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開店、まで
プレ初日
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明日からの二日間は、開店十日前での、プレオープンだ。
クリスマスの食事会で招待した人たちを招待している。
営業時間内なら、いつきてもいいようにお願いしているので、いつくるかは分からない。
そもそも、来られるかどうかも聞いていないので、誰も来ない可能性もある。
アニキなんて、「行くと忙しくなって迷惑かけるので」とか言って来ないような気もする。
二日とも、お客様ゼロだったら、どうしよう。
僕は、不安を紛らわすように、気を奮うように、ルプルス・イベルナテュスの栓を開けた。
今日は、プレオープン初日の金曜日だ。
十七時が、営業開始として設定した時間だ。
まあ、招待したのは、仕事をしている人なので、来てくれても十九時ぐらいからだろう。
最大の問題は、お客様が来るのを待つ間、どれだけビールを我慢できるかだ。
まあ、プレオープンの記念に、十七時過ぎたら乾杯しよう。
あ、もう十七時になったので、ビールを注ごう。
『ぴんぽーん』
インターホンが鳴った。
あれ?
通販で注文した屋上で使うテント、ケシュアが届いたかな?
「はい」
モニターに映ったのは、困り顔のアニキだった。
って、仕事どうしたのアニキ?
とはいえ、お客様だ。
「いらっしゃいませ。少々お待ちください」
慌てて、玄関に向かって鍵、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
そこには、困り顔のアニキとその一家、タカチさんとサトミさんコンビ、百田さんと妹の千秋さん、菊池さんの八人が立っていた。
えーと、プレオープンというロールプレイなのに、四組八人全員での乾杯が行われた。
アニキ一家と百田さん兄妹は、別の席なのに、カスミちゃんと千秋さんが、雪さんと遊んでいる。
十五分ほど遅れてきたソーセージの師匠が、なぜか菊池さんと同じローテーブルに座っている。
「お待たせしました。ちょい揚げの甘口辛口ミックスです。シールの貼ってある方が、甘口になります」
みんなが、空気を読んだように、つまみの注文のペースが遅い。
突き出しのポップコーンの効果が高い、と言えばいいのだが、どうにも甘やかされている気もする。
菊池さんが、カウンターに来た。
「よなよなエールのパイント二つと、破けそうなソーセージをお願いします」
「よなよなエール、お待たせいたしました。お料理は、お席にお持ちいたしますので、もう少々お待ちくださいませ」
菊池さんが、なぜかグラスを二つ持って、師匠の待つ席に向かっていく。
その席から、ちらほらと聞こえてくるのは、「職人は独身でも食べていける」とか、「でも子供と接することのできる仕事は羨ましい」とか。
どうにも、薄暗い雰囲気になっている。
アニキは、またカスミちゃんが家からは通えない獣医学部志望なことを湿った口調で話したのを奥さんとカスミちゃん、更には百田さん兄妹に攻撃されている、その脇で遊ぶ雪さん。
そこに、サトミさんが、黒ブチ子オハギの里親として混ざり、千秋さんが猫飼いたい欲求と戦うとか。
単なるカオスな宴会になっているような気もする。
さて、ソーセージの準備が、できてしまった。
練習を繰り返しただけの、師匠から教わった、ヒネリのないレシピのままだ。
「お待たせしました。破けそうなソーセージです。緑はバジル入り、ピンクはカシス入りのマスタードになります」
スペシャル・キリー・マスタードもご用意しますよ、という現実逃避は飲み込んで、ローテーブルにソーセージを置く。
しん、と静まった。
別々のお客様のはずなのに、どうしてかみんな、このテーブルの女性が、僕のソーセージの師匠だと知っているらしい。
彼女の主張である、「ソーセージを食べる道具は箸がベスト」通りに箸で口に入れ、噛み千切る。
咀嚼して、ビールもろとも飲み下す。
そして、残った分を口に入れた。
一口で止めなかった、というのが安堵感となったのか、再び会話が始まった。
僕は、すっかり師匠のそばで動けなかったので、カウンターに戻ろう、と立ち上がったら、声が聞こえた。
「一番弟子がこれでは、次の弟子は厳しいな」
それ、「優秀だから次の弟子は比べられて苦労する」、「劣等生すぎて次をとる気になれない」どっちの意味ですか、師匠!?
話を聞く、とアニキもタカチさん、サトミさんは、フレックスタイムを利用して、仕事場を早い時間に出て、開店のタイミングに間に合わせてくれたようだ。
申し訳ないばかりだ。
それもあって、アニキ一家は、そろそろ帰るようだ。
カスミちゃんも、久しぶりの雪さんも、遊びすぎて、ちょっと眠そうだ。
師匠も、目的は達した、と帰っていった。
「修行だぞ、一番弟子」
それより、あの言葉の意味、教えていってくださいよ。
百田さんは、明日は遅番とのことで、今日はゆっくりしていってくれるようだが、千秋さんは、カスミちゃんが帰った後に、一人で雪さんと遊ぶのを潔しとしないようなので一度、部屋まで送っていくかもしれない。
菊池さんは、一人でクダを巻くかと思ったら、タカチさん、サトミさんコンビに迎え入れられ、ガールズ(?)トークに花を咲かせている。
えーと、別々のお客様のロールプレイは、どこへ?
まあ、一人で来たお客様が、間に雪さんを挟んで、仲良くなることもありえるのか。
でも、写真は撮らされないように、気をつけよう。
あ、帰り道を聞かれるのは、道を聞かれた内には、入らないよね?
というか、お出かけではないか。
百田さんが一度、千秋さんを部屋に送りにいったのと入れ替わりに、猫オバチャン夫婦が来てくれた。
特に、旦那さんとは、黒ブチ子の譲渡会以来だ。
いや、連合の宴会ではお店を使わせてもらったけど、料理や給仕を一人で(猫オバチャンは呑んだくれていた)やってくださったので、あまり会った気がしない。
「いいー、お店だねー」
「ありがとうございます」
ビールを手に、席についた後、
「でもー、ドアの張り紙、暗くなると見辛いからー、ライト当てるとか、考えた方がいいかもー」
おお?
昼間に確認しただけだと、ダメだなあ。
明日には、改良しよう。
「テーブルにもメニューがあった方が、いいよ」
こちらは、旦那さんのアドバイス。
確かに、カウンターで悩む時間が、結構あるなあ、って思った。
「料理を待ってる間の暇つぶしにもなるしね」
ふむふむ。
「料理内容を細かく書いて、小冊子にしたり、猫の写真入りで紹介文とかも、ウチでは好評だよ」
確かに、看板猫の雪さんを知らない人も来るのだから、その説明もあった方がいい。
ついでに、保護猫のことも書くか、って盛りだくさん過ぎるのもいけないな。
って、そういえば、ビルの塀に張ってある連合のポスター、この部屋にも貼ろう。
旦那さんが、本棚を見て、
「もしよかったらだけど、ちょっと古くなった猫雑誌、もらってくれると嬉しいな」
それは、ありがたいです。
「毎月、結構な数、雑誌を買って、店においているから、バックナンバーがたまっちゃうんだよね。ゴミを渡すみたいで、申し訳ないけど」
いえいえ、本棚を用意しているワリには、手軽に読める雑誌が少ないのに今、気が付きました。
「あと、」
そろそろ、打たれ疲れてきたぞ、がんばれ僕。
「料理の注文は、カウンターでだっけ?」
「破けそうなソーセージと、トリッパ串煮、あとくるくるポテトフライ。他にパクれそうな料理はどれだろう?」
なんか、心の声が漏れてますよ、旦那さん。
「かしこまりました。お料理は、お席にお持ちいたしますので、もう少々お待ちくださいませ」
ホットキープしていた串煮をスープごと小鍋で温めて、フライパンも火にかけて、ジャガイモを実演販売の女性から買ったカッターで、くるくるする。
フライパンに、ホットキープしていたソーセージを入れて焼く。
ジャガイモを串に刺したところで、ちょうど暖まった串煮のスープを陶器のコップに入れて、串煮を浸すように立てる。
ソーセージをお皿に移して、三種類のマスタードを添える。
「お待たせしました。トリッパ串煮に、破けそうなソーセージです。緑はバジル入り、ピンクはカシス入りのマスタードになります。くるくるポテトフライは、もう少々お待ちください」
店を出している人だから、緊張する。
特に、旦那さんは、イタリアンの料理人だし。
あー、ビール飲みたい。
ってそういえば、プレオープン開始の自分へのご褒美で、ビール呑んでないぞ。
カウンターに戻って、串に刺したポテトをズラして、素揚して、塩を振った。
「お待たせしました。くるくるポテトフライです。お味はいかがでしょうか?」
プレオープンなので、猫オバチャン夫妻に、感想を聞く。
「スープ飲む前提のー、トリッパは、斬新ー」
「コップだから、飲むのに躊躇ないし、串だから食べにくくもないし、ホットキープにもなるし、これはいいね。でも、」
でも?
「バケットをつけるか、悩むね。バケットを食べ終えた後、残ったスープを飲むのを躊躇しちゃうかなあ」
「無理にー、お腹いっぱいにする必要も、ないんじゃないー?」
それは考えた。
「ビア・バーなので、パンにビールって、お腹イッパイになっちゃうかな、って思って止めました」
「考えてるんだー」
「ちょっと、それ失礼だよ」
うん、旦那さん、もっと言ってやって。
「やっぱり、ビールには、ソーセージだね」
だそうですよ、師匠!
「でもー、修行の余地は、あるよねー」
だそうですよ、師匠!
「フライドポテトも螺旋で、どれも一捻りしてあるし、全体的に、食べさせる力のある料理だと思うよ」
おお!
「ありがとうございます」
「でもー」
あ、やっぱり続きがあるのか。
はい、防御固めましたから、どうぞ!
「料理の種類がー、少ない分、飽きちゃうかもー」
「それを補うのが、日替わり料理だと思うけど?」
その通り。
「猫は一匹、料理の種類は少なめだと、お客様に、どう時間を使うかを、積極的に提案しないといけないかもしれないよ」
「うちはー、猫を愛でるのがメインで、料理は二の次だからー」
うーん。
「でも、ちょっと寛いで、ちょっと呑んで、でもいいと思ってるんですけど」
「うん。でも、お客様がどう感じるのかを敏感に嗅ぎ取っていった方がいいかもしれないね」
本当の意味でのお客様が、どう思ってくれるか、もっと考えないといけない。
「まあー、すぐ猫が、増えるかもだしー」
雪さんに、ギロっと睨まれた。
そろそろ、ビール呑まないでいるのも、限界かも。
猫オバチャン夫妻に、明日の昼間、手に持てるだけの雑誌をもらいにいく約束をした。
その後、菊池さんが、急にハイになったりしたハプニングはあったが、なんとかプレオープン初日を終えることができた。
本番の営業時間より、少し早めに終えるように設定していたのだけど、タカチさんとサトミさんは、百田さんがコンビニに買い物にいくついで、と駅に送っていってくれた。
男前だなあ、百田さん。
とはいえ、閉店までいてくれたお客様の帰り道を考える、と少し早めた方が、いろいろと安心なのかもしれない。
さて、いろいろと課題は出たけど、やはり事前にオヤジにダメ出しをしてもらっていたので、かなりトラブルを回避できていたと思う。
後片付けをしながら、とりあえず連合のポスターを印刷して、貼った。
あと、猫オバチャンの旦那さんに教えてもらったように、B5サイズでテーブル用のメニュー、その裏に、雪さんの紹介と保護猫について書いた。
まだまだブラッシュアップしての書き換えが前提だから、パウチにしないで、透明の下敷きを買って、入れるのがいいかな。
ドアの張り紙を見えるようにする手段といっしょに、ホームセンターで見てみよう。
雪さんが、カスミちゃんと千秋さんと遊びすぎたのか、元ドーム型ベッドで、丸くなって眠っていた。
僕も、欠伸をしてから気がついた。
結局、一杯もビール呑んでないぞ。
でも、さすがに疲れた。
ビールの前にちょとだけ、と思って雪さんの脇に、クッションを枕に横になったら、もう朝だった。
クリスマスの食事会で招待した人たちを招待している。
営業時間内なら、いつきてもいいようにお願いしているので、いつくるかは分からない。
そもそも、来られるかどうかも聞いていないので、誰も来ない可能性もある。
アニキなんて、「行くと忙しくなって迷惑かけるので」とか言って来ないような気もする。
二日とも、お客様ゼロだったら、どうしよう。
僕は、不安を紛らわすように、気を奮うように、ルプルス・イベルナテュスの栓を開けた。
今日は、プレオープン初日の金曜日だ。
十七時が、営業開始として設定した時間だ。
まあ、招待したのは、仕事をしている人なので、来てくれても十九時ぐらいからだろう。
最大の問題は、お客様が来るのを待つ間、どれだけビールを我慢できるかだ。
まあ、プレオープンの記念に、十七時過ぎたら乾杯しよう。
あ、もう十七時になったので、ビールを注ごう。
『ぴんぽーん』
インターホンが鳴った。
あれ?
通販で注文した屋上で使うテント、ケシュアが届いたかな?
「はい」
モニターに映ったのは、困り顔のアニキだった。
って、仕事どうしたのアニキ?
とはいえ、お客様だ。
「いらっしゃいませ。少々お待ちください」
慌てて、玄関に向かって鍵、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
そこには、困り顔のアニキとその一家、タカチさんとサトミさんコンビ、百田さんと妹の千秋さん、菊池さんの八人が立っていた。
えーと、プレオープンというロールプレイなのに、四組八人全員での乾杯が行われた。
アニキ一家と百田さん兄妹は、別の席なのに、カスミちゃんと千秋さんが、雪さんと遊んでいる。
十五分ほど遅れてきたソーセージの師匠が、なぜか菊池さんと同じローテーブルに座っている。
「お待たせしました。ちょい揚げの甘口辛口ミックスです。シールの貼ってある方が、甘口になります」
みんなが、空気を読んだように、つまみの注文のペースが遅い。
突き出しのポップコーンの効果が高い、と言えばいいのだが、どうにも甘やかされている気もする。
菊池さんが、カウンターに来た。
「よなよなエールのパイント二つと、破けそうなソーセージをお願いします」
「よなよなエール、お待たせいたしました。お料理は、お席にお持ちいたしますので、もう少々お待ちくださいませ」
菊池さんが、なぜかグラスを二つ持って、師匠の待つ席に向かっていく。
その席から、ちらほらと聞こえてくるのは、「職人は独身でも食べていける」とか、「でも子供と接することのできる仕事は羨ましい」とか。
どうにも、薄暗い雰囲気になっている。
アニキは、またカスミちゃんが家からは通えない獣医学部志望なことを湿った口調で話したのを奥さんとカスミちゃん、更には百田さん兄妹に攻撃されている、その脇で遊ぶ雪さん。
そこに、サトミさんが、黒ブチ子オハギの里親として混ざり、千秋さんが猫飼いたい欲求と戦うとか。
単なるカオスな宴会になっているような気もする。
さて、ソーセージの準備が、できてしまった。
練習を繰り返しただけの、師匠から教わった、ヒネリのないレシピのままだ。
「お待たせしました。破けそうなソーセージです。緑はバジル入り、ピンクはカシス入りのマスタードになります」
スペシャル・キリー・マスタードもご用意しますよ、という現実逃避は飲み込んで、ローテーブルにソーセージを置く。
しん、と静まった。
別々のお客様のはずなのに、どうしてかみんな、このテーブルの女性が、僕のソーセージの師匠だと知っているらしい。
彼女の主張である、「ソーセージを食べる道具は箸がベスト」通りに箸で口に入れ、噛み千切る。
咀嚼して、ビールもろとも飲み下す。
そして、残った分を口に入れた。
一口で止めなかった、というのが安堵感となったのか、再び会話が始まった。
僕は、すっかり師匠のそばで動けなかったので、カウンターに戻ろう、と立ち上がったら、声が聞こえた。
「一番弟子がこれでは、次の弟子は厳しいな」
それ、「優秀だから次の弟子は比べられて苦労する」、「劣等生すぎて次をとる気になれない」どっちの意味ですか、師匠!?
話を聞く、とアニキもタカチさん、サトミさんは、フレックスタイムを利用して、仕事場を早い時間に出て、開店のタイミングに間に合わせてくれたようだ。
申し訳ないばかりだ。
それもあって、アニキ一家は、そろそろ帰るようだ。
カスミちゃんも、久しぶりの雪さんも、遊びすぎて、ちょっと眠そうだ。
師匠も、目的は達した、と帰っていった。
「修行だぞ、一番弟子」
それより、あの言葉の意味、教えていってくださいよ。
百田さんは、明日は遅番とのことで、今日はゆっくりしていってくれるようだが、千秋さんは、カスミちゃんが帰った後に、一人で雪さんと遊ぶのを潔しとしないようなので一度、部屋まで送っていくかもしれない。
菊池さんは、一人でクダを巻くかと思ったら、タカチさん、サトミさんコンビに迎え入れられ、ガールズ(?)トークに花を咲かせている。
えーと、別々のお客様のロールプレイは、どこへ?
まあ、一人で来たお客様が、間に雪さんを挟んで、仲良くなることもありえるのか。
でも、写真は撮らされないように、気をつけよう。
あ、帰り道を聞かれるのは、道を聞かれた内には、入らないよね?
というか、お出かけではないか。
百田さんが一度、千秋さんを部屋に送りにいったのと入れ替わりに、猫オバチャン夫婦が来てくれた。
特に、旦那さんとは、黒ブチ子の譲渡会以来だ。
いや、連合の宴会ではお店を使わせてもらったけど、料理や給仕を一人で(猫オバチャンは呑んだくれていた)やってくださったので、あまり会った気がしない。
「いいー、お店だねー」
「ありがとうございます」
ビールを手に、席についた後、
「でもー、ドアの張り紙、暗くなると見辛いからー、ライト当てるとか、考えた方がいいかもー」
おお?
昼間に確認しただけだと、ダメだなあ。
明日には、改良しよう。
「テーブルにもメニューがあった方が、いいよ」
こちらは、旦那さんのアドバイス。
確かに、カウンターで悩む時間が、結構あるなあ、って思った。
「料理を待ってる間の暇つぶしにもなるしね」
ふむふむ。
「料理内容を細かく書いて、小冊子にしたり、猫の写真入りで紹介文とかも、ウチでは好評だよ」
確かに、看板猫の雪さんを知らない人も来るのだから、その説明もあった方がいい。
ついでに、保護猫のことも書くか、って盛りだくさん過ぎるのもいけないな。
って、そういえば、ビルの塀に張ってある連合のポスター、この部屋にも貼ろう。
旦那さんが、本棚を見て、
「もしよかったらだけど、ちょっと古くなった猫雑誌、もらってくれると嬉しいな」
それは、ありがたいです。
「毎月、結構な数、雑誌を買って、店においているから、バックナンバーがたまっちゃうんだよね。ゴミを渡すみたいで、申し訳ないけど」
いえいえ、本棚を用意しているワリには、手軽に読める雑誌が少ないのに今、気が付きました。
「あと、」
そろそろ、打たれ疲れてきたぞ、がんばれ僕。
「料理の注文は、カウンターでだっけ?」
「破けそうなソーセージと、トリッパ串煮、あとくるくるポテトフライ。他にパクれそうな料理はどれだろう?」
なんか、心の声が漏れてますよ、旦那さん。
「かしこまりました。お料理は、お席にお持ちいたしますので、もう少々お待ちくださいませ」
ホットキープしていた串煮をスープごと小鍋で温めて、フライパンも火にかけて、ジャガイモを実演販売の女性から買ったカッターで、くるくるする。
フライパンに、ホットキープしていたソーセージを入れて焼く。
ジャガイモを串に刺したところで、ちょうど暖まった串煮のスープを陶器のコップに入れて、串煮を浸すように立てる。
ソーセージをお皿に移して、三種類のマスタードを添える。
「お待たせしました。トリッパ串煮に、破けそうなソーセージです。緑はバジル入り、ピンクはカシス入りのマスタードになります。くるくるポテトフライは、もう少々お待ちください」
店を出している人だから、緊張する。
特に、旦那さんは、イタリアンの料理人だし。
あー、ビール飲みたい。
ってそういえば、プレオープン開始の自分へのご褒美で、ビール呑んでないぞ。
カウンターに戻って、串に刺したポテトをズラして、素揚して、塩を振った。
「お待たせしました。くるくるポテトフライです。お味はいかがでしょうか?」
プレオープンなので、猫オバチャン夫妻に、感想を聞く。
「スープ飲む前提のー、トリッパは、斬新ー」
「コップだから、飲むのに躊躇ないし、串だから食べにくくもないし、ホットキープにもなるし、これはいいね。でも、」
でも?
「バケットをつけるか、悩むね。バケットを食べ終えた後、残ったスープを飲むのを躊躇しちゃうかなあ」
「無理にー、お腹いっぱいにする必要も、ないんじゃないー?」
それは考えた。
「ビア・バーなので、パンにビールって、お腹イッパイになっちゃうかな、って思って止めました」
「考えてるんだー」
「ちょっと、それ失礼だよ」
うん、旦那さん、もっと言ってやって。
「やっぱり、ビールには、ソーセージだね」
だそうですよ、師匠!
「でもー、修行の余地は、あるよねー」
だそうですよ、師匠!
「フライドポテトも螺旋で、どれも一捻りしてあるし、全体的に、食べさせる力のある料理だと思うよ」
おお!
「ありがとうございます」
「でもー」
あ、やっぱり続きがあるのか。
はい、防御固めましたから、どうぞ!
「料理の種類がー、少ない分、飽きちゃうかもー」
「それを補うのが、日替わり料理だと思うけど?」
その通り。
「猫は一匹、料理の種類は少なめだと、お客様に、どう時間を使うかを、積極的に提案しないといけないかもしれないよ」
「うちはー、猫を愛でるのがメインで、料理は二の次だからー」
うーん。
「でも、ちょっと寛いで、ちょっと呑んで、でもいいと思ってるんですけど」
「うん。でも、お客様がどう感じるのかを敏感に嗅ぎ取っていった方がいいかもしれないね」
本当の意味でのお客様が、どう思ってくれるか、もっと考えないといけない。
「まあー、すぐ猫が、増えるかもだしー」
雪さんに、ギロっと睨まれた。
そろそろ、ビール呑まないでいるのも、限界かも。
猫オバチャン夫妻に、明日の昼間、手に持てるだけの雑誌をもらいにいく約束をした。
その後、菊池さんが、急にハイになったりしたハプニングはあったが、なんとかプレオープン初日を終えることができた。
本番の営業時間より、少し早めに終えるように設定していたのだけど、タカチさんとサトミさんは、百田さんがコンビニに買い物にいくついで、と駅に送っていってくれた。
男前だなあ、百田さん。
とはいえ、閉店までいてくれたお客様の帰り道を考える、と少し早めた方が、いろいろと安心なのかもしれない。
さて、いろいろと課題は出たけど、やはり事前にオヤジにダメ出しをしてもらっていたので、かなりトラブルを回避できていたと思う。
後片付けをしながら、とりあえず連合のポスターを印刷して、貼った。
あと、猫オバチャンの旦那さんに教えてもらったように、B5サイズでテーブル用のメニュー、その裏に、雪さんの紹介と保護猫について書いた。
まだまだブラッシュアップしての書き換えが前提だから、パウチにしないで、透明の下敷きを買って、入れるのがいいかな。
ドアの張り紙を見えるようにする手段といっしょに、ホームセンターで見てみよう。
雪さんが、カスミちゃんと千秋さんと遊びすぎたのか、元ドーム型ベッドで、丸くなって眠っていた。
僕も、欠伸をしてから気がついた。
結局、一杯もビール呑んでないぞ。
でも、さすがに疲れた。
ビールの前にちょとだけ、と思って雪さんの脇に、クッションを枕に横になったら、もう朝だった。
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