19 / 186
その他
番外編 〜 もう少しだけ、待っていて 〜
しおりを挟むエンツォ・リー・シモンズ視点
「旦那様! ディバイン公爵家より早馬が参りました!」
執事が慌てた様子で執務室へ入って来て、受け取った手紙を渡してくる。
「早馬で……? まさか娘が産気づいた!? そろそろだとは思っていたけど……」
手紙を開けると、やはり娘の出産が始まったとある。いつも丁寧な手紙を書いてくれるディバイン公爵も、この時ばかりは慌てていたのか、少々文字が乱れていた。
了解したとの返事と、明日行く旨を手紙にしたため執事に渡す。
「すぐに出発なされなくても大丈夫なのですか? 残りの仕事でしたら、後回しにされても……」
「本当はすぐにでも行きたいけど、夜に馬車を出すのは皆を危険に晒す行為だからね。何かあっては、娘にも迷惑をかけてしまう。ディバイン公爵は万全の医療体制を整えていると話していたし、私がそばにいなくとも無事生まれるさ」
イザベルには、妖精の加護もあるしね。
「かしこまりました。明日の朝、すぐに出られるよう準備しておきます」
「ああ、ありがとう」
出来るだけ仕事を終わらせて、翌日、シモンズ邸を出発した。娘が嫁いだのは隣の領地だから、こういう時は近くて助かる。
娘からプレゼントされた最新型の馬車に揺られ、昼前にディバイン公爵邸へとたどり着く。
相変わらずお城のようなお邸だなぁ……。
このお邸を見るたびに尻込みしてしまうのは、仕方ない事だろう。
「シモンズ伯爵、お待ちしておりました」
馬車から降りるとすぐにウォルト殿が迎えに出てくれており、そのまま邸の中へ案内される。
玄関を入るとすぐ、ディバイン公爵がやって来たので「テオバルド殿、お忙しいところお邪魔して申し訳ありません」と挨拶をする。
「義父上、お越しいただきありがとうございます。イザベルも義父上が来るのを首を長くして待っています」
「そうか……、あの子は無事出産したようですね」
「はい。元気な子を無事産んでくれました」
見たこともないくらい、柔らかく笑うディバイン公爵に目を見張る。このような表情をする人ではなかったが、娘と子供によって変わったのだろうか。
しかし、イザベルが無事で良かった……。
ホッと息を吐き、早く娘に会いたい気持ちを抑えながら公爵を見る。
「娘が昔から好きだったフルーツを沢山持ってきました。後程出してあげてください」
御者からメイドに渡された荷物の中にあるので伝えると、ディバイン公爵は頷いて私をイザベルのいる部屋へと自ら案内してくれたのだ。
「───イザベル、調子はどうだい……おや、可愛い天使が二人、君の横で眠っているじゃないか」
「お父様! いらしてくださったのねっ」
部屋に入ると、ベッドに座って微笑んでいる娘の姿が目に入り、その優しげな眼差しが妻と重なって息を呑んだ。
イザベルは確かに妻にそっくりだが、子供を産むと雰囲気までもがこうも似てくるものなのだと驚いてしまう。
「私の孫たちは可愛いねぇ」
「お父様、二人が起きてしまいますわ。しーですわよ」
なんという事だろう。妻にもよく、「しー、よ」と言われたものだが、まさか娘からも言われるだなんて……っ
君もどこから見ているかい? 私たちの可愛い娘が、立派な母親になったんだよ。
「あぁっ、ごめんねイザベル。でも、報せを聞いて慌ててやって来た甲斐があったよ」
「良いタイミングでしたわ。兄弟並んで眠っているんですもの」
「ああ。可愛い天使たちのお昼寝だね」
おじいさま、といつも私を慕って寄ってきてくれる、可愛い孫の横に、新顔の孫の姿があり、何だか幸せすぎて涙が滲む。
「お父様、泣いてますの?」
「……っ、ごめ、ごめんよ……っ、あまりにも幸せで、涙が止まらないんだ」
「お父様……っ」
娘の前で泣いてしまうなんて、君が見たら鼻で笑うんだろうね……。
君が天に召されてから、何年経つだろう。
私の時間はあの時止まったみたいに、思い出すたび悲しくて、寂しくなってしまうけれど、きっとずっと、悲しいのだけれど……、生きていると、幸せだと思う瞬間もやってくるものなんだね。
いつか、私が君の居る場所に行く事ができたら、孫たちの事、自慢しちゃうかもしれないな。
その時は、自慢ばっかりして! って、文句を言いながら、沢山話を聞いて欲しいから、もう少しだけ待っていてね。
私の愛しい───……。
「───おじぃさま、わたしと、あそぶのよ」
「ふふっ、何して遊ぼうか? ノア」
「つみき! あかちゃんと、アオと、せーれーも、いっしょにあそぶの!」
どうやら、話さなきゃならないことが、たくさんありそうだよ。
3,106
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる