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第二部 第5章
551.師匠と弟子、父と子
絶対ダメですわー!!
大人たちの話し合いが終わり、凛々しい顔つきをした子供たちがリビングに入ってきて、何事かとテオ様たちと顔を見合わせていたのだけれど、ノアたちがロギオン国王に会いに皇城に行きたいと言い出し、わたくしは心の中で絶叫してしまいましたのよ。だけど……
「ノア、どうしてロギオン国王に会いたいと思いましたの?」
頭ごなしにダメだと言うのは、我が家の教育方針ではありませんのよ、と、自分に言い聞かせ、落ち着いた声でノアに問いかけたのだ。
「おかぁさま、りょぎお、おーさま、おたすけ、したい」
「え? わたくしが……?」
もしかしたら、身体を乗っ取られた可能性はあるとは話しておりましたけれど……まさかノアは、わたくしの次の行動を読んで、ロギオン国王を助ける為に会いたいと言っておりますの?
「おじぃさま、りょぎお、ちゅかまったの。だから、りょぎお、おーさまおたすけ、して、おじぃさま、おたすけ、する!」
「ノア……っ」
この子ったら、先の先まで考えていますの!? なんて賢く優しい子ですの! もしかしてノアは、天使の生まれ変わりなんじゃ……
「ノア、目先の事だけでなく、その先まで思い至った事は褒めてやりたいが、幼いお前がロギオン国王に会って何ができる」
テオ様がノアに厳しい話をしておりますわ……心を鬼にして、諭していますのね。
「わたち……わたし、めっ、する! 」
「ノア、お前は誘拐犯と対峙した際、説教したと言っていたが、その後誘拐犯は態度を変えたか」
「……めっ、して……めっ……」
ノアはテオ様の言葉に元気をなくしていく。かわいそうなくらい萎れてしまったノアに、テオ様はその大きな手を肩に置き言ったのだ。
「いいか、気持ちだけが先行しても何にもならない。力が伴わなければ、足手まといになるだけだ」
「わたち……おじゃま?」
「……もし、ノアが人質に取られてしまえば、私やベルは手出しできなくなる。そうなれば、ベルまで危険に晒す事になるんだ。わかるな」
「はい……」
こちらの胸が痛くなるほどへこんでしまったノアの目を、逸らさず見て諭すテオ様は、優しくノアの頭を撫で、
「己の力量を知っておく事もまた、強者に必要な事だと知れ」
「……はい!」
父子というより、師匠と弟子のノリですわ!
「ノアがお母様を守ってくれようとする気持ちは、とっても嬉しいですわ」
「おかぁさま……」
テオ様からわたくしに視線を移し、潤んだ目で見上げてくる息子を抱きしめたいが、ここで抱きしめてしまえば、テオ様との男同士のやり取りが、塗り替えられてしまいそうで、ぐっと堪える。
「ノアは、ノアにできる事で、お母様を助けてくれるかしら?」
「わたち……わたしに、できる、こと……?」
「そうですわ。お母様のそばにいて、守ってくれる事は、ノアにしかできませんわ」
「!? はいっ、わたし、おかぁさま、まもるのよ!」
もう……っ、立派になって!
「私もベルのそばでベルを守れるが」
テオ様、少し黙っていてくださいまし。
「おとぅさま、おしごとよ」
「お前は、私が24時間仕事をしていると思っている節があるが、そんな事はない」
「? おとぅさま、じゅーっと、おしごと」
あらあら、テオ様、もう少し家族サービスしてくださいましね。
「ははうえ、ノアにロギオンこくおうが、こうじょうにいると、はなしたのは、わたしです。だから、ノアはわるくないのです」
しゅんとしていたノアを見ていたイーニアス殿下が、皇后様にテオ様の説教……、本当は諭していたのだけれど、子供からは怒っているように見えたようで、止めてほしいとお願いしていたのだけど、二人はいつもの言い合いで聞こえていないようですわね。
「ずっとではない」
「じゅーっと」
フフッ、わたくしはイーニアス殿下の誤解を解いておきますわ。
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