継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
165 / 186
番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャ15歳の日常4 〜

しおりを挟む


「はぁ~! もう大満足! この世のものとは思えないほど美味しかったわ~!!」
「本当、クロエ様々だね!」
「内装も素敵だし、ミーちゃんのお祝いも出来たし、素敵な休日になったね。連れてきてくれてありがとう。クーちゃん」
「おほほほっ、崇め奉るがよいぞ」

三人は幸せそうな顔で、モンプティシェリを出る。
このまま街に繰り出すのだろうと思っていたのだが、

「さ、今度はホテルを楽しみましょう!」
「待ってました!」
「エステや温泉だけでなく、他にも色んなアクティビティもあるんだって」

まさかのホテルで遊ぶ気満々だった。

「ホテルで遊ぶの?」
「もちろんよ! 滅多に来れないんだから、堪能するわよー!」
「でも……」

このままここにいれば、お兄様と出会う確率が上がってしまう。

「ああ、お金の事なら気にしないで! パパからたっぷり軍資金巻き上げてきたから!」
「私もお小遣い持ってきたよ」
「同じく!」

そうではない。だが、こんなに楽しそうな三人に帰ろうとはとても言えなかった。

「私エステ行きたい!」
「ヨガもいいよね」
「乗馬も出来るんだって!」

エステやヨガなら、男女別れているから、お兄様に出会う事もないはず……。

「じゃあ、ヨガの後エステにする?」
「乗馬は!?」
「乗馬はアカデミーでも出来るでしょ」
「そんなぁ!」
「あっ、見てこれ、オリジナルのアロマキャンドルやバスソルトも作れるんだって!」
「えーっ、楽しそう!」

ホテルのラウンジでアクティビティの内容が描かれたパンフレットを見ながら盛り上がっているので、なんとなく頷いていたら、ホテルの入口が騒がしくなり、私たちは何だろうと顔を上げる。

「何か騒がしくない?」
「入口に人が集まってるね」
「ホテルのスタッフも集まってない……?」

誰か倒れでもしたのだろうか?

そう思っていたら、タンカで運ばれて行く人が見えて、私たちは心配そうにそれを眺めていた。すると、また、タンカで運ばれて行く人が……、しかも立て続けに二人だ。

「え、何? 毒でもまかれたの!?」
「怖いよ……」
「にしては、皆嬉しそうに群がってない?」

入口でざわつく群衆が、どんどんこちらへと移動してくる。
キャーキャーと叫ぶ声も耳に届く。

「何かこっちに向かって来てない?」
「あ、また運ばれてる人がいる……」
「やっぱり毒!?」

一体何が起きているのだろうか?
と、その時、

『ミーシャ!! ミーシャだぁ!! なにしてるのー!!』

青いキノコが、飛んで来たのだ。

「……ミーシャ?」

当然、青いキノコと契約している人物が近くにいる。そしてその人物はもちろん……、

“ノアお兄様”

私たちの前でピタリと止まった群衆に、今すぐ逃げ出したくなった。

『ミーシャ、そのめがね、なにー? かおにたくさん、よごれある!!』

もう黙れ。この、キノコめ。

「な、何で私たちの前で止まったの……?」
「わからないけど、中心に誰かいるみたい……」
「ねぇ、移動しようよ……」

人混みが割れ、中心に立っていた人物と目が合う。

「ミ……、」
「ノア! こちらだっ」

アスお兄様の声がした途端、「キャーッ」と黄色い声が上がり、その場が騒然とした。
そのお陰で、人混みの中心にいた人物と私たちの間に大量の人が流れ込み、あっという間に見えなくなったのだ。

「ちょ、うそでしょう!? 今の、の、の……、ノア様ぁ!? 今日はラッキーデイ!?」
「いやぁ! 公子様が目の前にいるー!? もしかして今日は世界最期の日!?」
「ノア様……一瞬だったけど、噂に違わぬ……ううん、噂以上に美しい人だったね……」

こちらも群衆と同じく、キャーキャーとはしゃいでいるが、アスお兄様に助けられた……。

でも、目が合ったし、キノコはいたし、絶対バレた。

「ミーシャ、どうしたの? 顔色悪いよ……」
「ミーちゃん?」
「ミーシャ、大丈夫?」

もし、お父様に伝わったら……、アカデミーを辞めさせられる───……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「───アス殿下、一体どういうおつもりですか」
「ノア、何のことだ?」
「ミーシャのことです。先程、おかしな格好をしたミーシャをラウンジで見かけました。話しかけようとした所、殿下が……、」
「ははっ、そう目くじらを立てるな。ミーシャはお忍びで友人たちと遊んでいたのだ。邪魔をするのも悪いと思ってな」
「そうですか……お忍び……」
「ディバイン公爵家の人間は、何かと注目されるのだろう。偶には友人たちと好きに遊ばせてやれば良い。構い過ぎると嫌われてしまうぞ」
「そう、ですね……。年が離れた妹ですから、つい構い過ぎてしまうようです」
「うむ。何事もなかったかのように接してやるのだぞ」
「はい……」

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...