5 / 11
状況整理
しおりを挟む
「まずは状況整理からーー」
「ふがふがふが!」
「アダム様。あなたは少し黙っていて下さい」
ヨハネスの近衛騎士筆頭であるエースが場を仕切る中、それに加わろうとする公爵家令息"アダム・パーソン"を執事のウィルソンが宥める。
「すみません。うちのバカ主人は生粋のミステリーオタクでこう言った事に目がなくて……ほら、アダム様も頭を下げて!」
「ふが! ふがふがふが!」
「はいはい。あなたはすごい探偵です。かのエルソンにも負けない頭脳の持ち主ですよー。これで満足ですか?」
「ふがっ!」
明らかにめんどくさそうにあしらわれているにも関わらず、満足のいく返答がもらえたアダムは、満面の笑みで、よくわかっているじゃないか!、と親指を立てる。
それを見ていた私は、変な奴、とフォレスト牛のワイン煮込みを頬張る。
「それでは状況整理から」
近衛騎士たちが事件の一連の流れを振り返る。
「まず、私たちが使用人に扮してパーティー会場を捜索した時は、どこにも異常はなかったな?」
「はい。その後、招待客の身体検査をしましたが、不審人物はおらず、パーティーは筒がなく始まりました」
エースは、部下からの報告に、同意するように頷く。
「パーティーが始まって、ヨハネス殿下が挨拶をするまでも異常はなく、途中、退室される方もいませんでした」
「使用人たちも特に不振な動きをする者はおらず、事前に料理の毒味も実施して異常はなかったです。それから、裏方も身体検査しましたが怪しい者はいませんでした」
部下の報告に、そうか、と呟くと、エースは顎に手を当て、ヨハネスの死体の横で、
「私はやっていない」
と、うわ言のように繰り返すソフィアと、その隣で、
「殿下!殿下!!」
と、泣き崩れているローラを見る。
「……お前たちは暗闇の中で何か気になる事はあったか?」
「お恥ずかしながら、殿下の思わぬ婚姻破棄の宣言に動揺してしまい……」
「同じく……」
「それに令嬢方の叫び声で何も聞こえず……」
本来ならどんな状況でもヨハネスを守り抜くのが彼ら近衛兵の任務。それを全うできなかった悔しさから、皆、肩を落とす。
返答を受けてエースは、むぅ……と唸り、思考を巡らせる。
「……パーティー前にも言ったが、ソフィア様がヨハネス様へのサプライズで、照明を落として誕生日ケーキをお持ちする計画があった事は知っているな?」
「「はい」」
「それから、ソフィア様が指を鳴らした後に反応して、照明が落ちることも把握しているな?」
「「はい」」
エースの問いに部下たちは頷く。
「そしてその事を知っているのは、我ら近衛兵とソフィア様だけ……クライス。殿下の死因は?」
「はい。殿下の死因は、食事用のナイフが下腹部に深く刺さった事による大量出血……どちらかというとショック死だと思われます」
「……他に外傷は?」
「見当たりませんでした。それから念の為に、パーティー会場に戻っていただいた招待客、裏方、別室で待機中の使用人達、ソフィア様、ローラを鑑定しましたが、嘘をついている者は誰一人としていませんでした」
「むぅ……嘘をついている者はいない、か」
エースは眉間に皺を寄せて悩む。
(鑑定魔法による嘘の看破も完璧ではない。ここで決断を下すにはまだ早い……か)
エースは閉じていた瞳を開け、部下達へと向き直る。
「お前達、あの一瞬の暗闇の中で迅速に行動し特定の人物を刺せるか?」
「流石に王国最強と呼ばれる私たち近衛兵だとしてもそのような芸当は……」
「不可能です」
部下達は首を横に振って否定。それを受けて、俺でも無理だな、と、エースは浮かんだ可能性を頭から消した。
「それに常々、『ヨハネス様には、私だけを見ていて欲しい』とだいぶ前から悩まれていたそうなので、その不満が溜まりに溜まって……」
「……動機もあるか。ローラはメイドとしていつからここで働いている?」
「他のメイド達に聞いたら2年前からだそうです。なんでも、回復魔法の才能を見込まれて王城での奉公を許可されたとか……しかし、パーティー前に彼女の身体検査をしましたが、何も不審な点はなく。それにメイド達の話では、仕事中によく転ぶほど鈍臭いという証言もありますので彼女には無理かと」
エースはヨハネスの横で泣き崩れているローラを見てから、
「彼女と近くで仕事をしていたな、ヘンズ。パーティー中はどうだった?」
「そうですね。パーティー中に一瞬見失ってしまった時がありましたが、お盆を両手にワインを配っていましたし、凶器となるナイフや他の食器が置かれた出入り口へも近づいていませんでしたから」
「そうか……他の招待客は、殿下から三メートルほど距離が空いていたし、何より殿下の正面にはソフィア様が立たれていた。ナイフが下腹部の真ん中に刺さっていた事から見ても、ソフィア様が遮蔽物となってしまい、殿下を刺す事は不可能……か」
そう結論づけたエース達は、ソフィアを見る。
「私はやっていない」
「ふがふがふが!」
「アダム様。あなたは少し黙っていて下さい」
ヨハネスの近衛騎士筆頭であるエースが場を仕切る中、それに加わろうとする公爵家令息"アダム・パーソン"を執事のウィルソンが宥める。
「すみません。うちのバカ主人は生粋のミステリーオタクでこう言った事に目がなくて……ほら、アダム様も頭を下げて!」
「ふが! ふがふがふが!」
「はいはい。あなたはすごい探偵です。かのエルソンにも負けない頭脳の持ち主ですよー。これで満足ですか?」
「ふがっ!」
明らかにめんどくさそうにあしらわれているにも関わらず、満足のいく返答がもらえたアダムは、満面の笑みで、よくわかっているじゃないか!、と親指を立てる。
それを見ていた私は、変な奴、とフォレスト牛のワイン煮込みを頬張る。
「それでは状況整理から」
近衛騎士たちが事件の一連の流れを振り返る。
「まず、私たちが使用人に扮してパーティー会場を捜索した時は、どこにも異常はなかったな?」
「はい。その後、招待客の身体検査をしましたが、不審人物はおらず、パーティーは筒がなく始まりました」
エースは、部下からの報告に、同意するように頷く。
「パーティーが始まって、ヨハネス殿下が挨拶をするまでも異常はなく、途中、退室される方もいませんでした」
「使用人たちも特に不振な動きをする者はおらず、事前に料理の毒味も実施して異常はなかったです。それから、裏方も身体検査しましたが怪しい者はいませんでした」
部下の報告に、そうか、と呟くと、エースは顎に手を当て、ヨハネスの死体の横で、
「私はやっていない」
と、うわ言のように繰り返すソフィアと、その隣で、
「殿下!殿下!!」
と、泣き崩れているローラを見る。
「……お前たちは暗闇の中で何か気になる事はあったか?」
「お恥ずかしながら、殿下の思わぬ婚姻破棄の宣言に動揺してしまい……」
「同じく……」
「それに令嬢方の叫び声で何も聞こえず……」
本来ならどんな状況でもヨハネスを守り抜くのが彼ら近衛兵の任務。それを全うできなかった悔しさから、皆、肩を落とす。
返答を受けてエースは、むぅ……と唸り、思考を巡らせる。
「……パーティー前にも言ったが、ソフィア様がヨハネス様へのサプライズで、照明を落として誕生日ケーキをお持ちする計画があった事は知っているな?」
「「はい」」
「それから、ソフィア様が指を鳴らした後に反応して、照明が落ちることも把握しているな?」
「「はい」」
エースの問いに部下たちは頷く。
「そしてその事を知っているのは、我ら近衛兵とソフィア様だけ……クライス。殿下の死因は?」
「はい。殿下の死因は、食事用のナイフが下腹部に深く刺さった事による大量出血……どちらかというとショック死だと思われます」
「……他に外傷は?」
「見当たりませんでした。それから念の為に、パーティー会場に戻っていただいた招待客、裏方、別室で待機中の使用人達、ソフィア様、ローラを鑑定しましたが、嘘をついている者は誰一人としていませんでした」
「むぅ……嘘をついている者はいない、か」
エースは眉間に皺を寄せて悩む。
(鑑定魔法による嘘の看破も完璧ではない。ここで決断を下すにはまだ早い……か)
エースは閉じていた瞳を開け、部下達へと向き直る。
「お前達、あの一瞬の暗闇の中で迅速に行動し特定の人物を刺せるか?」
「流石に王国最強と呼ばれる私たち近衛兵だとしてもそのような芸当は……」
「不可能です」
部下達は首を横に振って否定。それを受けて、俺でも無理だな、と、エースは浮かんだ可能性を頭から消した。
「それに常々、『ヨハネス様には、私だけを見ていて欲しい』とだいぶ前から悩まれていたそうなので、その不満が溜まりに溜まって……」
「……動機もあるか。ローラはメイドとしていつからここで働いている?」
「他のメイド達に聞いたら2年前からだそうです。なんでも、回復魔法の才能を見込まれて王城での奉公を許可されたとか……しかし、パーティー前に彼女の身体検査をしましたが、何も不審な点はなく。それにメイド達の話では、仕事中によく転ぶほど鈍臭いという証言もありますので彼女には無理かと」
エースはヨハネスの横で泣き崩れているローラを見てから、
「彼女と近くで仕事をしていたな、ヘンズ。パーティー中はどうだった?」
「そうですね。パーティー中に一瞬見失ってしまった時がありましたが、お盆を両手にワインを配っていましたし、凶器となるナイフや他の食器が置かれた出入り口へも近づいていませんでしたから」
「そうか……他の招待客は、殿下から三メートルほど距離が空いていたし、何より殿下の正面にはソフィア様が立たれていた。ナイフが下腹部の真ん中に刺さっていた事から見ても、ソフィア様が遮蔽物となってしまい、殿下を刺す事は不可能……か」
そう結論づけたエース達は、ソフィアを見る。
「私はやっていない」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる