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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜
番外編 〜 つわりと梅干し 〜 ノア4歳、イザベル妊娠初期
「ノア様が無事戻ってこられて、良うございました」
ノアが、つわりで食欲のないわたくしの為に、皇帝陛下に美味しいものを作ってくれるよう頼みに行って、邸から居なくなってしまった事件から数分、わたくしの腕の中ですやすやと寝息をたてるノアを、優しい瞳で見つめる女性から、安堵の溜め息とともに、声を掛けられた。
「ええ。妖精も、イーニアス殿下もそばにいてくださったようですし、何より皇帝陛下に会いに行ったようでしたから、陛下がきちんと保護してくださっていたようですの」
女性の名前はマディソン。ウォルトのお母様で、タウンハウスの優秀な侍女長でもある。
わたくしも、タウンハウスに行くと毎回とてもお世話になっている、頼もしい女性だ。
「ノア様はとても素晴らしいお力をお持ちですが、そのお力も一歩間違えると大変な事になりかねません。今回の事は、起こるべくして起こった事。ノア様にとっては良いお勉強となった事と存じます」
そんな彼女が何故領地の邸に居るのかというと、妊娠発覚後にテオ様が呼び寄せ、先程領地の邸に到着したからなのだ。
こちらへ到着したばかりで、ノア失踪事件に巻き込んでしまい申し訳なかったわ。と思いつつも、頼もしい侍女に来てもらえた事は、わたくしの安心感を増すところでもあった。
「そうね。ノアは賢い子ですもの。きちんと学んで次に活かす事が出来ますわ。わたくし、その点は心配しておりませんのよ」
心配なのは、妖精たちの方なのよね……。アオもすごく反省しているようだけど、どうしても自分たちの興味あるものを優先してしまうのは、妖精の性よね。
精霊のウィルのようにもう少し理性を持って行動してもらいたいのだけど。
「ノア様は、奥様がお母様で幸せでございますね」
「え?」
マディソンは優しく微笑み、わたくしとノアを見て言ったのだ。
「奥様、私は本日より、奥様とノア様のお世話をさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「あ、ええ。頼りにしておりますわ」
「早速ですが、医師を呼んでおりますので、診察を受けていただきます」
「? わたくし、どこも何ともありませんわよ……??」
マディソンの言葉に驚き、元気ですわと返事をすれば、「奥様、お食事も満足にできていないご様子で、さらにお邸を走り回り、ノア様を抱き上げていらっしゃいますね」とものすごく静かにお説教されたのよ。
「まずは医師の診察を受けていただき、ノア様がお持ちになった料理で、口に出来そうなものを召し上がってください。幸い、こちらを作った料理人は、妊婦の事をよくご存知の方のようですので、吐きづわりの奥様でも口に出来そうなものがあるのではないかと思います」
やっぱり親子ですわね。ウォルトに話し方も諭し方もよく似ておりますわ……。
「はい……」
ノアをベッドに寝かせ、ムーア先生の診察を受けた後(何ともなかった)、ノアがわたくしの為に皇帝陛下からいただいてきたお料理が机に置かれる。
匂いの抑えられたお料理が少量ずつ、九つに区切られた漆塗りのような箱に入れられ、何だか和食のような趣きにドキリとする。
「見た目も美しいですし、ジンジャーを使ったお料理もございますよ。ジンジャーは吐きづわりの症状も抑えてくれると言われておりますから、こちらから召し上がられるとよろしいかと思います」
さすがマディソン。出産経験があるだけに、よく知っておりますのね。
「いただきますわね」
一つ一つが大きなスプーン一杯分くらいの量なのだが、フォークで恐る恐るすくって口へ入れる。
「……あら、美味しいですわ」
「それはようございました」
こちらも、と薄い赤みがかったソースのかかっているものを食べた瞬間、衝撃が走った。
「こ、これは……っ」
「奥様、無理そうであれば、こちらに吐いてしまって大丈夫ですので……」
「う、うぅ……っ、梅干しですわー!!」
「あの、奥様……?」
この味……このソースに使われているのは、間違いなく梅干しですわ!
まさか陛下が梅干しを手に入れているなんて!!
「マディソン、わたくしこのお料理なら、少量でしたら食べられそうですわ!」
「それはよろしゅうございました。ノア様もお喜びになるかと思います」
結局、食べる事が出来たのは、9種類のおかずの内、3種類だったが、皇帝陛下にはお礼をお伝えした時にレシピを教えていただいたので、うちのシェフにはそれを伝え作ってもらっている。
ちなみに梅干しは、皇宮にある、皇帝陛下が子供の頃に居た宮のお庭に梅の木(白加賀)が生えているらしく、陛下はその実を色々と調理して甘い梅干しや、すっぱい梅干しなど作り出していたらしい。
皇帝陛下は、恐らく梅干しをこの世界で初めて作り出した人ではないのか、と驚きが隠せない。
もちろん、梅干しも分けていただけましたわ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
「おかぁさま、わたち、おやくにたてた?」
「っ……もちろんよ! ノアが陛下からお料理をいただいてきてくれたから、お母様はこうしてお食事出来るようになりましたのよ」
「よかったの!」
胸を張る息子を抱きしめると、ノアは嬉しそうに小さなおててで抱き返してくるのよ。
「ノア、ありがとう」
「はい! おかぁさま、おげんき、なってうれちぃ!」
わたくしの息子はそう言って、満面の笑みを浮かべたのだった。
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