アウトロー ~追憶~

白川涼

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2章 ミュラー青春の謳歌

鍛冶職人とジラール

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 ジラールは手先の器用な男である。

 愛用のハーミットはもちろん、籠手や胸当てなどの身の回りのものは全て自分で手入れをしていた。
 その腕を買われ、金物商で武器や防具の手入れのバイトをしていた。
 普段は簡単な修理や調整を任されていた。
 だがジラールの腕を買った金物商の店主に声がかかる。

 メンテナンスばかりじゃなくて、鍛冶職人の所で働いてみないか。
 そこなら新品の武器や防具が作れるぞ。丁度人手が不足しているんだ。

 ジラールは快諾した。
 もっと自分の腕を上げてみたかったからである。

 しかし実際に鍛冶場で働いてみるとその期待は大きく裏切られた。
 ジラールはそこで雑務ばかりさせられていた。
 ジラールが鍛冶の仕事を教えてくれと職人の親方に懇願しても、背中を向け、
「見て覚えろ」

 そう言って、黙々と玉鋼を叩き続けた。
 そこの鍛冶場の親方は不愛想で無口な老人であった。
 上背が高いジラールから見れば、ドワーフのように小柄な体格の人間であった。
 しかしその腕は逞しかった。

 その太い腕から小さな金属の小槌で鋼の塊が美しく繊細な剣の刀身が生まれていた。

 ジラールは老人の言われた通り、窯に炭を入れろ、用意した水に入れろ、伸びた鋼を窯に入れろ、出来た刀身をひたすら研げ、と単調なことやり続けた。
 ジラールはそういう型にはまったことが嫌いであった。
 元来自由な性格の彼にはこの単調な毎日は窮屈であった。
 何度か老人の目を盗んで指示もなく、金槌で玉鋼を叩こうとしたら、小槌で頭を思いっきり叩かれた。
 そして老人も気難しかった。
 ジラールは言われた通りにやった仕事でも、遅い、出来が悪い、現場が汚れている、同じこと何度も言わすな。
 と文句ばかりつけていた。

 ジラールとの相性は最悪であった。

 だから弟子に逃げられるんだと内心毒づいていた。

 しかし、ジラールは老人の仕事ぶりに手も足もでなかった。
 仕上がった武器や防具の出来栄えだけではない。
 その老人の仕事ぶりに完敗していた。

 夜明け前、ジラールよりも先に鍛冶場で作業を黙々とこなし始め、深夜、ジラールの睡魔の限界が来ても、老人はひたすら小槌を叩き続けていた。

 ジラールは内心思った。

 このジジイ、いつ寝てんだ?

 いくら早起きしても老人に勝てず、夜更けまで頑張っても根負けしてしまう。
 口の悪いジラールもその老人の仕事ぶりに何も言えず、ただ言われたことをひたすら心血注いで作業せざるえなかった。

 理不尽なことも言われた。

 お前は言われたことしかできんのか、バカでも頭を使え。

 殺してやろうと思った。

 言われたことをやれと言ったのはお前だろう、何をぬかしやがる。

 しかし、ジラールは小さな声で謝罪し、老人と同じく黙々と作業を続けた。

 正直苦痛であった。

 ある時、小槌をふるいながら老人がジラールに尋ねた。

「お前はなんのためにここで鍛冶をしている?」

 ジラールは質問の意味がわからなかった。
 正直に金のためと答えればいいのか、迷った時、老人はうすら笑いを浮かべ。

「なにも考えてないな、だからバカなんだ」

 ジラールは激しい殺意を覚えた。

 やってられるかクソジジイ!
 
 と叫んで鍛冶場から飛び出そうとも思ったが、それはジラールの負けを意味する。
 皮肉交じりに答えた。

「何も考えてないバカですいません」
 
 そんなある日、とある依頼が来た。
 なんでもさる貴族のために剣をオーダーメイドして欲しいという話だ。
 偏屈な老人はその話を断ろうとしたが、雑務をしていたジラールを見て、快諾した。
 そしてジラールに告げた。
「お前が作れ」
 ジラールは困惑した。
 無理もない、今まで手伝いばかりで、剣の鍛冶なぞさせてもらったことがないし、何よりやり方も教わってない。
 ジラールが及び腰になっていると老人は怒鳴りつけた。
「今までさんざん儂の鋼打ちを見てきたんだろう!」
 ぎこちない手つきで玉鋼に小槌を打つと再び怒号が飛ぶ。
 見よう見まねに刀身を燃えた窯に入れると激しく叱責された。
 泣きながらジラールは金槌をふるう。

 出来上がった一振りを見て老人は呟く。
「ひどい出来じゃ、芸術ものじゃ、まぁ仕上げでごまかせば、ばれんわい」

 研磨は老人が行った。
 見事な研ぎ捌きで見栄えだけは良くなった。
 そして老人はジラールが打った剣を貴族に献上しこう呟く。
「儂は貴族が大嫌いじゃ、嫌がらせにちょうどいいわい」

 ジラールは呆れ、複雑な気持ちにかられた。

 どんな名剣もこいつの気分次第で出来上がるのか……。

 そんなある日の朝、老人は鍛冶場に姿を現わさなかった。
 ジラールが不思議なこともあるもんだと作業の準備を始めていたら、老人が吐血しながら現場に現れた。
 病だ。
 ジラールが今日は休めと、どんなに言っても老人は頑なに鍛冶場から離れなかった。
 そしてジラールに頼み込む。
「儂の言われた通りに打て、代わりにお前が打ってくれ、本物のお前を」

 ジラールは老人の覚悟を受けとった。
 老人の指示の言葉をしっかりと聞き、その通りに玉鋼を小槌で打つ。
 老人の言われた分量の炭をしっかりと窯に入れ熱量を確認する。
 そして刀身を燃やすタイミングを自分から聞き、熱で柔らかくなった、それを老人がいつも叩く要領で木槌をふるう。
 ただ黙々と。
 だがジラールの瞳は燃えていた。
 真剣な表情で作業を行う。
 長い、長い時間が過ぎた。
 しかしジラールは時を忘れるほど木槌をふるう。
 仕上げの研磨にも神経を研ぎ澄ませた。

 そして一振りの剣が仕上がる。

 それを老人に見せた。
 ジラールは正直自信は無かった。
 まだまだ未熟な腕を痛感させられた。
 だが次があればもっといいものが出来上がる自信はあった。
 老人の腕に遠く及ばなくとも、もっといいものを作りたい。
 そんな気持ちにかられた。

 老人はジラールの仕上げた剣をじっくりと見定め、ジラールをまじまじと見つめる。
 そしてジラールの頭を思いっきり木槌で打ちすえた。
「やればできるなら、始めからちゃんとやらんか! このバカタレ!」

 はじめての賛辞の言葉だった。
 ジラールは威勢の良い言葉で叫ぶ。
「バカですいません!」

 そして病が治った老人は今日もジラールと鍛冶場で黙々と作業をする。

 今のジラールは老人の一挙手一投足を見逃さず、鍛冶場の仕事を覚えていた。

 今なら老人の問いかけに答えられるだろう、とジラールは確信した。


 後日、ジラールが渾身を込めた一振りがミュラーの魔法で粉々に砕けた時、ジラールはミュラーの頬を思いっきり殴り飛ばした。
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