25 / 186
その他
番外編 〜 オリヴァーと女神信者の邂逅1 〜
しおりを挟むオリヴァー視点
「オリヴァー様! あの、この手紙をディバイン公爵夫人へお渡しいただけないでしょうか! 自分、“海賊と秘宝”のミュージカルの大ファンで、ディバイン公爵夫人を尊敬しているんです!」
もう……、
「オリヴァー君! 新作のボードゲームが出るって本当!?」
「シモンズ! 新作の模型なんだが───」
もう……っ
「シモンズ先輩、来月帝都の劇場でやる予定のあのミュージカルに、女神様の作詞、作曲したものが使われるって聞いたんですが───」
もう、いい加減にしてくれー!! 僕はお姉様じゃない!! そういうのは全部、お姉様本人に言ってくれないかな!!
…………って、言えたらどれほど良いか。
「すみません。姉は今領地に居るので、手紙をすぐ届ける事が出来ないんです。ボードゲームというか、おもちゃの新作は月いちで出ているよ。先輩、模型について僕はあまり詳しくはないです。他をあたってください。ミュージカルについては、当日まで何も言う事が出来ないんだ。ごめんね」
一気に言い切ると、足早にその場を離れる。
最近はこんな事ばかりだ。
お姉様が節操なく次々と新しいものを開発していくから……。新素材におもちゃ、馬車やミュージカルまで。最近は領地に“こうえん”というものと、レール馬車を作っているんだとか。
少し前まではただの平凡で天然で常識の無い姉だったはずなのに、いつの間にか女神様だなんだと言われるようになっていた。
何だか遠い所に行ったみたいじゃないか……。
実際、ディバイン公爵と結婚したお姉様は、どんどん美しくなっていくし、キラキラも増した気がする。
もちろん僕だって、新素材で色々実験するのは大好きだし、お姉様が喜ぶようなものを開発したりもしているけど、お姉様には一生追いつけないような気がするんだ。
……少し寂しい、とか、絶対思ったりしないんだからな!
「はぁ……アカデミーで出来た友達も、最近はお姉様の事ばかり聞いてくるし、先輩も後輩もあの通りだし……もちろんお姉様を尊敬してくれるのは嬉しいけど、普通に話が合う友人がほしいなぁ……」
なんて、贅沢な事を思っていたからだろうか……。
◇◇◇
「みなさーん! 本日は、皆さんの“こみゅにけーしょん能力“を向上させる目的として、アカデミーの学生貸し切りで特別にミュージカルを上演してもらえる事になりました! お昼からは劇場に向かいますので、楽しみにしていてくださいね!!」
翌朝の事だ。
担任が、僕らの出席を確認した後、口にした言葉にその場にいた僕以外の全員が歓喜の悲鳴を上げた。
それは他の教室からも聞こえてきて、暫く授業にならないほどだったのだけど、どうして突然そんな事になったのだろう……。
担任の言う、“こみゅにけ、しょ……? 能力”が一体何かもわからない。
「これは、日頃アカデミーで頑張っているみなさんへ、皇帝陛下からのプレゼントだそうです! 皇帝陛下と皇后陛下、そしてイーニアス第2皇子も参加されますので、絶対に失礼のないようにお願いしますね!」
皇帝陛下!? 何で陛下が……っ、まさか、お姉様何か陛下に頼んだりしたんじゃ……、皇后陛下とお姉様はママ友とかいう仲の良い友人だし、皇帝陛下とも親交がある。
お姉様……っ、やらかしていませんよね!?
「はい。では、お昼までしっかりお勉強しましょうね! ちなみにミュージカルの題材は、“どんぐり森の妖精”ですよ」
「───オリヴァーではないか!」
「あら、本当。アカデミーに通っていると聞いていたけど、こんなにすぐ見つかる…ゲフンッ、会えるとは思わなかったわ!」
「オリヴァーどの、ひさしいな!」
皇帝一家との予期せぬ邂逅!? 何でこんな所にいるんですか!? ここ、一般人用の出入り口ですよ!!
「て、帝国の太陽に拝謁致します」
「うむ、楽にせよ。オリヴァーと朕の仲なのだ」
え、僕は皇帝陛下とそんな仲良くなった記憶はありませんけど!?
「皇后陛下、イーニアス殿下、拝謁賜り光栄でございます」
「元気そうでなによりだわ。あなたのお姉様も、あなたがアカデミーで元気にやっているか心配していたわよ」
「うむ! またともに、あそんでもらいたい」
これは……、他の貴族子息への牽制では……?
いや、イーニアス殿下だけはとても可愛らしいけど。
「そうだわ。ちょうどあなたに紹介したい人がいるのよ」
「え?」
皇后陛下の意外な申し出に、つい間抜けな声が漏れてしまい、慌てて口を押さえる。
紹介したい人って……??
「エリオット、こちらへ来なさい」
エリオット……?
皇后陛下が後方に声をかけ、それにすぐ返事をしてやって来たのは……、
「何でしょうか。姉上……いえ、皇后陛下」
「エリオット、ご挨拶しなさい。オリヴァー、この子、アタシの弟のエリオット・コーデン・イートン侯爵よ」
こ、皇后陛下の弟!?
2,611
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる