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贈物、まで
稲荷
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僕は、稲荷寿司が好きだ。
噛んだときの、甘い汁と油が滲んでくるのを、飯が吸うのと奪い合いながら食べるのが、大好きだ。
黒糖を使った、という触れ込みで、色が濃かったりしたら余計、ついつい手が出てしまう。
しかし、居酒屋などで、ご飯物として、提供している店は少ない。
お揚げは、まとめて仕込めるし、飯を詰めるのも、難しくない。
やはり、華がないからだろうか。
茶色のビジュアルは、地味だし、中身を工夫しても、外からは見えない。
抹茶とか使っても、王道には勝てないし。
うーん。
なんてことを、オヤジに話したところ。
「揚巻なら、地味さはないな」
揚巻?
「知らないのか?」
「やれやれ」と首を振る。
(本当に、この仕草は、ムカつく)
簡単に説明してしまえば、逆さにして閉じない部分に、具を乗せた稲荷寿司。
その味は、簡単には説明できず、具も種類があり、奥深いらしい。
これは、一度食べてみなければ。
祝日は、少し早めに店が始まるので、やってきたら、ハレの日だからかテーブル席は、ほぼ満席だった。
断られそうになるのを、一人と告げ、カウンター席に案内された。
ビールと揚巻を全種類お願いした。
「お待たせしました」
しばらく待ってきた皿に並ぶビジュアルは、インパクトがあった。
イクラの赤、雲丹の黄色、華やかだ。
地味な外見の稲荷寿司と違いオーラが強い。
「いただきます」
まずは、豚シャブかな。
小ぶりなので、一口で口に入れた。
お揚げは、薄味を想像していたが、甘い。
この甘味が、豚肉に合う。
酢飯なので、あっさりした感と、イクラの塩っぱさがアクセント。
次は、ローストビーフかな。
お揚げの甘さと卵黄で、口の中で、すき焼きになるのか。
すき焼きって、薄い肉を加熱するので、パサパサすると寂しいけど、これは肉厚で、半生でウェットなのが、新鮮だ。
ビールが、グビグビ進む。
これは、フォアグラかな。
温かいから脂が、美味しい。
これも、甘い味付けに合う。
確かに、フォアグラは、イチジクとか甘いソースでも食べるから、合うはずか。
口腔調味として考える、と想像が膨らむ。
寿司飯に捉われず、いっそ飯にも捉われず、って始めてしまうと、分子ガストロノミーの領域に踏み込んでしまうか。
考え込んでいる、とカウンターに、皿が置かれた。
上に泡が乗った揚巻だ。
僕は、頼んでいない。
まさか、あちらのお客様からです、とか言われたら、どうしよう。
食べ物を貰ったら、お出かけ三つの誓いを破ってしまう。
顔を上げる、とウェイトレスではなく男性だった。
服装からして、調理担当なのだろうか。
「実は、新作の検討をしておりまして、よろしかったら、ご感想をお聞かせください」
ちょっと声を潜めて、
「あまり、酔われていない方にお願いしたくて」
振り向いて、テーブル席を見る、と大変盛り上がっている。
まあ、ハレの日だものね。
これなら、奢ってもらったことに、ならないよね?
「では、遠慮なく」
お揚げは、今までのものに比べる、と少し色が薄い。
乗っているのは、黒い粉末がかかった白い泡だ。
「エスプーマ?」
頷きが返ってきた。
うわ、もう足、突っ込んでいる人が、ここにいた。
エスプーマとは、亜酸化窒素を使って、食材をムース状にする料理法であり、調理器具名だ。
口にいれる、とトリュフの香りがする。
黒い粉末が、液体窒素で凍結粉砕したトリュフなのだろう。
泡は、フォアグラか。
脂がない分、フォアグラの味の芯の部分を感じる。
あっさりしたフォアグラ、というのが、新鮮だ。
お揚げの中は、酢飯ではなくて、
「大根飯?」
頷きが返ってきた。
大根が、フォアグラを受けとめている。
これは、あの料理を稲荷寿司で再現したのか。
香りが、鼻を抜ける。
フォアグラ、イコール脂、という脳を、あっさり感が裏切り、お揚げの油が、慰めてくれる。
稲荷寿司、なのか、これ?
はふうぅぅぅぅ、っと息をつく。
顏を上げる、と男性が、真剣な顔で、見つめていた。
「ビール、もう一つお願いします」
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
噛んだときの、甘い汁と油が滲んでくるのを、飯が吸うのと奪い合いながら食べるのが、大好きだ。
黒糖を使った、という触れ込みで、色が濃かったりしたら余計、ついつい手が出てしまう。
しかし、居酒屋などで、ご飯物として、提供している店は少ない。
お揚げは、まとめて仕込めるし、飯を詰めるのも、難しくない。
やはり、華がないからだろうか。
茶色のビジュアルは、地味だし、中身を工夫しても、外からは見えない。
抹茶とか使っても、王道には勝てないし。
うーん。
なんてことを、オヤジに話したところ。
「揚巻なら、地味さはないな」
揚巻?
「知らないのか?」
「やれやれ」と首を振る。
(本当に、この仕草は、ムカつく)
簡単に説明してしまえば、逆さにして閉じない部分に、具を乗せた稲荷寿司。
その味は、簡単には説明できず、具も種類があり、奥深いらしい。
これは、一度食べてみなければ。
祝日は、少し早めに店が始まるので、やってきたら、ハレの日だからかテーブル席は、ほぼ満席だった。
断られそうになるのを、一人と告げ、カウンター席に案内された。
ビールと揚巻を全種類お願いした。
「お待たせしました」
しばらく待ってきた皿に並ぶビジュアルは、インパクトがあった。
イクラの赤、雲丹の黄色、華やかだ。
地味な外見の稲荷寿司と違いオーラが強い。
「いただきます」
まずは、豚シャブかな。
小ぶりなので、一口で口に入れた。
お揚げは、薄味を想像していたが、甘い。
この甘味が、豚肉に合う。
酢飯なので、あっさりした感と、イクラの塩っぱさがアクセント。
次は、ローストビーフかな。
お揚げの甘さと卵黄で、口の中で、すき焼きになるのか。
すき焼きって、薄い肉を加熱するので、パサパサすると寂しいけど、これは肉厚で、半生でウェットなのが、新鮮だ。
ビールが、グビグビ進む。
これは、フォアグラかな。
温かいから脂が、美味しい。
これも、甘い味付けに合う。
確かに、フォアグラは、イチジクとか甘いソースでも食べるから、合うはずか。
口腔調味として考える、と想像が膨らむ。
寿司飯に捉われず、いっそ飯にも捉われず、って始めてしまうと、分子ガストロノミーの領域に踏み込んでしまうか。
考え込んでいる、とカウンターに、皿が置かれた。
上に泡が乗った揚巻だ。
僕は、頼んでいない。
まさか、あちらのお客様からです、とか言われたら、どうしよう。
食べ物を貰ったら、お出かけ三つの誓いを破ってしまう。
顔を上げる、とウェイトレスではなく男性だった。
服装からして、調理担当なのだろうか。
「実は、新作の検討をしておりまして、よろしかったら、ご感想をお聞かせください」
ちょっと声を潜めて、
「あまり、酔われていない方にお願いしたくて」
振り向いて、テーブル席を見る、と大変盛り上がっている。
まあ、ハレの日だものね。
これなら、奢ってもらったことに、ならないよね?
「では、遠慮なく」
お揚げは、今までのものに比べる、と少し色が薄い。
乗っているのは、黒い粉末がかかった白い泡だ。
「エスプーマ?」
頷きが返ってきた。
うわ、もう足、突っ込んでいる人が、ここにいた。
エスプーマとは、亜酸化窒素を使って、食材をムース状にする料理法であり、調理器具名だ。
口にいれる、とトリュフの香りがする。
黒い粉末が、液体窒素で凍結粉砕したトリュフなのだろう。
泡は、フォアグラか。
脂がない分、フォアグラの味の芯の部分を感じる。
あっさりしたフォアグラ、というのが、新鮮だ。
お揚げの中は、酢飯ではなくて、
「大根飯?」
頷きが返ってきた。
大根が、フォアグラを受けとめている。
これは、あの料理を稲荷寿司で再現したのか。
香りが、鼻を抜ける。
フォアグラ、イコール脂、という脳を、あっさり感が裏切り、お揚げの油が、慰めてくれる。
稲荷寿司、なのか、これ?
はふうぅぅぅぅ、っと息をつく。
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「ビール、もう一つお願いします」
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
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