学園最弱の僕。成り上がる

さくしゃ

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2ー5

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「ヴィー、ヒック……ひゃーこりゃがおりゃの本気らー!」

完全に酔いの回ったイーゴくん
ツーハンデッドソードを天井に向かって突き出す。
すると……

「よっこら……しょ」

ツーハンデッドソードを杖代わりにして立ち上がる。
おかしい。気圧操作は解いていない。
目眩を起こした時よりも気圧は上がっているはずなのに普通に立ち上がってきた。

「イーゴ選手5本目を口にしたー!ついに本気になりました!そしてライリー選手の魔力による攻撃が効かなくなったということはイーゴ選手の魔力『粉砕』が発動!イーゴ選手の攻撃が直撃した人、物、魔力の全て粉砕する強力すぎる力!しかし!直撃しないと能力は発動しないため昨年は受け流されて負けてしまいました!」

実況がタイミングよく説明してくれる。
なるほど。これが5本目を飲んだ時に発動する魔力『粉砕』
ということは立ち上がる前に天上に向かって剣を突き出した時に僕の魔力は粉砕されたということか。

「やっかいな魔力だね。イーゴくん」

「でへへへ!そりゃほどでもない……りょ!」

オリヴィア先輩の雷光に匹敵する速度で間合いを詰めてくるイーゴくんは今までよりも前に姿勢を倒し光速の連撃を放ってくる。

「おりょりょりょりょ!」

右手のツーハンデッドソードは握ったまま拳打を放ち、即座に回し蹴り左手の拳打と絶え間なく攻撃を放ってくる。

「みなさま!これが全力のイーゴ選手による『地獄の10カウント』と呼ばれる攻撃です。どんな相手も100%状態のイーゴ選手の前には10秒も立っていた選手がいなかったことからついたのが由来です。さあ!意外な強さを見せつけここまで生き残ったライリー選手は何秒立っていられるのか!みなさま!私と一緒にカウントをお願いします!10……9」

8……7と実況に合わせてカウントダウンする観客
それに合わせて苛烈さを増していくイーゴくんの攻撃。

「あーっと!ライリー選手!武舞台と客席を隔てる壁まで追い詰められたー!ピーンチ!残り2秒!」

僕は壁に背を預け絶え間なく放たれる拳打や蹴打のそれぞれの側面に霧雨を合わせて微妙に攻撃の方向をずらし逃げ場のない壁際から脱出をはかる。

「ムハハハハ!逃げようとしても、ムダムダムダムダムダムダムダムダァァ!!」

イーゴくんの攻撃の回転数がここにきて更に上がる。

カウントダウン残り1秒……
イーゴくんの攻撃をなんとか受け流す。

カウントダウン残り0……
攻撃速度についていけず左の拳打を受け流した所で即座に飛んできた右の拳打に対応しきれず左腕に直撃。
被弾した前腕部から下が消滅し大量の出血。

「おお!当たったぞ!」

「よくやった!」

「いいぞ!調子に乗った平民なんぞそのまま殺してしまえ!」

色めき立つ観客たち。
そんな観客たちの声は僕の耳には山びこのように聞こえ幾重にも耳の中で反響する。

「失血多量によるものかー!ライリー選手がふらつき出したー!」

実況の声すらも遠くに聞こえる。
霞む視界。
血が抜けるほどに体は軽くなっていきしばらくすると足にあった地面の感覚が消え浮遊感が襲う。
霞む視界に映る天井の光。
それはまるで水中から眺める太陽のように揺らぐ。

ーーああ、あんなに鍛えたのに結局上位陣には勝てないのか。やっぱり天才達には……

 「……ふざけるな!今さら才能を理由に逃げ出そうとしてんじゃねぇよ!」

ーー片腕を失った痛み?
そんなもん気力で耐えればいい!
ーー出血多量?
そんなもん制服のネクタイで止血すればいい!
ーーでも、止血してもすぐに気を失う。
ならその時間内に倒せばいい!

弱音を吐く理性を本能で押さえつけ体を動かす。
制服のネクタイを外して左大静脈のある脇部分できつく縛り止血。
欠損部位からの激痛は気力と興奮状態を保つことで脳や神経を麻痺させて耐える。
そしておそらく気を失うまで30秒。

「ヒック……へぇ。でも、こりゃでおわりゅら!」

立ち上がる僕を見て嬉しそうなイーゴくんは止めを刺すために走り出す。

「こっちかりゃなら防げないじょ?」

欠損してまともに動かせない左腕を狙って今度は拳ではなくツーハンデッドソードを横なぎに振るうイーゴくん。
しかし、これまでの攻防の中でイーゴくんの攻撃はほとんどの確率で右から始まっていた。
そこでイーゴくんの右側を警戒していたら予測は的中。

「幻影霧剣流 攻式 参の型『朧』」

残っていた少ない魔力をかき集めてなんとか虚像を生み出す。

「今度こそ死ね!」

虚像を攻撃するイーゴくん。
その隙に彼の懐へ入り込む。

「どんなに固い肉体だろうとも関係ない!」

イーゴくんの左右の胸の間を狙って掌底を打つ。
できるだけ衝撃が心臓に届くように。

「が、は……か、体が」

胸を両手で抑えて動きを止めるイーゴくん。
心臓に強い衝撃を与えることで一瞬だけ動きを止めることができると文献に書いてあったのでぶっつけ本番だったけど試してみた。
最悪の場合は相手が死んでしまう危険性もあるから頑丈そうな相手以外は多用できなさそうだ。
それから動きを止めたイーゴくんの顎を狙って掌底を打つ。

「ガフッ!……ゴホゴホッ!」

どうやら口が閉まる時に少しだけ舌が外に出ていたようで歯で切り裂いてしまった様子。
口からは大量の鮮血。
そして脳を縦に揺らしたので前後に体が揺れるイーゴくん。

「く……ああ!」

そのまま後ろ向きに倒れるかと思ったけど踏み止まり耐えて見せるイーゴくんは勝利への執念からか鬼の形相。

「はあああ!」

ふらつく体を筋肉でなんとか支え左拳打を打ってくる。

「幻影霧剣流 守式 『流』」

イーゴくんの拳打を受け流し、返す刀の腹で左膝を叩く。

「ぐ、がああ!」

両手で左膝を抱えるイーゴくん。

「これで終わるから」

うずくまるイーゴくんの背後へと移動し後頭部を霧雨の峰で叩く。

「が……」

一瞬にして意識を失ったイーゴくんは地面に倒れる。
頭には様々な神経や血管が集まっている。それらは衝撃に弱く、最悪の場合は頭の血管が出血を起こし死に至るケースもある。
なので僕は最小限の衝撃で相手が気絶するように自身の体を使って何度も実験を繰り返すことでその感覚を掴んだ。
性別、筋肉量、骨格などにより個人差があって難しいからこれもあまり多用できない危険な技の一つ。

「……」

静まり返る会場。
その中で最初に動いたのは先生。

「勝者ライリー選手!救護班!早く!」

先生の声が静かな闘技場内にこだまする。
選手入場口から待ち構えていた保健委員の人たちがやってくる。
僕の欠損した左腕の消毒後、すぐに再生魔力を使って左腕の復元を行ってくれる。

「担架で医務室へ運びます。動かないで安静にしていて下さい」

治療が終わると待ち構えていた移送部隊がやってくる。
保健委員には貴族出身の生徒もいるが不思議なことに誰一人として平民を見下したりせず身分差に関係なく接してくれる姿から「白衣の天使」と呼ばれている。
ちなみに白衣の天使と呼ばれているのは女子生徒だけで男子生徒は「白衣の賢者」と呼ばれている。
そんな白衣の賢者で構成された移送部隊の申し出を断り血液不足による気だるさを感じながらも武舞台を降り入口に立つクロエの元へ。

「ちょ、大丈夫なの!?」

駆け寄ってきてくれるクロエ。
血で制服が汚れるとか気にせずふらつく体を肩で支えてくれる。

「どう?余裕……とは言えないけど勝ったよ」

入り口横の壁に背を預けて腰を下ろす僕はクロエを見上げて笑う。

「ふん!見てなさいよ!すぐに終わらせてくるから……だから、終わるまでここで見ていてくれない?」

「……弱気なクロエってやっぱり新鮮……いいよ。ここで見てる」

僕が了承するとどこか不安気な表情だったクロエはいつもの強気な表情へと変化した。

「よし!じゃあ行ってくるわ!」

クロエは武舞台へ颯爽と歩き出す。

「うん。完全に僕と模擬戦闘をする時のクロエだ。あの状態の時のクロエは本当に強い。逆に相手の選手が可哀想だな」

武舞台では既に神器を展開し試合が始まっている。

「一気に行くわ!」

開始早々クロエは奥の手である炎の巨人「イフリート」を出現させる。

「これが……なら、私も出し惜しみできないわね」

対戦相手のハイエンスさんも負けじと自身の奥の手である水龍「リヴァイアサン」を出現させる。

「おお!炎の巨人と伝承では水神と呼ばれる龍の対決か!」

「どっちも伝承通りにでかい!」

「なんて魔力と魔力操作技術だ!」

会場は大盛り上がり。

「いくわよイフリート!『炎弾』」
「こっちもいくよ!『水龍の咆哮』」

大きく口を開けた炎の巨人と水龍の前方に炎と水が収束していき1m台の球を形成。
その球から感じるとんでもない魔力の奔流。

「お、おい。これやばいんじゃ」

「ああ。闘技場が消し飛ぶぞ」

ざわめく観客。

「や、やめてくれぇ!魔力の化身とは言え巨人が四つん這いで口を開けている姿はまるで……や、やめてくれぇ!」

実況者の魂の叫び。

う、うん。
その気持ちはなんとなく……

そんな周りの反応など真剣に戦う二人には関係なく。

「焼き滅ぼせ!」

「消し飛ばせ!」

炎と水の収束砲が放たれ衝突ーー

クロエ、ハイエンス先輩の全魔力が込められた一撃。

どんな拮抗したぶつかり合いが展開するのだろう

そんな高まる期待と爆発した場合は闘技場はどうなるのかという不安を抱えた観客の予想はあっさり裏切られる。

「な、私の最強の一撃が!?」

驚愕するハイエンス先輩。

その視線の先では水龍の水砲が一瞬にして蒸発、火砲はそのまま飛んでいき水龍を蒸発させた。

その後ハイエンス先輩は魔力枯渇による失神でクロエの勝利。

ーー試合後

「どう?さっさと勝ってきたわ」

武舞台から汗ひとつかかず涼しい顔で降りてきたクロエは僕に勝ち誇った笑顔を向けてきた。
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