【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

文字の大きさ
18 / 120
写真、まで

猫ドア

しおりを挟む
 ホームセンターの工具売り場で、僕は一人悩んでいた。
 この店で見つけた、トイレにつける猫ドアの取付説明書に、取り付けるドアを切る、と書いてあったからだ。
 中学の工作の時間以来、大工道具を手にしたことのない僕は、ずらりと並ぶノコギリを見ながら、これドアに突き刺して切るの? と途方に暮れていた。
 平日の昼間だからか、店員さんもこのコーナーには見当たらない。
 一度帰って、ネットで検索するか、と諦めている、とポンと肩を叩かれた。
「どうした、困りごとか?」
 オヤジに年をとらせて、日焼けサロンに通わせた感じの作業着の男性が立っていた。
 作業中に、何か足りなくなって買に来たのだろうか。
 猫ドアを見せて、ドアを切るノコギリを探している、と答えると、大笑いされた。
「一枚板とかじゃなきゃ、化粧板は薄いから、カッターで十分、十分」
 そして、お勧めのカッター・ナイフを僕に手渡して、去っていった。
 お礼も言えなかったことに気がつき、慌てて追う、と彼はペット・フード売り場でキョロキョロしていた。
「さっきは、ありがとうございました」
 礼を言うと、びっくう、と振り返り、僕と認める、と安堵した顔になった。
 主に(と彼は強調した)娘さんが買っている猫が、フードにすぐ飽きてしまうとこのとで、新しいモノを探しにきたらしい。
 驚いたのは、同僚にペット関係の売り場にいるのを見られると恥ずかしいため。
 聞く、と雪さんと同じくらいの成猫のようなので、雪さんが食べているフードのシリーズを教えた。
「まだ、やったことないな、これ」
 賢明にも500g入りの小袋を選んで、会計に向かっていく。
「ありがとよ。猫ドアってのも便利そうだな」
 雪さんが好きなフードがたくさん売れて、新しい味が増えると嬉しいな、と思いながら見送った。

 作業着の男性お勧めのカッターのおかけで、トイレへの猫ドアは無事取り付けられた。
 しばらく、猫ドアの開閉部分をテープで固定して開けっ放しにしておく、と雪さんも出入りに慣れ、すぐにテープを外せるようになった。
 トイレの人用ドアが閉められて、閉じた空間になって落ち着けるのか、ヒノキペレットの飛び散りが少なくなったのは、嬉しい誤算だ。
 自分の工作の手際に酔った僕は、調子に乗り、もう一つ猫ドアを買って、一階六畳間のドアにもつけた。
 これまでは、いっしょにベッドで寝る雪さんが、出入りできるように、ドアを細く開けていたのだ。
 これで、ドアの隙間から、雪さんに見つめられているのに気づいて驚く、というのもなくなるはず。

 結局、トイレの猫ドアは使ってくれるのに、一階六畳間はドアの前で開けるまで鳴き続けるのは、悲しい誤算だった。
 僕は、独歩スパークリングビールの栓を抜いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~

黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】 現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった! 砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。 「ないのなら、作るしかない」 ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。 これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...