【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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貢物、まで

コーチ

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 バーテンダーの仕事は、体力勝負だ、とはオヤジの言葉だ。
 確かに、立ち仕事だし、仕事中はもちろんプライベートでも飲酒しなければならない過酷な仕事だ。
 しかも、つまみの試食もしなければならない。
 気を抜くと、すぐ脂肪が付く。
 なので、店の福利厚生でスポーツ・ジムに通わされている。
 その分、給料が安くなっている気がしないでもないが。
 チェーン展開しているジムの会員になっているので、どの店舗にもいける。
 実は、未だに、引越し前に通っていた店舗をメインに(たまにバーの側も)使っていた。
 行ったことのない店舗は緊張するから、というヘタレ小心者な理由でだ。
 交通費がもったいないので、初めて、今住んでいる最寄駅前の商業ビルに入っている店舗に来た。
 受付で、ICチップ入りの会員カードを出してリーダーに乗せる。
「こちらの店舗は初めてですね?」
 マッチョなコーチ(このジムは、来ているポロシャツの色で、受付や事務手続き専門とコーチングできる人が区別できる)が、僕のIDが表示されているだろうパソコンの画面を見ながら、ロッカーのカードキーを渡してきて聞く。
「はい、こちらに引っ越してきたので」
「では、施設をご案内します」
 大胸筋の圧がすごい。
 チェーンなので似たようなものですから、とは言えず、後をついていく。
 筋トレマシン、フリーウェイト、ストレッチ、スタジオを見て、更衣室の前に着く。
「更衣室の奥に、下の階へ降りる階段があって、プールはそちらです」
 壁を指し、
「ホームページでも確認できますが、スタジオとプールのプログラムは、ここと受付横にも貼ってありますので、よろしければご参加ください」
 上腕二頭筋の圧がすごい。
「ありがとうございます。じゃあ、着替えますので」
 礼を言って、更衣室に入ろうとすると、
「それ、猫の毛ですね」
 見ると、僕の黒いシャツの肩に、雪さんの白い毛がついていた。
 黒い服に、雪さんの毛は目立つ。
 そのため、玄関にコロコロを置いて、出掛ける前には必ず使うようにしていたのだが、不十分だったらしい。
「ついてきちゃったみたいですね」
 てへ、と笑って、僕は更衣室に入った。
 でも、どうして、猫確定だったのだろう。

 脚、背中、胸と現状維持レベルの筋トレをして、プールでウォーキングをした。
 ゴーグルを忘れてきたので、今日は泳ぐのはナシ、と自分に言い訳する。
 シャワーを浴びて、受付にカードキーを返す、と案内してくれたコーチがいた。
「猫飼ってるんですか?」
「はい、保護猫を引き取って、飼い始めました」
 隠すことでもないので答える、とコーチは、顔をクシャっと歪ませた。
 表情筋の圧がすごい。
 でもこれ、笑ったのだろう、たぶん、きっと、そうあってほしい。
 彼の「ありがとうございました」を背に受けながら、出口に向かう。
 猫、好きなの、かな?
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