【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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親離、まで

病院

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 雪さんが、クッションに粗相した。
 今まで、トイレに失敗したことが、ほぼなかったので、驚いた。
 トイレが汚いのが嫌なのかも、と思い、プラスチック部分を熱湯で熱々にした雑巾掛けの後、アルコールで二度拭きした。

 ところが、翌日も、別のクッションで、また粗相した。
 昨日のクッションは、尿の臭いがすると、トイレ失敗の原因になるので、徹底的に洗い、まだ風呂場に吊るされているので、関係ないと思う。
 お尻を気にしているので、動物病院につれていくことにした。

「はいー、大丈夫ですよおー」
 中年坊主頭の獣医が、助手が押えている雪さんをすっごい低姿勢で診察している。
 お腹を、むにむにしながら、
「痛がらないので、膀胱炎とかではさそうですね」
 お尻を覗き込み、
「ちょっと赤いかなあ。念のため顕微鏡で見てみましょう」
 棚から、プレパラートを出し、雪さんのお尻にこすり付けた。
 雪さんが、ものすごく不快を表す声を出したので、平謝りする先生。
「すみません、すみません。空いているので、すぐ見ちゃいますね」
 プレパラートを手に、診察室を出ていく獣医。
 空いてるって、自分で言っちゃうのは、どうだろう。
 助手さんと、人としては二人きりになる。
「本当に、尻尾以外は、白くて綺麗ですよね」
「尻尾かくれてると、ほぼ白猫ですね」
 助手さんに褒められ、喉とかくすぐられて、大人しい雪さん。
 談笑していると、獣医が戻ってきた。
「特に問題はなさそうです」
「え? じゃあ原因は?」
 原因不明は、不安だ。
「ちょっと涼しくなったからかもしれません」
 日中、まだ暑いこともあるので、クーラーつけっぱなしなんだけど。
「暑い方が問題ですから、それでいいんです。でも、温かい逃げ場所もある、と猫は自分で温度管理してくれるので、安心です」
 元ドーム型ベッドに、ヒーター入れているけど、もしかして夏になって、コンセント抜いた?
「それで、どうしたら?」
「まず、ヒーターの電源を確認してください。故障の可能性もありますから、本当は二つあると便利です」
 ちら、っと雪さんのお尻に視線をやると、
「少しだけ、お尻が赤いので、炎症止めの飲み薬を出しましょう。気にして舐めて、広がるとよくないですから」
 え?
 僕が、薬を飲ませるの?
 不安が、顔に出たのだろう。
「今日の分を飲ませますので、やりかたを見てくださいね。えーと、体重は、と」
 取り出した錠剤は、人用に比べると小さかった。
「こうやって、口を開けて、」
 口元に指を入れて、口を開かせる。
「喉の奥に、錠剤を入れて、」
 顔を軽く仰向かせて、錠剤を入れる。
「素早く口を閉じる」
 口を軽く押さえて、喉をくすぐる。
「分かりましたか」
 と、手を放すと、雪さんは診察台に、錠剤をペっと吐いた。

 雪さんと助手さんの冷たい視線の中、獣医の「ちょうどいいから、やってみましょう」の声で、僕は吐き出した錠剤を雪さんに飲ませた。
 気持ち、長めに口を押えて、喉をこすると、無事に飲んでくれた。
 一回、試せたので、ちょっと安心した。
 でも、これを朝晩一週間か、ちょっと気が重い。

 部屋に帰ってヒーターを確かめる、と確かにコンセントを抜いていたので、入れる。
 獣医のアドバイスを参考に、白と茶色のモコモコの生地の小さな寝袋のような中にヒーターが入っているのも購入した。
 これは、乗ってよし、中に潜ってよしだし、布だけ部分もあるのでヒーターの脇に座るとか、うまく温度調節に使ってもらえるかもしれない。

 薬のおかげか、ヒーターのおかげか、粗相はピタっと止まった。
 一安心ではあるけど、僕は大反省していた。
 もう少し、雪さんを気にしていれば、防げたはずだ。
 子猫のことで、浮かれていたんじゃないか?
 まず、自分の家族をしっかり見なくて、どうするんだ?
 子猫も、もらわれなかったら、一匹くらいなら引き取れるんじゃないかと、どこかで軽く考えていなかったか?

 しばらくして、部屋の掃除をしていると隅から、コロコロと錠剤が、いくつも出てきた。
 ちゃんと見なきゃ、と強く誓った。
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