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姫様、毒、鞭、最強の盾
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メイナスの試合が終わり3週間後……
「奴隷番号98!アーク、試合の時間だ!出ろ!」
係員が呼びにきた。
俺は刀を持ち、檻を出る。
「相手は誰かわからねえからアドバイスできねぇが、死ぬんじゃねえぞ!」
「まあお兄さんなら余裕だよ。なんかここにきた時よりも凄みが増してるし」
ロイ、メイナスが送り出してくれる。
「行ってくる」
この3週間でロイとメイナスともだいぶ打ち解け、今では話すのも煩わしいと感じなくなった。
特に2人もかなりの強者のようで2人の戦い方を聞いていると勉強になることが多い。
檻を出て闘技場へと続く階段を登る。
「よし!一旦ここで止まれ!」
あと少しで地上に出るというところで係員に止められる。
(なんだ?)
理由を話さず後ろを向いて突っ立っている係員を見て疑問に思っていると、階段上からパタンパタンと足音が聞こえた。
その音がだんだん近づいてきたので、前を見る。
「姫様!」
手に小さな瓶を持った姫様と別の係員がいた。
「アーク」
俺の名前を呼ぶ。
「姫様?」
だが、俺の名を呼ぶ姫様はどこかいつもと様子が違う気がした。なんだか、目にいつもの凛々しさが感じられない。おかしい……何かをされたとしか思えない。
「お前たち!姫様に何をした!」
係員を睨む。
姫様の後ろにいる係員は、
「ただ命令を与えただけだ。それよりも良いのか?それを飲まなければ命令を遂行できなかったとして隷属の首輪から動けなくなるほどの電流が姫様の体を襲うぞ?」
ニヤニヤしながら話す。
「この外道どもが!」
俺は姫様から瓶を受け取り、栓を開けて中身を飲む。
俺が中身を飲むと姫様の様子が変わり、目に光が戻ったと同時に姫様はバタン!とその場に倒れ込んでしまう。
「おーおー。偉いね。ちなみにお前が飲んだものは神経毒で1時間もすれば動けなくなる代物さ。効果は飲んだ直後からだ」
「おい!いつまでやっている!姫は檻に戻しておくからさっさと連れていけ!」
地上から別の係員が呼びにきて、姫様を運んでいった。
(くっ……姫様!)
体に力が入らなくなってくる。
「オラ!さっさと立て!」
係員は毒が効いて動かない俺を鞭で引っ叩く。
「アハハハ!どうした!姫を守る騎士なんだろ?ここで立って闘技場に行かないと失格と見なされて姫様が死ぬことになるぞぉ?それでもいいのかなぁー、ギャハハハハ!」
「くっ……!」
なんとか立ち上がり闘技場を目指して歩き出す。
「オラ!きびきび歩け!鈍間!」
「くっ!がっ!ぐっ!」
その後も闘技場に着くまで鞭で30回は叩かれた。
闘技場への入り口に着くと檻はすでに上がっていて、対戦相手の男の紹介となっていた。
「いい気味だ。お前たちマース人にお似合いだぜ。オラ!さっさと行け!」
係員に蹴り飛ばされる。
「く!」
なんとかよろめきながらも闘技場中央へと歩いて行く。
「続きまして!西!その肉体はどんな攻撃も弾く鉄の鎧!最強の盾!ルード!!」
檻が上がり、巨大グリズリーのような大男が現れる。
「「うおおお!」」
民衆の声援に手を振りながら闘技場中央へと進んでくる。
そして、男は俺の前に来るとニヤニヤ笑い始めた。
「おやおや。試合前からボロボロのようだね。どうだった?鞭の味は?愛しの姫様からの毒は美味しかったかい?ブハハハ!」
「……」
「いつもなら自分で試合前に関節を外しに行くんだけど、公爵が君に神経毒を飲ませると聞いてね。気の毒だと思って、係員に金を渡して鞭を打つように命じたんだ」
「……」
「なんだ……無反応か。つまらない。もっと怒ってくれたら面白いのに」
「……」
男の話を聞いて、ギリ!と音がするほどに奥歯を噛み締める。
(ふぅ、落ち着け。怒りに任せて戦ってもこんな体ではすぐにやられてしまう。まずは今の状態を確認することが大切だ)
「さあ!アーク選手は何やら戦う前からボロボロのようだが、最強の盾相手にどこまで生き残れるのか!始めてください!」
アナウンスによって試合が開始される。
「ボロボロの君に免じてサービスをしてあげよう!今から一撃だけ避けずに受けてあげるから好きな攻撃をしてきなさい」
男は構えず棒立ちになる。
その頃になると俺の現状確認も終わる。
(右脚も力は入るな。反射速度も落ちてはいるが受け流しくらいはできるな。よし)
「では、好きに打たせてもらう」
俺は居合の構えを取り、呼吸を整えて体の力を抜く。
(神経毒のおかげでここまで力が抜けるとはな。もはや体はボロボロ。この一撃で決めなければおわりだな……)
「ふぅ……!」
完璧に脱力し、左手で鞘を支え、右手で刀を解き放つ。
解き放たれた刀の刃が男の体に触れる瞬間に親指と人差し指に力を込める。
バキン……
「おお!やるな!その状態で俺の脇腹をほんの少しとは言え、切り裂くとは」
男は腹から出血していた。が、
「おっと。これはまずい……ふん!」
腹筋に力をこめて止血してしまう。
「いやぁ。久しぶりだ。俺の体に傷をつけたやつは。普段なら剣など腹筋で弾き返して終わるのだがな……敬意を表して全力をもってなぶり殺しにしてやる」
ルードは構えを取る。
(ふぅ……なるほど。最強の盾か。渾身の居合でも軽い傷を与えるのがやっと……)
「ゆくぞ」
ルードは、一瞬で間合いを詰め拳の連打を放ってくる。
その攻撃はまるで、暴風雨のように俺に降り注ぐ。一撃一撃が放たれるごとに当たった地面が粉々にされてゆく。
「流るること水の如し……明鏡止水」
俺は「合気」という技で、相手の呼吸から、攻撃を察知し、避けたり、攻撃の方向をそらし、なんとか避け続ける。
「ふぅ……はぁ。ああ、連打は呼吸を止めなくてはならないからしんどい……どうやってんだ。そうそういないぞ。俺の連打をこんなに交わすやつは」
男は話しかけてくるが、俺は意識を保つことで手一杯で男が何を言っているのかすら分からない。
(先程の攻撃はなんとか凌げたが、次はもう……)
「ハハハ!もう意識を保つので精一杯のようだな!」
男は観客に聞こえるように大きな声で喋る。それを聞いた観客は、
「「殺せ!殺せ!」」
と、叫ぶ。
「民衆の期待に応え、全力の一撃をもって葬り去ってやろう!「ラリアット」!」
男の攻撃が俺を襲う。
「流るること……明鏡……止水!」
なんとか受け流そうとしたが、ダメだった。
俺は男の攻撃を受けて宙を舞う。
辺りには俺の血が飛び散る。
(ああ……体から何かが抜けていく。これが死ぬということか……姫様。力及ばず申し訳ありませ……ん)
ドサッ
「俺の勝ちだー!」
ルードが宣言する。
「うおおー!さすが最強の盾だ!」
「息子の仇を取ってくれてありがとう!」
「マース人の死に!バンザイ!」
民衆はルードを称賛する。
その声の中に微かにだが、俺の守るべき人の声が聞こえた気がした。
「アーク!アーク!!アーク!!!」
声がどんどん大きく聞こえる。おかしい。民衆の声で聞こえないはずなのに、鮮明に姫様の声だけ聞こえる。
「ごめんなさい!私のせいで!いつも辛い目に合わせて!ごめんなさい!」
姫様は泣いていた。
(姫様……泣かないでください。俺は、大丈夫ですから)
気がつくと俺は立ち上がっていた。
俺が立ち上がったことで、ルードと観客は驚いて大きな声で叫んでいたが、目に映る景色がさっきから変わり、体から滴る血が空中で止まり、聞こえる音もいつもとどこか違う。
ルードは何かをいい終わると俺のところまで走ってきて拳を振るおうとしていた。
「遅いな……止まっているようだ」
俺はその攻撃を横にわずかにずれて交わし、左腰に刺しているもう一本の刀を掴み、居合を放つ。
不思議だった。さっきは切れなかった鉄みたいに硬い男の体も簡単に切れるのがわかった。
ルードは腰から上がなくなり、先に下半身が倒れ、少し離れたところに上半身が転がっていった。
「……最強の盾が!鉄をも弾く男が刀で切られて負けてしまったぁ!」
ある日、教えの全てを体得した俺に父が、
「アークよ。お前は本当に強くなった。だから、最後にブライト家に伝わる斬鉄の居合と神速の居合を教える」
と、言われたことがあった。
この二つの居合を会得するには、火事場の馬鹿力と無我の境地が必要だと言われていた。
会得するために、父に何度も何度も殺されそうになった。しかし、結局は会得できずにいた。
(それをこの土壇場で手にすることができた。これが普段の何十倍の力が発揮される「火事場の馬鹿力」。究極の集中力によって時間の流れが遅く感じる「無我の境地」か。なるほど。命の危機の果てに会得することができると言っていたが、本当だった……)
父が言っていたことを思い出し、俺はその場に倒れてしまった。
気がついた時には、すでに檻の中にいた。
「お!目を覚ました!」
「良かった。このまま死んでしまうのかと思ったよ」
ロイとメイナスが心配そうに覗き込んでいた。
「……俺は勝ったのか……」
「おう!あの最強の盾を倒したらしいぞ!すげぇじゃねえか!」
「本当だね。最強の盾に勝てるといえば、3神か3大魔くらいって言われてるのに。そんな強敵を倒したんだからすごいよ!」
(そうか。勝てたのか……)
勝てたことを知った俺は、安心したように、また眠りについた。
********************
闘技場王族専用ルーム
「……どういう事だ!なぜ!あいつがあの状態で生き残る!」
「は!ご命令通り、動かなくなる神経毒は飲ませたのですが……」
マグナス公爵が神経毒というと王は体をプルプル振るわせ、公爵を睨む。
「おまえは今、神経毒と言ったか?バカか!バカなのか!なぜ命を奪うほどの猛毒にしなかった!」
「恐れながら…それでは試合前に死んでしまい怪しまれると思いまして、神経毒に致しました」
「致しましたでは無いわ!あともう少しであの小僧が死に、マース王の血族である王女が死んで、あの忌々しい血が絶えるところが見られたのだぞ!馬鹿者が!」
バキッ!
王はマグナス公爵を殴り飛ばす。
マグナス公爵は姿勢を正し、
「は!王の顔に泥を塗るような真似をしてしまい誠に!申し訳ありません」
地面に頭をつけて謝罪。
そんなことが行われている王族専用ルームに1人の男が現れる。
「やっぱりお前達か……」
「ハルバート!」
3神の1人、最強の剛「ハルバート」
「俺はお前たちに釘を刺しに来た。いいか。今回のこの件は見逃してやる。だが、もう、あの少年の戦いを邪魔するようなことはすんじゃねえぞ?わかったか?あいつは俺のお気に入りだからよ。俺と戦う時までに死んでもらっては困るからよ。もし、お前たちがこの先余計なことをすれば……わかるな?」
ハルバートはそれだけ言い残し、一度、殺気で威圧し、部屋を出ていく。
「……あれは王たる私も容赦なく殺すと言うことだな」
「はい。やつは躊躇わずに殺しにくるでしょうね」
「この国の兵士であいつを停められるものがおるか?」
「無理です。この国に3神を止められる兵士はおりません。ハルバートに対してはあの者でも相性が悪いと思われます」
「……そうか……くそっ!」
********************
闘技場地下1階 女性奴隷の檻
「私のせいで……また、アークを苦しめてしまった……」
エリーゼは檻の中で泣いていた。
「私のせい……私のせいで」
「エリーゼ!あんたは何も悪くないよ!何も悪くない!」
「でも!」
「あんたは強制的に命令される前に断ったんだろ?なら、それを無理矢理やらせたあいつらが悪い!」
「エリさん……」
「それに闘技場で立ち上がる時に泣かないでください。大丈夫ですって少年は行ったんだろ?なら気にする必要はないよ。逆にあんたが落ち込んでる方が少年は気になるだろ。だから、少しずつでいいからいつものように笑えるようになっていこう?な?」
「……そうですね」
「奴隷番号98!アーク、試合の時間だ!出ろ!」
係員が呼びにきた。
俺は刀を持ち、檻を出る。
「相手は誰かわからねえからアドバイスできねぇが、死ぬんじゃねえぞ!」
「まあお兄さんなら余裕だよ。なんかここにきた時よりも凄みが増してるし」
ロイ、メイナスが送り出してくれる。
「行ってくる」
この3週間でロイとメイナスともだいぶ打ち解け、今では話すのも煩わしいと感じなくなった。
特に2人もかなりの強者のようで2人の戦い方を聞いていると勉強になることが多い。
檻を出て闘技場へと続く階段を登る。
「よし!一旦ここで止まれ!」
あと少しで地上に出るというところで係員に止められる。
(なんだ?)
理由を話さず後ろを向いて突っ立っている係員を見て疑問に思っていると、階段上からパタンパタンと足音が聞こえた。
その音がだんだん近づいてきたので、前を見る。
「姫様!」
手に小さな瓶を持った姫様と別の係員がいた。
「アーク」
俺の名前を呼ぶ。
「姫様?」
だが、俺の名を呼ぶ姫様はどこかいつもと様子が違う気がした。なんだか、目にいつもの凛々しさが感じられない。おかしい……何かをされたとしか思えない。
「お前たち!姫様に何をした!」
係員を睨む。
姫様の後ろにいる係員は、
「ただ命令を与えただけだ。それよりも良いのか?それを飲まなければ命令を遂行できなかったとして隷属の首輪から動けなくなるほどの電流が姫様の体を襲うぞ?」
ニヤニヤしながら話す。
「この外道どもが!」
俺は姫様から瓶を受け取り、栓を開けて中身を飲む。
俺が中身を飲むと姫様の様子が変わり、目に光が戻ったと同時に姫様はバタン!とその場に倒れ込んでしまう。
「おーおー。偉いね。ちなみにお前が飲んだものは神経毒で1時間もすれば動けなくなる代物さ。効果は飲んだ直後からだ」
「おい!いつまでやっている!姫は檻に戻しておくからさっさと連れていけ!」
地上から別の係員が呼びにきて、姫様を運んでいった。
(くっ……姫様!)
体に力が入らなくなってくる。
「オラ!さっさと立て!」
係員は毒が効いて動かない俺を鞭で引っ叩く。
「アハハハ!どうした!姫を守る騎士なんだろ?ここで立って闘技場に行かないと失格と見なされて姫様が死ぬことになるぞぉ?それでもいいのかなぁー、ギャハハハハ!」
「くっ……!」
なんとか立ち上がり闘技場を目指して歩き出す。
「オラ!きびきび歩け!鈍間!」
「くっ!がっ!ぐっ!」
その後も闘技場に着くまで鞭で30回は叩かれた。
闘技場への入り口に着くと檻はすでに上がっていて、対戦相手の男の紹介となっていた。
「いい気味だ。お前たちマース人にお似合いだぜ。オラ!さっさと行け!」
係員に蹴り飛ばされる。
「く!」
なんとかよろめきながらも闘技場中央へと歩いて行く。
「続きまして!西!その肉体はどんな攻撃も弾く鉄の鎧!最強の盾!ルード!!」
檻が上がり、巨大グリズリーのような大男が現れる。
「「うおおお!」」
民衆の声援に手を振りながら闘技場中央へと進んでくる。
そして、男は俺の前に来るとニヤニヤ笑い始めた。
「おやおや。試合前からボロボロのようだね。どうだった?鞭の味は?愛しの姫様からの毒は美味しかったかい?ブハハハ!」
「……」
「いつもなら自分で試合前に関節を外しに行くんだけど、公爵が君に神経毒を飲ませると聞いてね。気の毒だと思って、係員に金を渡して鞭を打つように命じたんだ」
「……」
「なんだ……無反応か。つまらない。もっと怒ってくれたら面白いのに」
「……」
男の話を聞いて、ギリ!と音がするほどに奥歯を噛み締める。
(ふぅ、落ち着け。怒りに任せて戦ってもこんな体ではすぐにやられてしまう。まずは今の状態を確認することが大切だ)
「さあ!アーク選手は何やら戦う前からボロボロのようだが、最強の盾相手にどこまで生き残れるのか!始めてください!」
アナウンスによって試合が開始される。
「ボロボロの君に免じてサービスをしてあげよう!今から一撃だけ避けずに受けてあげるから好きな攻撃をしてきなさい」
男は構えず棒立ちになる。
その頃になると俺の現状確認も終わる。
(右脚も力は入るな。反射速度も落ちてはいるが受け流しくらいはできるな。よし)
「では、好きに打たせてもらう」
俺は居合の構えを取り、呼吸を整えて体の力を抜く。
(神経毒のおかげでここまで力が抜けるとはな。もはや体はボロボロ。この一撃で決めなければおわりだな……)
「ふぅ……!」
完璧に脱力し、左手で鞘を支え、右手で刀を解き放つ。
解き放たれた刀の刃が男の体に触れる瞬間に親指と人差し指に力を込める。
バキン……
「おお!やるな!その状態で俺の脇腹をほんの少しとは言え、切り裂くとは」
男は腹から出血していた。が、
「おっと。これはまずい……ふん!」
腹筋に力をこめて止血してしまう。
「いやぁ。久しぶりだ。俺の体に傷をつけたやつは。普段なら剣など腹筋で弾き返して終わるのだがな……敬意を表して全力をもってなぶり殺しにしてやる」
ルードは構えを取る。
(ふぅ……なるほど。最強の盾か。渾身の居合でも軽い傷を与えるのがやっと……)
「ゆくぞ」
ルードは、一瞬で間合いを詰め拳の連打を放ってくる。
その攻撃はまるで、暴風雨のように俺に降り注ぐ。一撃一撃が放たれるごとに当たった地面が粉々にされてゆく。
「流るること水の如し……明鏡止水」
俺は「合気」という技で、相手の呼吸から、攻撃を察知し、避けたり、攻撃の方向をそらし、なんとか避け続ける。
「ふぅ……はぁ。ああ、連打は呼吸を止めなくてはならないからしんどい……どうやってんだ。そうそういないぞ。俺の連打をこんなに交わすやつは」
男は話しかけてくるが、俺は意識を保つことで手一杯で男が何を言っているのかすら分からない。
(先程の攻撃はなんとか凌げたが、次はもう……)
「ハハハ!もう意識を保つので精一杯のようだな!」
男は観客に聞こえるように大きな声で喋る。それを聞いた観客は、
「「殺せ!殺せ!」」
と、叫ぶ。
「民衆の期待に応え、全力の一撃をもって葬り去ってやろう!「ラリアット」!」
男の攻撃が俺を襲う。
「流るること……明鏡……止水!」
なんとか受け流そうとしたが、ダメだった。
俺は男の攻撃を受けて宙を舞う。
辺りには俺の血が飛び散る。
(ああ……体から何かが抜けていく。これが死ぬということか……姫様。力及ばず申し訳ありませ……ん)
ドサッ
「俺の勝ちだー!」
ルードが宣言する。
「うおおー!さすが最強の盾だ!」
「息子の仇を取ってくれてありがとう!」
「マース人の死に!バンザイ!」
民衆はルードを称賛する。
その声の中に微かにだが、俺の守るべき人の声が聞こえた気がした。
「アーク!アーク!!アーク!!!」
声がどんどん大きく聞こえる。おかしい。民衆の声で聞こえないはずなのに、鮮明に姫様の声だけ聞こえる。
「ごめんなさい!私のせいで!いつも辛い目に合わせて!ごめんなさい!」
姫様は泣いていた。
(姫様……泣かないでください。俺は、大丈夫ですから)
気がつくと俺は立ち上がっていた。
俺が立ち上がったことで、ルードと観客は驚いて大きな声で叫んでいたが、目に映る景色がさっきから変わり、体から滴る血が空中で止まり、聞こえる音もいつもとどこか違う。
ルードは何かをいい終わると俺のところまで走ってきて拳を振るおうとしていた。
「遅いな……止まっているようだ」
俺はその攻撃を横にわずかにずれて交わし、左腰に刺しているもう一本の刀を掴み、居合を放つ。
不思議だった。さっきは切れなかった鉄みたいに硬い男の体も簡単に切れるのがわかった。
ルードは腰から上がなくなり、先に下半身が倒れ、少し離れたところに上半身が転がっていった。
「……最強の盾が!鉄をも弾く男が刀で切られて負けてしまったぁ!」
ある日、教えの全てを体得した俺に父が、
「アークよ。お前は本当に強くなった。だから、最後にブライト家に伝わる斬鉄の居合と神速の居合を教える」
と、言われたことがあった。
この二つの居合を会得するには、火事場の馬鹿力と無我の境地が必要だと言われていた。
会得するために、父に何度も何度も殺されそうになった。しかし、結局は会得できずにいた。
(それをこの土壇場で手にすることができた。これが普段の何十倍の力が発揮される「火事場の馬鹿力」。究極の集中力によって時間の流れが遅く感じる「無我の境地」か。なるほど。命の危機の果てに会得することができると言っていたが、本当だった……)
父が言っていたことを思い出し、俺はその場に倒れてしまった。
気がついた時には、すでに檻の中にいた。
「お!目を覚ました!」
「良かった。このまま死んでしまうのかと思ったよ」
ロイとメイナスが心配そうに覗き込んでいた。
「……俺は勝ったのか……」
「おう!あの最強の盾を倒したらしいぞ!すげぇじゃねえか!」
「本当だね。最強の盾に勝てるといえば、3神か3大魔くらいって言われてるのに。そんな強敵を倒したんだからすごいよ!」
(そうか。勝てたのか……)
勝てたことを知った俺は、安心したように、また眠りについた。
********************
闘技場王族専用ルーム
「……どういう事だ!なぜ!あいつがあの状態で生き残る!」
「は!ご命令通り、動かなくなる神経毒は飲ませたのですが……」
マグナス公爵が神経毒というと王は体をプルプル振るわせ、公爵を睨む。
「おまえは今、神経毒と言ったか?バカか!バカなのか!なぜ命を奪うほどの猛毒にしなかった!」
「恐れながら…それでは試合前に死んでしまい怪しまれると思いまして、神経毒に致しました」
「致しましたでは無いわ!あともう少しであの小僧が死に、マース王の血族である王女が死んで、あの忌々しい血が絶えるところが見られたのだぞ!馬鹿者が!」
バキッ!
王はマグナス公爵を殴り飛ばす。
マグナス公爵は姿勢を正し、
「は!王の顔に泥を塗るような真似をしてしまい誠に!申し訳ありません」
地面に頭をつけて謝罪。
そんなことが行われている王族専用ルームに1人の男が現れる。
「やっぱりお前達か……」
「ハルバート!」
3神の1人、最強の剛「ハルバート」
「俺はお前たちに釘を刺しに来た。いいか。今回のこの件は見逃してやる。だが、もう、あの少年の戦いを邪魔するようなことはすんじゃねえぞ?わかったか?あいつは俺のお気に入りだからよ。俺と戦う時までに死んでもらっては困るからよ。もし、お前たちがこの先余計なことをすれば……わかるな?」
ハルバートはそれだけ言い残し、一度、殺気で威圧し、部屋を出ていく。
「……あれは王たる私も容赦なく殺すと言うことだな」
「はい。やつは躊躇わずに殺しにくるでしょうね」
「この国の兵士であいつを停められるものがおるか?」
「無理です。この国に3神を止められる兵士はおりません。ハルバートに対してはあの者でも相性が悪いと思われます」
「……そうか……くそっ!」
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闘技場地下1階 女性奴隷の檻
「私のせいで……また、アークを苦しめてしまった……」
エリーゼは檻の中で泣いていた。
「私のせい……私のせいで」
「エリーゼ!あんたは何も悪くないよ!何も悪くない!」
「でも!」
「あんたは強制的に命令される前に断ったんだろ?なら、それを無理矢理やらせたあいつらが悪い!」
「エリさん……」
「それに闘技場で立ち上がる時に泣かないでください。大丈夫ですって少年は行ったんだろ?なら気にする必要はないよ。逆にあんたが落ち込んでる方が少年は気になるだろ。だから、少しずつでいいからいつものように笑えるようになっていこう?な?」
「……そうですね」
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