美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~

Ell

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第八話 ギルドマスター

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 私とガーリーさんと髭マッチョの恐らくギルマスであろう三人は、一つの部屋へと入っていった。
 大きな机に豪華な椅子、部屋の回りには本棚が一つ。そして大きな武器が、両手斧が飾られていた。全体的には飾り付けのない簡素な部屋だった。
 その奥の一人用の椅子に「よっこらしょっと」と腰かけるのがなんだか少しかわいらしかった。
 ……おじさんが『かわいらしい』って使うとなんだか相手が子供みたいに思えてしまうな。
 それとも私自身の精神が、このエルフの美少女の肉体に引っ張られているのだろうか。
 そのようなことを考えていると、姫じゃなかった髭マッチョは椅子に肘をつき、両手の指を組み合わせてどこぞの司令官のようなポーズで私に話しかける。
 それだけでも私はどきどきする。別に悪い事はしていない……はず。それに今かわいらしいなんて考えていたこともバレてない……はず。
「ワイはこのピピーナの町のギルドマスターや。この町で起こった事や危険な事があったら色々と知っておく必要があんねん。お前さんが倒したクレイジーボア、あれほんまは結構危険なモンスターやさかいな、こうして来て貰った訳や」
 やはりこの髭マッチョはギルドマスターだったようだ。まあなー……一人だけオーラが違うもんなー。
「まずは退治してくれて感謝するわ。下手な冒険者が出会っとったら怪我ですまんからな。クレイジーボアが出て被害皆無なんて滅多にないことなんやで。誇ってええわ」
「それは……ありがとうございます」
「後で報奨金も渡すさかい。楽しみにしとってな」
「はい」
 モンスターを倒してお金を手に入れる。私も立派な冒険者の仲間入りということか。これは嬉しいな。
「さて。ほんなら何があったか一切合切話して貰おか。まずこいつとはどこで出会ったんや?」
「えっと……南の門を出て少し進んだ林の奥です」
「なるほどあの辺りか……それで?」
「他のモンスターとかを退治してたら出てきたので、倒しました」
「せや。そこが問題やねん。どーやってあんなデカブツ倒せるねん」
「えっと……魔法で?」
「その魔法っちゅーたって、傷一つ無かったやんか。火ぃだろうと水だろうと、普通もっと体に傷がつくはずや。かといって罠をしかけた訳でもないみたいやし。さっぱり分からんわ」
「えっと……突っ込んでくる目の前に、土魔法で大きな穴を作り、そこに落としました」
 ギルドマスターはほう、と感心した顔つきになった。
「なるほどな……いやいやそれにしたってクレイジーボアやで? どんだけでかい穴作ったねん!?」
「相手が頭から落ちてお尻が私の腰くらいになるような感じの穴を」
「そらまあ……ごっついのぅ。でも穴に落としただけやと倒せんやろ。それだけか?」
「えっと……雷で?」
「は? 雷? 雷っちゅーと凄い雨の時にドンガラガッシャーンって空に光るあれか?」
「はい」
 ギルドマスターはハッとする。
「もしかして……昼間に晴れの日なのに雷のゴロゴロ音がしたのはアンタんせいか!」
「あーっと……多分」
「はぁ……たまげたで、ホンマ」
「すみません」
 ギルドマスターは大きなため息をついた。なんだか申し訳ない気持ちになる私。
 次からはあんな大きな雷ではなくて、もっと手のひらから出るような電撃サイズにしようそうしよう。
 あーでも今回みたいなあんな大きなモンスターだったらやっぱり空から落ちてくる稲妻の方がいいのかも?
 一人でそう試行錯誤していると、ギルドマスターが話を続ける。
「まあええわ。そんな魔法の存在初めて知ったわ。エルフってホンマ凄いなぁ」
「あはは……」
 この辺は笑って誤魔化す私。本場のエルフにも雷魔法って使えるのだろうか。それとも一族の秘術とかだったりするのだろうか。どうしよう……門外不出とかだったら。まあそうなったらその時はその時だし、そもそも雷を【光魔法】で出せるのだから私以外の人も頑張れば出来るはずだし。なんとかなるでしょ!
 オプティミストで行こう! あっ『オプティミスト』って『楽観主義者』のことね。
 ちなみに『悲観主義者』は『ペシミスト』。受験に出るかもしれないよ?
「ほんで、お前さんついこないだギルドに登録したっちゅーてたな」
「はい」
「ちょっと調べさせてもろたんやけど、アンタ南門から来たらしいな」
「はい」
「南門の向こうの……どっから来た?」
「えっと……田舎から」
「南門の向こうには寂れた村が一つあるだけや。その先か?」
「そうです」
「その先は荒野やで? 岩と砂の大地や。お前さんエルフの里から来たんとちゃうんか?」
「えっと……」
 いかん、ボロが出てきたぞ。どうしよう。
「アンタが悪い奴やとは思っとらん。そもそもどこぞのスパイならこんな目立つことせぇへんし、エルフなんて大目立ちするような奴はスパイに向いとらん」
「あはは……」
「行動と言動のちぐはぐさ、そして突拍子もない、自らも把握出来てないような凄い力。アンタ、もしかして……」
 どきり。
「……神の落し子か?」
 言われてしまった。どうしよう。こういう時って正直に答えた方がいいのか。あるいは黙ってた方がいいのか。
 でもギルドマスターがわざわざ『神の落し子』と言ったのだ。『転移者』とか『転生者』とかではなく。それならば、概念としてはこの世界では一般的なのだろうか。
 ただここはまず誤魔化しから入っておこう。
「あの……『神の落し子』って」
「なんや知らんのかい。一般常識やと思うんやけどな」
「エルフなので」
「エルフかてこんくらい知っとるやろ。ってか神の落し子を知らんっちゅー時点でもう殆ど『私が神の落し子です』って自白してるようなもんやで」
「うぐっ」
 これは……墓穴を掘ってしまったか。土魔法も使わずに。
「『神の落し子』っちゅーんはな、その名の通り神様がこの世界に落とした、神様の子供っちゅー意味や。まあ他の世界の言葉を使えば、転移者とかゆーんちゃうかな」
「あぁ……」
「で? そーなんやろ? ほれ白状してみぃ。今なら悪いようにはせぇへんで」
 なんだそれ。完全に悪役の台詞じゃないか。
「はーやめやめ。オトンそーゆーの向いてへんのやから私に代わり」
「なんやお前が出てくるトコちゃうで。これはギルマスの仕事や」
「せやから顔が怖すぎるっちゅーねん。それその辺の犯罪者の顔やで」
「ぐぬぅ」
「スマンなーエリィちゃん。オトンが怖い思いさせてしもて」
 ガーリーさんは私の両肩を後ろから掴み、私の横から顔を出す。
「いえ……えっと『オトン』って」
「ギルマスはウチのオトンや。ウチはギルマスの娘やねん。あっでもでもコネで入ったりしてへんで。きちんと資格も持っとるし試験も正真正銘キッチリ合格しとるし。こーゆー大事な時だけちょいちょいお世話になっとるっちゅー話や」
 横を向いていた私はギルマスの方に顔を向けた。本人はぶすっとしていらっしゃる。先ほどと似たような顔付きだが、少し不満げなのが見て取れた。
 しかしながら……『大事な時だけ』ってそれはコネを使った権力とか職権の濫用というのでは……?
 ただ、今はタイミング的に非常にありがたかったので、黙っておくことにする。
「で? 結局エリィちゃんって神の落し子なんやろ? なぁに別に黙っとくさかい、ほれ言うてみ? 言うてみ? 悪いようにはせぇへんて」
 これは親子だ……言ってる台詞一緒じゃないか……。
 関西弁なのも親子だからだろうか。そういえばハラールさんとか他の町の人は特に関西弁でもないし……。
「あの……本当に誰にも言わないで貰えます?」
「勿論や!」「スマンが、それは約束でけへんな」
 ガーリーさんとギルマスの言葉に差異が生まれた。ちなみに後者がギルマスである。
「なんでやオトン!」
「ここでオトン呼ぶな言うたやろ! ったく……あのな、国によってあるいは領によって幾つかの法律があってな、我が『ピピーナ子爵領』では『神の落し子が見つかった場合、速やかに領主に報告すること』っちゅー決まりがあんねん。せやから領主様にだけは報告せなあかん」
「そう……ですか……」
 お貴族様か……これは厄介事に巻き込まれそうな予感。よし黙っていようか。
「あー今黙ってよとか思たやろ。あかんで。『もし神の落し子だということを隠匿していた場合、それ相応の罰を与える』っちゅー法律もあるからな。今やったら悪いようにはせぇへんから。ほれゆーてみ」
 ぐぬぬ……これは言うしかないのか。
「だいじょぶやで。ウチの今のご領主様はその辺の貴族みたいな偉そうなタイプとちゃうから。むしろ変わり者で気さくで有名やから、正直でさえあればホンマに悪いようにはならんで」
「せやな。あのご領主様なら安心かもな」
「ホントですか?」
「こーゆー時にウソは吐かんわ。で、そろそろ気持ちの整理はついたか?」
 私は一度深呼吸をして、告げた。
「はい。私は皆さんの言う『神の落し子』、転移者です」
「そーか。ほな、これから大変かもしれんけど、頑張りや」
「うわーホンマ!? ホンマにエリィちゃん神の落し子なん!? うわー初めて見たわーうれしー」
 ギルマスとガーリーさんで随分扱いが違うようだが。
「あの……『神の落し子』って珍しいんでしょうか?」
「まあそれなりにな。そもそも神の落し子なんて大半がものすっごい力持ってて勇者か賢者か魔王か、あるいは何かの世界一になるかみたいなそーゆーバケモン揃いやからな」
「はえー」
 なんだか私には想像もつかない世界だ。
「ただなー見た目がなー」
 ん? 見た目がどうかしたのだろうか?
 私が疑問の顔をしていると、ギルマスが教えてくれた。
「神の落し子って昔っから黒髪黒目の童顔って決まってんねん。伝説も言い伝えもそれこそが神の落し子の特徴って書かれてるからな。せやからアンタのことはしょーじきよー分からんのや」
「そーなんですか」
「あるいは……神様が違うんかもな」
「さて……どうでしょう」
「ちなみに、お前さんは前の世界でもエルフやったんか? もしそうやと今までの神の落し子に関する話が全部ひっくり返ってどえらいことになるんやけど」
「いえ、私も前の世界では黒髪黒目でした。童顔かどうかは分かりませんが」
「そーか。せやったらやっぱり同じ世界からの落し子なんかもな」
 そこまで話すと、ギルマスはふぅと一息ついた。
「今日はこれでしまいや。ご領主様以外には黙っておくさかい、お前さんも余計なぼろ出さんように気ぃつけや。なんやったらガーリーに色々と教えてもらい」
「はい。ありがとうございます。えっと……」
 そういえば私、ギルドマスターだとは聞いたけど名前を聞いてないぞ。
 私が名前を聞こうとすると、ギルマスはそっと目を反らし。
「ワイのことはギルマスって呼べばええから。名前なんぞどーでもえーわ」
「はぁ」
 曖昧な返事を返すと、にやにやとガーリーさんが。
「オトンはなーワイと同じ『ガーリー』って名前やねん。これなードワーフの言葉で『可愛い私の娘』って意味やからなー絶対に自分から名乗らんねん」
「お前なにしゃべってんねん!」
「ドワーフはなー両親から一文字ずつ貰って伸ばすって名付けなんやけどなー貰い方も貰う字もある程度決まっとるし子供が男でも女でも名付けは一緒やねん。だから時々こーゆー事故が起こるんやけどなーそれにしたって……ぷぷっ」
「ガーリー! お前ちょぉ黙っとれ!」
「自分の名前やん『ガーリー』て」
「うっさいわアホ! 出ていけ! さっさと出ていけぇ!」
 部屋から追い出されたが、見えたギルマスの顔は真っ赤だった。
 確かに可愛らしい名前かもしれない。
 そして……今の発言で気になったことが。
「あの……二人ともドワーフなんですか?」
「せや? 見て分からんか? って神の落し子やったら分からんか。そらしゃーないわな。そっかー初対面でこの娘エルフのくせにドワーフに随分普通に話すなーって思とったけど、そーゆー知識も前提も無いんやったらそらそーやなー」
 ガーリーさんは一人で納得しているご様子。
「どういうことでしょう」
「エルフとドワーフはなー、色々と相性が悪いねん。まああくまで種族としてやからな。個人としては仲ええのもおるかもしれん。ウチもオトンも、そこまでエルフ嫌ったりしてへんから、エリィちゃんも普通にしたってな」
「ええ。それは別に問題ないです」
「そっかー。それは良かったわ。ちなみに他に何か聞いときたいことあるか?」
「あっと……じゃあ、その喋り方なんですか」
「これか? これはドワーフなまりや」
「ドワーフ訛り?」
「言葉なんて種族によって違うやろ? でもこーゆー仕事やと皆に通じる共通語で喋らなあかん。特に大陸最大派の旧人族はな。ほんでどーしてもなー。そーいやエリィちゃんもエルフ訛りないなー。綺麗な共通語や。そーゆーとこからもオトンは違和感感じたんやろなー」
 どうやらこの世界では、関西弁はドワーフ訛りらしい。
 あるいはこれも『神の落し子』による翻訳機能が働いているのだろうか。
 なんにせよこの世界、中々面白い所である。
 まずは今後の領主様との対応が、平和な感じになるといいのだが……大丈夫かな。

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