アウトロー ~追憶~

白川涼

文字の大きさ
12 / 58
一章 ミュラー若かりし頃の過ち

死闘! 堕天の魔女

しおりを挟む
 洞窟を出ると辺りはすっかり夕闇に染まっていた。

 ……もう夜だ……。 
 クソっ! どこにいるんだ子供たちは!? 
 そもそも姫はどこにいる??! 
 ダメだ、落ち着いて優先順位を考えよう。

 まず子供たちを連れて、マフィアの元に届ける。
 次に姫を探す。

 これだな、最悪、マフィアは武力行使で解決させる。
 アジムートに勝った俺ならマフィアぐらい、潰してみせる。
 やってやる。

 そう思案しながら3人で重い足取りで森の中を歩いていた。
 刹那、眩い閃光が俺たちに襲い掛かる。
 何が起きたかという疑問の前に、生存本能でとっさに身体が反射する。おかげで間一髪でそれを避けた。

 攻撃魔法!?

 瞬く光の先には少女の影が映っていた。
 これが姫様や子供の一人ならいいのだが、残念なことに長耳が特徴のエルフの少女だった。
 光が眩しくて、よく見えないが、15~6歳ぐらいか、シルクのように白く長い髪が気のせいか逆立ってるように見える。
 はっきり言って美少女だ、どこかミステリアスな雰囲気を感じる。
 やはりエルフってのは、美人なんだなと少し感動した。
 ただ気のせいか、切れ長の目が吊り上がっていて、額には青筋が立っているように見えた。
 肩に何故かウサギが乗っていた。
 きっと小動物が大好きなエルフの少女なのだろう。
 頼むからさっきの攻撃魔法を撃ったのが彼女でないで欲しい。

 こっちはこの街に来てからろくな女に出会ってないんだ。
 神よ、頼む。

 俺の願いはエルフの少女に乗っていた、ウサギの言葉で絶たれる。
『やっと見つけたぞクソムシが』
 この国ではウサギがしゃべるのか? 
 妙に高圧的なウサギは続ける。
『挨拶が遅れたな、こちらのお方は大魔女マルジェラ様、私はその使い魔だ。さんざん苦労かけて探したぞ、今からお前らをブチ殺す。そしてこの国の人間を皆殺しにする』

 俺たちを殺す? 
 国の人間を皆殺し?
 理解が追いつかない。

 するとオルマが狼狽えだす。
「だ、堕天の魔女マルジェラ……」
 ああ、そういえばこいつが言ってたな、この街で関わるなという奴の一人だ。
 マフィアにも狙われてる、衛兵にも捕まった。
 これでスリーカードが揃ったな。
 全く嬉しくないが。
『ほう、我が主を知っての無礼だったのか。許せんな、生まれてきたことを後悔するぐらいの苦痛を与えて殺してやろう』
 ジラールが堪らず食ってかかる。
「ざけんなっ! オレらが何したっつーんだよっ!!」
 ウサギの目が謎の光を放つ。
『昨夜ベガスのカジノで大勝ちしている泥酔していたマルジェラ様を、お前らは幸運の女神だとほざいて、その場で連れ去ったな?』
 連れ去った? 
 なんのために? 
 意味が分からない。
 何かの間違いじゃないのか? 
 ……記憶がないから他人事のように思ったが、それをやったのは俺たちなのか。
『そして酒場で祝杯したをしたまではいいが、その後、酩酊して寝ていたマルジェラ様を死んだと勘違いして、裸にひん剝いて棺桶の中に入れて、よりにもよってベガス湾に水葬と称して海底に沈めてくれたな』
 おいおい、この子不死身かよ。
 海底に沈んで今ピンピンしてるとは。
 ウサギがペッと唾を吐いた。
 その人間のような動作に、俺は器用だと感心した。
 さらにウサギが毛を猫のように逆立てる。
『それだけで万死に値するが、貴様たちはその時マルジェラ様がカジノで勝った金貨800枚をくすね、ベガスで豪遊していた。マルジェラ様はそのことが我慢ならんと言っている』
 俺たち3人は頭を抱える。
 そして昨日の自分を呪う。
 マルジェラのかざした手が光に包まれると同時に、ウサギが死の宣告を告げる。
『おしゃべりはここまでだ。死ね』
 しかし、とっさにジラールが筒状の道具を右手で構え、筒の先端から破裂音とともに煙を雲のように一気に辺りに充満させる。
 そして合図をだした。
「逃げるぞ!」
 俺たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から駆け出した。
 しかし空中を高速で浮遊しながら攻撃魔法を放つマルジェラが迫ってくる。
 近づくたびに駆け足の速度を自分の限界まで上げ、全力で逃げる。
 逃げながらオルマが尋ねる。
「どこに逃げるつもりさ! こ、殺されるよ!」
 ジラールも同意する。
「ああ、マジでヤバい! このままじゃ追いつかれる」
 俺はしたり顔で答える。
「……俺に策がある、まずはベガスのスラム街まで向かう。そこで奴を迎え撃つ」
 二人は、大丈夫かよ、って顔をしながら全力で駆け出した。
 夜の街へ死にもの狂いでひた走る。


 真夜中のベガスの街までなんとかたどり着いた。
 だが俺たちはまだ全力で走っている。
 マルジェラが市街地なぞお構いなしに、容赦なく攻撃魔法を放ちながら、俺たちに迫ってくるからだ。

 あ、宿屋が破壊された……。

 ベガスの街の人々が悲鳴を上げて逃げ回る。
 その中を俺たちは駆け抜ける。
「作戦は道中で話した通りで、スラムで奴を攪乱する、準備はいいか!?」
 二人は物凄く不安そうな顔で頷く。
 そして俺は詠唱を唱える。
『万象流変 幾変一化 物天不易 生生転承 移送乱 出でよ変転!』
 すると、三人の姿が行き交う通行人へと変わる。
 攻撃魔法が止まった。
 変身魔法でマルジェラの目を欺かせた。
 これは賭けだ。
 ベガス市民を皆殺しにする極悪非道なら通じなかった。
 まだあのエルフにも良心があったのだろう。
 しかし詠唱破棄で攻撃魔法を連発するなんて化け物だ。
 まるで神話の魔女じゃないか。

 確かに攻撃魔法は一時的に止んだ。

 しかし、マルジェラは気付いた。
 街中で不自然にゴブリンを抱く人間を。
 それは通行人に扮したジラールだった。

 ――あの男だ――!

 再び迫りくるマルジェラ、三人はさらに速度を上げその場を駆け抜ける。
「やっぱり追ってきてる!! ゴブリンなんて巣穴に置いてきてよ!」
「知らねーよ! こいつがしがみ付いて放さねーんだよ!」
「問題ない、想定内だ。これから三人に分かれて、このままスラム街まで駆け抜けるぞ」

 夜の市街地をひた走る三人が三手に分かれる。
 堕天の魔女はゴブリンを持つ人間に向けて容赦なく攻撃魔法を繰り出していく。
 死人が出ないことを三人は祈った。

 スラム街を弧を描くように逃走劇が繰り広げられる。
 しかしそれも限界だった。
 変身魔法が解けたのか、ゴブリンを持つ人間はジラールへと姿を代えていき、その男の体力も限界に近かった。
 絶望はその先にあった。
 通りを抜けた先は袋小路だった。
 思わず膝を落とし、力尽きたように、ゴブリンを手放す。
 それを見たマルジェラは男の前へと回り込み、空から眼前の男の前へ立ちはだかる。
 降参する意思表示のように男は両手を上げた。
 しかしエルフの少女は両手から眩い光を集める。
 そして氷のように冷たい声色で聞く。
「言い残すことはある?」

「バカめ! 『解』!」

 男はジラールではなくミュラーだったのだ。
 突然のことに戸惑うマルジェラ。
 その隙を逃さなかった。
 マルジェラの頭上から本物のジラールが現れると同時に、構えていた筒状の道具の先端から、先ほどとは比べ物にならない炸裂音、いや爆音が鳴り響く。
 膨大な出力の光の塊がマルジェラへと迫る。
 しかし彼女は軽く手をかざす。光の盾が展開される。
 そして無情にもジラールの放った光弾は霧散されてしまう。

 しかしオルマは見逃さなかった。

 マルジェラがジラールに気を取られる瞬間を。

 刹那、マルジェラはまるで縛られたかのように身動きを封じられてしまった。
 いや実際に縛っているのだ。オルマが張り巡らせた金属製の繊維、夜の目では目視困難なその糸に。
 
 オルマはあらゆる糸を自由自在に操り、それで数多のエモノを捕らえる漁師だった。
 このミュラーの作戦の肝はオルマだった。
 いかに彼女の手札を、そしてその姿を隠して、このスラム街の袋小路に誘き寄せるか。

 その策は見事に嵌った。

 そしてミュラーが告げる。
「俺たちが何も考えずにこのスラム街を走り回ってたと思うか? すでに魔法陣は刻んである。お前は今その中心にいるぞ」
 マルジェラが忌々しい目で見下ろす、スラム街の路地という路地に神々しい光が放たれていることに気付いた。
 ミュラーは逃走劇を繰り広げている最中、抜かりなく魔法陣を街中に描いていたのだ。

 ミュラーが右手をマルジェラへと向ける。

「触媒は俺の血だ。死ね」

 電気を帯びた磁力がオルマの無数に張った糸に、炎を放ちながら縛られたマルジェラへと向かっていく。
 そしてそれが合わさる瞬間、爆炎が巻き起こる。
 同時にミュラーは天空へと駆ける。
 確実にマルジェラを仕留めるために、剣を抜き放つ。

 しかし、立ち込める爆炎の煙の中、姿を現わしたのはジラールの首を掴んだ五体満足のマルジェラだった。

 予期しない光景にミュラーに動揺が走る。

 それは瞬き一つの瞬間だった。
 ミュラーの縦一文字の斬撃を横に横に払い、そのまま腕を掴み、自由を失ったミュラーを投げる。
 ミュラーが地上へと落下する間、無数の拳撃をその身体に叩き込んだのだ。
 その一撃一撃が内臓に悲鳴を上げさせる。
 あまりの衝撃にミュラーの意識は霞んだ。

 ――......なんで魔法使いの癖に肉弾戦ができるんだ......――。

 三人の勝機の灯が消えうせた。

 底冷えする冷笑が囁きかける。

「遊びはもうおしまい?」


 結局、俺たち三人はオルマの糸で縛られて正座させられていた。
 不貞腐れた顔で仁王立ちするマルジェラ、そして彼女の肩に乗ったウサギの瞳が、怪しい光を放つ。
『手間をかけさせてくれたな! このムシケラめ! 今から生まれてきたことを後悔させるような苦痛を与えて、その身体をバラバラにしてベガス湾の魚の餌にしてくれる!』
 満身創痍の俺だったが、心までは折れてなかった。
 最期のあがきにブラフをはった。
「……取引だ……、解毒薬が有る……」
『解毒薬!? なんのことだ!?』
「昨日お前が意識を失ったのは、毒を使ったからなんだよ。特製のアナコンダの毒薬が……。明日の朝には毒が全身にまわって死ぬぞ。身体中から血を流してな……」
 アナコンダに毒なんてあるわけねーだろ、と聞こえないような小声でジラールがつっこむが、どうやらマルジェラの反応はすこぶる良い。
 顔が青くなり、足が震えているのがわかる。
 マルジェラがウサギと相談している。そしてウサギの瞳が再び光る。
『マルジェラ様は昨日盗んだ金貨800枚で手を打つと言っている。今すぐ金貨800枚返せば、ついでに人質の姫も解放するとおっしゃっている。薬をよこせ』

 姫はマルジェラに囚われていたのか!? 
 通りで見つからないはずだ!

 俺は昼間、オルマが買い物で買ってきたアナコンダの精力剤をマルジェラに差し出す。
 ウサギが瞳の光を点滅させる。
『よし、拘束は解く。今すぐ金貨800枚持ってこいクソムシども』


 俺たちはなんとか九死に一生をえた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...