継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
137 / 186
番外編 〜 アベルとフローレンス 〜

番外編 〜 算盤をやってみよう 〜 アベル5歳

しおりを挟む


「今日は算盤を使って計算してみましょうね」

子供たち専用の勉強部屋。ディバイン公爵家にはそんな部屋がいくつか用意されている。その中の一つの部屋で、わたくしは教鞭を取っていた。

「そろばん! すべるー!」
『アベル、かっこいい!』
「エビフラーイ、シャカッ、エビフラーイ、シャカッ、おっきなおっきなエビフラーイ! シャカシャカッ」
『フローレンス、音楽の才能があるよ!』

アベルが生まれてから5年。今日からアベルに算盤を教えてあげようと思い時間を作って、そこにたまたまフロちゃんも遊びに来たので、じゃあフロちゃんにも。と思って誘ったのだが、

見事に学級崩壊をおこしていますわ。

「アベル! 算盤をスケートみたいに履かないの! フロちゃんも、算盤はマラカスじゃないのよ。シャカシャカ鳴らさない」
『メッ、ヨ~。ベルコマル~!』
「おかあさま、チロ、おこらない、おこらない」
「妖精女王様、チロちゃん、ごめんなさい」

アベル、怒らせているのはあなたよ。そしてフロちゃん、わたくしは妖精女王ではなくてよ。

「さぁ、アベルはその足の下にある算盤を机に乗せなさい。フロちゃんもよ。そしてウィル、ナサニエル、あなたたちは契約者を甘やかさないの」
『ベル、ごめんなさい……』
『ついつい、可愛くてさ!』

アベルの精霊ウィルと、フロちゃんの妖精ナサニエル(愛称なーたん)に注意する。

正妖精が、とうとうフロちゃんに名付けてもらったって喜んでいたのが懐かしいわ。

「はい。では二人とも、席についてちょうだい」
「「はーい」」

返事だけは良いのよね。

この算盤は、ノアが5歳の時、イフに頼んで作ってもらった物で、算盤が出来上がった当初は、ノアやイーニアス殿下だけでなく、テオ様やウォルト、皇后様まで習いにくるという画期的なものだったのだ。

算盤の前身のような計算機は元々あったのだけど、やっぱりこの前世の算盤の方が使い勝手が良いのよね。

まぁ、今では皆、そろばん式暗算が出来るようになったから必要なくなったのだけど。

「ではまずは、算盤の基本的な使い方を教えますわね」

初めはどうなる事かと思っていた算盤の授業は、案外上手くいった。

授業の前半で使い方を。後半で計算を少しやらせてみたけれど、集中しだすと優秀な子たちだから、楽しそうにやっていたわ。
若干、珠を元の状態に戻す作業に面白さを見出していたようだけど、これから何度もやっていれば、計算も早くなるでしょう。その後はそろばん式暗算を教えていけば将来役に立つでしょうし。

「できたー!」
『アベル、計算はやーい!』
「できた!」
『ボクのフローレンスも計算はやいよ!』
『ベル、オシエカタ、ジョ~ズ~』

精霊や妖精は皆親バカなのかしら。
アカやアオも自分の契約者が大好きなのよね。チロも。

「はい。じゃあ今日はここまでですわ。明日も同じ時間に授業しますからね」
「「ありがとうございました!」」

アベルとフロちゃんは、ちゃんとお片付けをして、部屋を飛び出していった。
これからノアの所に行くのかもしれない。

ノアは今の時間だと、イーニアス殿下と一緒に魔法の訓練か、裏の訓練場でアスレチックを使って体力作りをしている頃かしら。

二人とも影も騎士も顔負けの強さなのに、これ以上強くなってどうするのかしらね。

『ベル~、チロネ、“ミーシャ”、ミニイク~』
「そうね。ミーシャはおりこうさんにしているかしら」
『ミーシャ、オリコウヨ~』

1歳になるわたくしの娘、ミーシャ・ルルーシア・ディバイン。この子の名前は、わたくしとテオ様が出した案からノアが選ぶという素敵なエピソードがある。
いわば名付け親がノアだからか、お兄ちゃんっこになってしまって、テオ様がヤキモチをやいているのが困りものだが。

「ミサキ」、「ミーシャ」、「ルルーシア」、「アイリス」、「ルテア」、「アビゲイル」この中から、ノアは「ミーシャ」と「ルルーシア」を選んだ。
ちなみにテオ様は「ルテア」と「ミサキ」、わたくしは「アイリス」と「アビゲイル」をそれぞれ推していたのだけれどね。

「マディソンがお世話をしてくれるから、本当に助かりますわね」
『マディソン、スゴイネ~』
「本当に。アベルに続き、ミーシャまで。頭が下がりますわ」

などとチロと話しながら勉強部屋を出て、ミランダと共に娘のいる部屋へと向かったのだ。


「マディソン、ご苦労さま。ミーシャはいい子にしていたかしら」
「ん~まーま」

最近少しずつ喋るようになった娘を抱き上げながら、マディソンにお礼を言えば、「ぐずる事もございませんでしたし、ずっとおもちゃで遊ばれておりました」と教えてくれた。

「ミーシャ、おもちゃで遊んでいたの。楽しかったですわね」

ひらひらの上質な生地とレースで出来たドレスを着せられ、柔らかな触り心地のおもちゃで遊んでいる娘は、ディバイン公爵家のお姫様として、皆から溺愛されている。

「マディソン……、将来ミーシャがわがままな子に育ってしまったらどうしましょう……」

悪役令嬢とか言われるようになってしまったら……。

「奥様がそのように思われている限り、そのような未来は来ませんのでご安心ください」

マディソンの言葉は説得力が違いますのよね。

「ありがとう。わたくし、甘やかさないよう気をつけますわ」

と、そこへ……、

「ミーシャは起きているか」

ノック音と扉を開ける音がほぼ同時なのではないかという不思議現象を起こしながら飛び込んできたのは……、溺愛の主犯であるテオ様だった。

「ベル、私の愛しいひと。今日は私たちのお姫様の為にデザイナーを呼んだ。ミーシャの愛らしさをより引き立たせるドレスを作らせよう」

甘やかさないと言ったそばから、テオ様が甘やかしにくるのだけれど、どうしたらいいのかしら。

テオ様、マディソンが呆れたような顔で見ておりますわよ。

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...