継母の心得

トール

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第二部 第2章

376.半径5メートル

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「お姉様! ドニーズがいませんっ」

オリヴァーが慌てたようにわたくしへ叫んだ言葉に、血の気が引く。

まさか、フロちゃんを追って神殿に入ったのではなくて!?

テオ様を見ると、頷いてテオ様まで神殿に入ろうと足を向けているではないか。

「テオ様! いけませんわっ、神殿は焔神の加護が無ければ、罠が……っ」
『テオなら、ダイジョーブ!』
『まおーだから!!』

妖精たちは風船のようにふよふよ宙を漂いながら、面白そうに笑うのだ。

「ベル、私は人間だが、罠で死ぬような貧弱者ではない」

貧弱とかそういう問題ですの!?

「おとぅさま、わたち、いっちょ、いく!」
「こうしゃく、わたしはこのしんでんの、かんりしゃだから、わたしもいっしょにいく!」

子供たちが神殿に入ろうとしていますわ……っ

「二人とも、何を言って……!?」
「イザベル様、アタシちょっと気づいちゃったのだけど」

子供たちを止めようと口を開いた時、皇后様が手をわたくしの肩に置いて、にっこり笑ったのだ。

「さっき枢機卿が『証』を持っているから罠は作動しないって言ってたじゃない」
「ええ、確かにそのように言っておりましたわ」
「て事は、イーニアスはこの神殿の管理者なんだから、イーニアス自身が『証』みたいなものじゃない。つまり、イーニアスと共にいれば、罠は作動しないのよ」
「!?」

そう言われてみれば……

「ですが、本当に安全かはわかりませんでしょう?」
「オホホッ、そう言われると思って、今イーニアスを通じて鳥に確認したのよ」

さすが皇后様ですわ!

「では、皆で神殿に入れますのね……っ」

フロちゃんを追えるのだわ!

「ただ、注意点があって、焔神の加護が無い者が入る場合、管理者の半径5メートル以内に居る必要があるの。でないと罠が作動してしまうわ」
「わかりましたわ。テオ様、ここにいる全員で、神殿内に入りましょう!」

こうして、わたくしたちはドニーズさんを追って、神殿内へ入ったのだ。

神殿内は吹き抜けの天井に広い廊下……というより広間のような場所が広がって開放感がある。
その壁の装飾は、象嵌ぞうがん細工という、無垢材に模様を彫り、そこに別の木材で作った模様をはめ込む細工が施され、床は大理石で、そこにも植物モチーフの抽象的な柄が描かれて、圧倒される。
まさにタージ・マハルのような、最高級の細工だ。

これは……、こんな状況でなければじっくり見学したいほどですわね。思わず口が開けっ放しになりますわ。

「何度見ても国宝級の建造物だわ」
「古代文明と伺いましたけれど、現代の建造物よりもよほど高い建築技術と、装飾ですわね」

この神殿の価値は計り知れないだろう。

「何故こんな高度な文明が滅びたのか、不思議でならないわ」

皇后様の言葉に頷きながら、この素晴らしい文化財に目も眩まない子供たちとテオ様を追いかける。

まずは罠にかかる前にドニーズさんの確保と、次にフロちゃんの保護ですわね!

「ドニーズさん、大丈夫かしら……」
「ベル、ドニーズはああ見えて、勘が鋭い。罠も避けて娘を追っているかもしれん」

そういえば、テオ様は元ドニーズさんの雇用主でしたわね。もしかしたら、すごく強かったりするのかもしれませんわ。

「彼は武術面ではあまりのようですからなぁ……心配ですな」

大司教が呟いた言葉は、ぺーちゃんにしか聞こえておらず、わたくしはドニーズさんが元影だったのではないか、などと見当違いの事を考えていたのだ。
そのうち、管理者が罠の作動をどうこうできたりしないのか、とも思ったが、皇后様が珍獣に確認したところ、それは不可能なのだとか。

半径5メートルなら抑えられますのに……。やはり神殿全域となると、人間では無理なのかもしれませんわね。

「ドニーズ!」

オリヴァーの叫び声に、ハッとして前方を見ると、落とし穴に落ちそうになっているドニーズさんが見えて、肝を冷やす。
必死で突起している部分に捕まっているようだが、もう限界も近そうだ。

「テオ様……っ」
「任せろ」

テオ様は氷魔法でドニーズさんの足元に氷の床を作り出し、颯爽と救助したのだ。

「見事に罠にはまっておりましたな……」
「にゃ……」

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