継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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その他

番外編 〜 夫婦喧嘩? 〜 イザベル妊娠発覚直後



「ベル、外出は控えた方がいい」
「邸を歩き回らないでくれ。運動は医者に止められているだろう?」
「ベッドに横になっていてほしい。心配なんだ」
「仕事!? 君は妊娠しているんだぞ!?」

この世界は、妊娠をすると無事産まれるまで外出も禁じられ、散歩すら、流れてはいけないと禁止される。そしてベッドで横になっていろと、仕事もさせてもらえない。
何もかも、妊娠から出産まで、間違った知識が浸透しているからだ。

しかし、いくらなんでもずっと部屋に閉じ込められていると、イライラとしてくるわけで……、

「テオ様っ、わたくしもう……、我慢の限界ですわ!」
「ベル? 急にどうした」
「わたくし、病人ではなくってよ! まだ妊娠がわかったばかりで、お腹も全く大きくなっておりませんし、悪阻もまだですのよ!? それなのに、ずっとベッドの上だなんてあんまりですわっ」
「しかしベル……、無理をしたり、精神的な負担を感じると危険だというだろう」
「この状況が精神的な負担を感じている原因ですけれど!?」

わかっていますのよ。テオ様はわたくしを心配して、このように過保護になっている事も、間違った知識が世界に広がっている事も。

ですが、とてもイライラしますのよ。

「ふむ……、これは、妊娠中の感情の起伏が激しくなるというあれか」

テオ様は冷静に受け止めてくださっている。それがまた、どうしてそんなに冷静ですの!? 大体、何でそこだけは正しい知識ですの!? と涙が出てくるのだ。

「っ……ベル、私にどうしてほしいのか言ってくれないだろうか。君の涙が止まるよう、努力しよう」
「ぅう……っ、テオ様ぁ、ごめんなさい……わたくしにもよくわかりませんのっ、ここのところ、どうもイライラしてしまって……っ」
「ベル……」

テオ様がぎゅっと抱き締めてくださいましたわ。
そこへ、

「コンコーン、おかぁさま、わたちよ。わたち、きたの」

部屋の外からノック音を自分で言っちゃったノアの、可愛らしい声が聞こえてきて、イライラが消え失せたのだ。

「ふふっ、ノア、入っていらっしゃい」
「はーい!」

ご機嫌な様子で扉を開けて入ってきた息子は、テオ様を見ると、「おとぅさま、おはなちちゅー?」と言いながらやって来ると、わたくしに抱きつく。

「おかぁさま、わたちと、あそびましょ」
「ノア、ベルは今ご機嫌ななめだ。なだめてやってくれるか」
「おかぁさま、ごきげん、ななめ?」
「まぁっ、テオ様酷いですわ。わたくし、ノアのお顔をみたら、すっかり良い気分ですのに」
「……はぁ、そのようだな。私よりもノアの顔を見て機嫌が良くなるとはな」

あら、テオ様ったら、拗ねてしまいましたわ。

「おとぅさま、おこった?」
「フフッ、大丈夫よ。テオ様、わたくし、テオ様に慰めていただいたから、鬱々とした気分も上向きましたわ」
「……私も、ベルの役に立てたのか」
「もちろんですわ!」
「そうか。それならいい……」

テオ様はほんの少し笑って、恥ずかしかったのか、そのままそっぽを向いてしまった。

「おとぅさま、よかったのね」
「ああ……」

まぁ、ノアったら、お父様に大人のようにお声をかけていますわ。

二人のその姿に顔がゆるむ。

このまま三人で一緒にいられる時間が続けばいいのに……。などと考えながら、優しい時間に身を委ねる。

「……そうですわ!」

その時、良い事を思いついたのだ。

「突然どうした」
「おかぁさま?」

わたくしの声に驚く二人に、にっこり微笑む。

「テオ様、お願いがありますの」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おかぁさま、きょーは、あっちいくのよ!」
「そうね」
「ノア、もっとゆっくり歩かないと、ベルが疲れてしまうぞ」

わたくしはテオ様にお願いして、朝昼晩の三回、家族皆でお庭を散歩する事を提案したのだ。

これで気分転換にもなるし、三人一緒にいられる時間も増えるし、ストレスも軽減されて良いことづくめですわ!

「顔色が良くなったな」
「え?」
「やはり、散歩程度ならば、動いた方が気持ちもすっきりするのかもしれん」

テオ様はわたくしの顔色を見て頷くと、「ベル、君を閉じ込めるような真似をしてすまなかった」と頭を下げたものだから、驚いて、テオ様のほっぺを両手で挟んで顔を無理矢理上げましたのよ。

「テオ様は悪くありませんの。わたくしの方こそ、テオ様にあたってしまって申し訳ありませんわ……」
「ベル……」

イライラを大切な人に当たり散らすだなんて、それこそ悪女みたいですわ。

「……別の人間なのだから、全てを分かり合う事は難しい。だが、お互いこうして歩み寄れば、納得出来るものが生まれるものだ。そうだろう」
「テオ様……」

最初は無愛想で、嫌な人だと思っていた事もあったけれど、本当はこんなにも愛情深く、優しい人だったのよね。

「おかぁさま、おとぅさま、なかなおり、ちた?」

ノアがそばにやって来て、わたくしたちの顔をじっと見上げている。

「ノア、私たちは喧嘩などしていない」
「お父様の言う通りですわ。お母様は、お父様が大好きですもの」
「ああ、私もベルを愛している」
「わたちも! わたちもおかぁさま、だーいしゅきよ! おとぅさまにまけないのよ!」


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