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入学試験

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 「制限時間は60分です。トイレに行く時は静かに手を上げること。カンニングは厳禁です!それでは始めて下さい!」

 総勢100名の冒険者コース受験者が大講義室にて、一斉にテスト問題を解き始める。

 静かな講義室にペンの書く音だけが響く。

 「はい!」

 そんな中に私の元気な声が響き渡る。

 「静かに!」

 女性の試験官が教卓から私のところへとやってくる。

 「トイレですか?」

 聞いてくる試験管。
 
 やだ!もう……そんなこと言わせないでよ

 二日酔いによる青い顔で、

 「試験の準備を全くしてこなかったのですがどうすれば良いですか!教えてください!お願いします!」

 私は試験官に向かって教えをこう。

 うっ!さっきまでお酒を飲んでいたから気持ち悪い!
 
 そんな私に、試験官は呆れ顔でため息をつく。

 「あなたはここへ、一体、何をしに来たんですか?試験を受けにきたんですよね!」
 「ストップ!ーー頭に響くからもう少し優しい声でお願いします!」

 頭いてぇーーて言うか、眠いなぁ
 
 「なんか疲れてきた……もういいです。私のペンを貸してあげますから!静かに試験を受けて下さい!」

 ブラウスの胸ポケットから高そうな万年筆を取り出して机の上に置き、はぁ……と頭を抱えながら教卓へと戻って行った。

 「はーい!それじゃ解きますか」

 今こそ!これまでの睡眠学習の成果を見せる時!
 裏返しになっている用紙をめくる。
 
 「ふむふむ……ふむ……ふm……zzz」
 「寝ちゃったねー」



 ******



 「終わった」

 実技試験会場となる校庭の端っこで風に揺れる草を眺める。
 
 本番で睡眠学習してどうすんだよ!
一問も解いてねぇよ! 

 絶望感で胸が押しつぶされそうになる。

 「ああ……ブルーな気持ち」
 「まあ、元気出せって!私も二日酔いでほとんど寝ちまったから大丈夫だって!」
 
 エマが私の背中を叩いて励ましてくれる。

 おお!やはり同族!女神だ!ありがたや!ありがたや!

 「私の胸に手を合わせてどうしたんだ?」
 「ん?願掛け」
 「ふーん……で?ユリはどうだったんだ?」

 エマは、私のように下を向く眼鏡のパッツン髪の女の子「ユリ」に話しかける。
 
 「緊張で頭が真っ白になって……気づいたら終わってた」

 暗いオーラを纏うユリ。
 
 「まあ、なんとかなるって!元気出せ!」

 今にも灰と化し消え入りそうなユリと慣れた様子で励ますエマ。
 二人は孤児院で小さい頃から一緒に暮らす姉妹のような関係だと言う。
 私の視線はユリの踊る胸へと動く。
 ふむ。ユリは隠れ巨乳か。胸はそのものを写す鏡と聞く。ユリの心の美しさが胸に反映されているな。かなりの美巨乳と見た。
 一番星のように私の目が輝く。

 「まあまあ。二人とも素晴らしい胸をしているのだから絶対に受かるって!お胸様に誓って私が保証する!」
 「ふーん?聞いたことない神様だな。とりあえず一緒に祈っておこう!受かりますように!」

 私とエマはユリのお胸様に向かって両手を合わせる。

 「二人とも頭、大丈夫?」

 真顔で聞かれてしまった。

 普通に聞かれると恥ずかしい。

 「これより実技試験を始める!」

 私に万年筆を貸してくれた試験官の女性の声が校庭に響く。

 ぐおお!やめてくれぇ!二日酔いの頭に、とても響く!

 私だけではなく、エマと受験生の4分の1が頭を抑えていた。
 
 「おお!こんなに同士がいたとは!……この学校……大丈夫か?」
 「いや!クミさんも一緒でしょ!」

 ユリの鋭いツッコミが心にも頭にも響く。
 ああ!そうだよ!こっちとら酔いどれ元!聖女さ!文句はある……わな。

 「試験の説明をする。まずは、水晶による属性魔力の判別とステータス確認!その後に攻撃魔法の威力テスト!最後に試験官との模擬戦闘!この3つで入学に値する実力があるか見る!」

 話すにつれて大きくなっていく金切り声。

 「あ"あ"あ"」と受験生の4分の1がゾンビ声をあげる。
 ……カオス!

 「説明は以上!名前を呼ばれたものから受付にきてください!」

 順に名前が呼ばれていく。



 *****



 「31番!エマ!受付に来い!」

 エマの番が回ってきた。
 
 「やっと出番か。行ってくる」
 「おうーいてらー」
 「いつも通りだよ!エマなら強いから大丈夫!」
 「ははは!二人の温度差がすごいな。おう!試験官をのしてくる!」

 エマは颯爽と受付に向かっていった。
 まあ、見た感じ。学力は知らんけど感じる強さならエマより強いのって、いねぇな。てか、耳かゆっ!
 亜空間から耳かきを取り出してユリに頼んでかいてもらう。
 
 「ああ!いいね!そこそこ!……ふぁぁ……おやすみ」
 「え!試験中だよ!」
 「だいじょぶだいじょぶ……ユリって私の後でしょ?君が起こしてくれれば何も問題はないのだよ!じゃ、そう言うことで……zzz」
 「本当に寝たよ。どんな神経回路してんだろ……まあ、酔い覚ましとか言ってさっきもお酒飲んでたような人だもんね」

 いびきをかきはじめたクミをそのままにして、大岩へと魔法を打ち込むエマを応援する。

 「頑張れ!エマ!」


 *****


 「91番!クミ・スグロ!受付に来い!」

 ユリの柔らかな太ももで爆睡する私に声がかかる。

 「クミさん!起きて!出番だよ!」
 「うぅ……フルハウスなんて卑怯だぞぅ……ん?」

 ユリの太ももから起き上がる。
 あれ?どこだここ?私、ポーカーしてなかったっけ?
 
 「うーーん」
 
 左手で頭を抱えて記憶を呼び覚ましつつ、横にある素晴らしいお胸様を触って回復。
 ん?この感触は……

 「あ!入学試験にきてたんだ!」
 「思い出したんだったら触るのをやめて早く受付に行って!」
 「ん?もう呼ばれたの?」
 「そうだよ!早く行って!」
 「えー!!もうちょっと触ってたいなぁー」
 「ひゃあっ!もう!早く行ってよ!」

 揉みかたを変えても許してもらえなかった私は仕方なく受付へ向かう。

 ちえっ、もっと堪能してたかったなぁ。

 不貞腐れた顔で受付に行くと試験官の額に血管が浮かび上がっていた。

 「え?高血圧ですか?病院へ行った方が良いですよ」
 「心配ありがとう」

 私が心配すると試験官はにっこりと笑う。

 「あなたのおかげで血圧が上がり続ける1日ですよ。どうかお願い。私のことを思うならさっさと試験を受けに行って!」
 「はーいー」
 「伸ばすな!」
 「へい!」
 「はぁ……もう早く行って」
 
 疲れた様子で喋る試験官。そろそろ私も飽きたので水晶玉の前へと向かう。

 「こちらの水晶玉に手をかざして魔力を込めて下さい」
 「うぃっす」

 水晶玉に手をかざして魔力を流す。

 うーん?頭いてぇ……こんくらいか?

 その瞬間、水晶に亀裂が走り粉々に砕け散り、さらっとした砂になる。

 「……え?あれ?水晶にヒビでも入ってたかな?すみません。もう一度良いですか?」

 試験官は驚きつつ、新しい水晶玉を取り出して机の上に置く。
 めんどくさいけど、試験なので仕方なく、もう一度、魔力を流し込む。
 再び粉々に砕け散る水晶玉。

 「……え?なんで?え?えええ!!」
 「あの、めんどくさいんで次の試験に行っちゃいますね」

 割れた水晶玉を見つめて固まったままの試験官をそのままにして、勝手に次の試験へ向かう。

 「おい!見たか!水晶玉が砕けたぞ!」
 「いやいや。単なるイカサマだろ。あんなみすぼらしい格好の奴がすごいわけねぇだろう」
 「まあ、それもそうか」

 わたしのことをじっと見ていた男共がヒソヒソ声で話していた。

 おい!聞こえてるよ!サミング案件だぞ!
 
 次の試験官の前についたので、受験票を渡す。

 「はい。確かに。では、この机から20m先にある大岩に向かって魔法を打ち込んでください。6属性ならなんでも構いません」
 「りょーかい」

 6属性か……何にしようかな?気分的には試験がめんどくさくてブルーな気持ちだから、水にしよう!

 「て、水魔法って数年ぶりだな。とりあえずそれっぽくしとけばいいかーー水爆刃(ウォーターエッジ)」

 私の魔力によって出現した水が刃となり地面を切り裂きながら的となる岩へと向かって飛んでいく。

 やっべ!……ちょっと弱すぎたか?

 わたしの心配をよそに水の刃は大岩を切り裂き、さらに遠くへと飛んでいき、学校の裏山を両断する。
 
 「ふぅ……よかった。ちゃんと加減できてる!そんじゃ、次の試験に行きますねぇ」

 試験官に手を振って演舞場と呼ばれる武舞台と観客席のある会場へと歩いていく。

 「……何なの。あの受験生……」

 
 *****


 「よし!確かに!それじゃ!模擬戦闘の説明だ!試験官の俺は木剣のみで戦う!お前達受験生は得意武器+魔法が使用可能だ!勝敗はどちらかが参ったをするか、武舞台から落ちたら終了となる。何か質問はあるか?」
 「ありませーん」
 「ずいぶん軽い奴だな……わかった!それじゃあ!試験開始だ!」

 木剣を構えた試験官が飛び出す。

 ふぁぁ……もうちょっと寝ていたかったなぁ

 「隙だらけだぞ!」

 距離を詰めた試験官はあくびをするわたしに木剣を振り下ろしてくる。

 頭に響く声だな。こっちは二日酔いなんだからもうちょっと優しくしてくれても良くないか?
 
 少しイラッとしつつ、デコピンで木剣を消し飛ばす。

 どうするか?とりあえず武舞台の外に出したら勝ちだって言っていたしな……

 私は試験官の体を持ち上げて、そっと武舞台の外においてあげる。

 私って優しいな。さすが元!聖女だ。

 「喰らえ!デストラクションスーパースラッシュ!」

 時が戻った試験官は武舞台に向かって思いっきり手を振るう。
 必殺技が決まって余裕の笑みを浮かべる試験官の顔が次第に青ざめていき、右手を抑えて倒れ込む。

 「砕けたぁ!俺の右手ぇ!」

 地面をのたうち回る試験管。

 「試験官さん?これで試験って終わりだよね?」
 「ぐあああ!そうだ!いってぇぇ!!」

 ものすごく痛がりながらも真面目に答えくれる。

 「なら、帰りまーす。お疲れっしたー」

 私は、武舞台を後にする。
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