害のお前が言うな、って感じだけど?)
(ええー、摂食障害だからこそ、食に真剣なんでしょ?)
(まあ、クックパッドやウィキで調べた知識だろ?とか、バレバレだと読んで萎えるよな?)
(逆にフルートグラスでゼリーとか、想像力だけで振り切ってもねえ?)
(ところで、ダイエットのネタ、恋愛小説とカブらないか?)
(え?)
(え?)


まみ夜
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