学園最弱の僕。成り上がる

さくしゃ

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ーーついにこの時がやってきた。

「ライリー君。剣帝選抜大会の対戦相手が決まりました」

4月25日帰りのホームルーム、レイ先生から対戦相手の書かれた用紙を渡された。

「明日午前9時から始まる第一試合です。相手は昨年剣帝大会本戦においてベスト8に入った学園序列5位。イーゴ・ヘルナンド君です」

渡された用紙を見る。
昨年僕が観客席から見ていた剣帝大会で活躍していた確かドワーフ王国出身。筋骨隆々でドワーフとは思えない巨体が印象的だった。

「私から言えることは一つだけ。命を大切にしてください。何事も命あってのことですから」

「はい!」

「それからクロエさんの対戦相手も決まりました。相手は魔力「水龍」を操る学園序列8位のハイエンスさん。クロエさんもいいですね。命あってのことですから無理だけはしないよう」

「はい!」

「よろしい。でも、先生は心配していません。他の生徒たちが遊ぶ中、君達は誰よりも努力しました。エンドのE組と揶揄されますが、どっちが終わっているのか明日見せつけてあげなさい」

「「はい!」」

僕達の返事を聞いた先生はちょっと涙を流しながら「それでは大会運営がありますので先生はこれで」と教室をそそくさと出ていった。

「よ、よよよし!ついにこの時が、あ、ああ……お、おかしいな、なんか震えて、う、上手く話せない」

「ま、まだまだね。こ、こんなことでき、緊張す、するなんて」

「ははは、く、クロエだってひ、人のこと言えない」
「は、はあ!私はき、緊張なんてし、してません!無様に震えているのはあ、あなたでしょ!」

「だ、誰が無様だって!」

「あなたのことよ!」

教室中央で睨み合う僕とクロエ。

「クロエの方が絶対に緊張してる!」

「何いってるのよ!ライリーなんて振動で揺れる水面のように小刻みに震えているじゃない!」

「はあ!クロエなんて30年ぶりに釈放された囚人が久しぶりに目にした故郷の景色を見て感動のあまり涙を流す時のように震えてましたあ!」

「例えが長いのよ!」

ぐぬぬ……

「なら、どっちが余裕あるか勝負だ!」

「ええ!望むところよ!かかってきなさい!」

僕とクロエはバッグを手にして教室入り口へ。

「ふぅ」

額から流れ落ちる汗。
さあ、どんな手でくる。
僕は背後のクロエを警戒しながらも先に教室から出る。

「ふふふ、随分と余裕がないのね」

背後からかけられる勝ち誇ったクロエの声。
その声に振り返る。

「ふぅ……今日の紅茶はとても美味しいわ」

クロエは湯気のたたないティーカップを片手にランウェイを歩くように観客へ手を振りながら僕の元へとやってくる。
紅茶と本人は言っているが多分水を飲みながら歩いてきていたので水がこぼれ体のあちこちが濡れている。

「ふふふ、あら?ライリーくん。随分余裕が無さそうだけど何かあったの?紅茶でも飲んで少し落ち着いたら」

タオルを取り出し顔を拭くクロエは余裕の笑みを浮かべ、バッグの中からティーカップを取り出して渡してくる。

「えっと、空だけどありがとう……じゃなくて、今バッグの中からカップを出した?」

「ええ。高貴なる者は常日頃から様々なことを想定し準備せよってひいおじいさまの教えがあるの。だから、王族はバッグに常にティーカップを持つことになっているのよ。ほら、他にもいろんなティーカップがあるわよ」

クロエはバッグの口を広げて中身を見せてくる。
あらわになったバッグの中には金とダイヤで装飾されたいかにも「ぼく高いです!」と主張してくるティースプーン。
その他に濃紺色の艶と深みのある色のお皿が入っていた。

「ふふふ、どう余裕あるでしょ?」

再び勝ち誇った顔を浮かべるクロエ。

「け、経済的余裕!く、くそー!」

僕は人差し指だけ逆立ちで移動しその場を後にする。
全身めっちゃ鍛えられます!

「……何だかよくわからないけど。とにかく私の勝ち!」


◇◇◇◇◇


「497、498……」

廊下でのライリーとの勝負に勝利した私は校舎裏で一人木刀で素振りを行っている。
私をおいて逆立ちで廊下をかけていったライリーは校舎裏に先に来ていると思ったけど……
どこにいったのかしら。

「ははは!またせたねクロエ」

一人で黙々と素振りを続けること555回目。
背後からライリーの声。

「ふふふ、きたわね」

その声に嬉しさを隠せない私
廊下での勝利の余韻がまだ残っている私は次にどんな反応を見せてくれるのか楽しみでしかたなかった。
必死で笑ってしまいそうになる気持ちを抑え頬をピクピクさせながら振り返る。

「どう?余裕すぎて今日は木刀3本を重ねて素振り……」

「おお!さすがクロエ!すごいね!」

ガシャンガシャン……と金属同士がぶつかる甲高い音を鳴らすライリー

「ぷ、プレートアーマー!」

「騎士!といえばやっぱりプレートアーマーだよね。丁度理事長に会ったから借りてきたよ。いやあ、この全身鎧40kgもあるんだってね。余裕すぎてとても軽いよ」

楽々っと動かして見せるライリー。
鎧に王家の紋章があるから間違いなくライリーの言っていることは本当。
私も着用したことがあるからわかる。
あの鎧は特注品で鍛錬用に作られた物。
人間の2歳児換算で行くと2歳児一人あたりの重さは10kgとなるので4人分の重さとなる。

「更に!この全長二m!ギロチンの刃をそのまま剣にしたような剣帝愛用のバスターソード!重さにして30kg!」

これまた父の愛刀「ドボルザーク」を両手で持ち掲げるライリー。
そして、これもまた以前に何度か手に触れたことがあり重さ、扱いづらさなどはそれなりに知っている。
ライリーは私が扱えきれなかった「ドボルザーク」を易々と扱って見せる。

「……た、体力的余裕!負けた……」

その場にへたり込む。

「くっ……おも、いや軽い!いーち!……」


そして、その後も勝負は続いた。
食事、入浴時間……

「はぁはぁ……」

「ヒューヒュー」

息を切らしたままベッドに横になる私とライリー。

「つ、次が最後!どっちが早く眠れるか」

「うん。勝負よ!」

息を切らしたまま目を閉じる。
バクンバクン!とたかなる鼓動。
目を閉じている分、聴覚が鋭敏になり普段なら気にしない2段ベッドの軋む音、夜風に揺れる窓、動物たちの鳴き声が明瞭に聞こえる。

「は、ははは……あははは!」

「ははは!」

よくわからないけど何か突然第三者視点になって今の状況を客観視してみたら何だかおかしくて私とライリーは同じタイミングで笑ってしまった。

「明日から本番だっていうのに……」

「……何やってるんだろうね僕たち」

下で眠るライリーからタイミングよく返事が返ってくる。

「……」

しばらくの沈黙。

「ねぇ」

「何?」

「明日の試合。私は何があっても勝つわ」

「うん」

「だから、ライリーも絶対に勝ってよ。私の最終目標は剣帝になることだけどその前にあなたに負けたままなのは絶対に嫌だから」

「なら、心配いらないよ。僕は剣帝になるまで誰にも負けないから」

「それは私も同じ。絶対に負けないからね。あなたを倒すのはこの私!」

「ははは。なら、クロエを倒すのは僕だ!」
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