美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~

Ell

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第十九話 ギンシュの魔法

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「さて、魔法を教えるという件についてだが」
 ギンシュちゃんはがばりと頭を上げて、私をじっと見つめてくる。
 その瞳には期待の色が見て取れた。
「私はいつでもいいですけど、もうすぐ宿ですよね?」
「そうだな。なあ、夜はダメか?」
「危ないでしょう。魔法が暴発したりしたら」
「そ、そうか……」
 しゅんとするギンシュちゃん。かわええ。
 そうこうしていると案の定、今晩泊まる町が見えてきたようだ。
「では明日の朝早くならばどうでしょうか」
「明日か。明日からは船だからな。船の上では流石にな……」
「ええ。という訳で明日の朝早くで」
「いや、明日の船の出航が早朝なのだ。だから明日の朝というのは……」
「そうですか」
 さて、そうなるとどうしようか。
 するとギンシュちゃん、なんかもじもじしている。
「なあ、やっぱり今夜に出来ないだろうか。暴発はしないように頑張るから……」
 待てよ。よく考えたらえっちなイメージを持たせないと魔法は使えないのでは?
 そうなると……準備が必要か。
「そう……ですね。準備もいりますし。では今晩にでも早速」
「本当か!? そなたの恩に感謝する!」
 ギンシュちゃん、これまたがばりと頭を下げてくれた。
 でも、その前にはむふふでえちちなことをするのですよ……許しておくれ。
 そんなことはまるで知らないギンシュちゃん、ほわほわの笑顔でときめいていらっしゃる。
「ああ……どうしよう。ついに私も魔法が……おい、本当だろうな。本当に私にも魔法が使えるようになるのだな」
「えっと絶対の保証は出来ませんが……そうだ、良ければ【鑑定】してみます?」
「は? そなた【鑑定】まで出来るのか!? もはやなんでもありだな」
 びっくり仰天のギンシュちゃん。【鑑定】スキルってやっぱ珍しいんだな。
「エルフですしー。神の落し子ですしー」
「まあ確かに、その二つが揃えば何が出来ても不思議ではないかもな」
 どうやら少し、肩の力は抜けてきたようだ。
 ……ミレイの方を向かなければ、だけど。
 ミレイもある程度分かっているのだろうか、先ほどから黙って私の腕にすりすりしているのみである。
 でもちょっとお顔がさみしそう。なんか申し訳ない気分。
 申し訳なさを表す為に、空いた腕で頭をよしよしする。ミレイはむふーんとした顔で喜んでいたので、とりあえずはこれでよし。
「では……エリィ殿、お願いしてもいいだろうか」
「分かりました。では……【鑑定】」
 えっと彼女の能力は……うん、騎士団で訓練しているだけあって攻撃力や防御力がしっかり育ってる。素早さもそこそこ。魔法に関しても元の素養はあったみたいで、それなりの能力値にはなっている。全体的なことをいえば、少しHPが低いくらいで、あとはどれも平均かそれより少し上のバランス型の能力値だった。
 そしてスキルはっと……うん、予想通り【火魔法】がちゃんとある。良かったねギンシュちゃん。君も立派なバニング伯爵家の一員だったよ。
 あとなぜだか知らないが【風魔法】も覚えていた。なんでだろ。
「ギンシュちゃんは……【火魔法】のスキルを習得しているようですね」
「本当か!? そうか……私にも【火魔法】が……そうか……」
 彼女はじぃんとしている。喜びを噛みしめているのだろう。先日のミレイもそうだったが、幾ら努力しても芽の出ない才能が、本当に眠っているのか……もう殆ど諦めていたのだろう。でも諦めきれない。そんな折に私から『あなたの才能はちゃんとありますよ。芽が出ていないだけですよ』と保証されたのだ。そりゃあ嬉しいに決まってる。
 なんだかこういうと、何の努力もせずに色々なスキルを手に入れた自分が、非道く惨めに思えた。
 そんな自分の気持ちを誤魔化しながら、私はもう少し言葉を続ける。
「あと、なぜだか分かりませんが【風魔法】のスキルも覚えていますね」
「なに!? 本当か!?」
「ええ……心当たりが?」
「母は子爵家から嫁いできたのだが、母の叔父が確か風魔法使いだったはずだ。恐らくは母方の血を受け継いでもいたのだろう……そうか……私は【火】と【風】持ちか……ふふふ」
「では、今日は【風魔法】からはじめましょう。【火魔法】は水辺でやりたいですし。あと私はまだ【火魔法】を使えないので」
「なんと!? こんなに色々と出来るのにか!?」
「火が燃え広がったりして何かあったら怖いなぁと思って、訓練しなかったんですよね。ピピーナには水辺が少なかったのもあって」
「ああ。確かに回りも林や森や農地ばかりだったしな」
「という訳です。今晩は宿に泊まれるのですよね」
「そうだな。もうすぐ町に到着するはずだ」

 そんな話をしていると、どうやら町に到着したみたいだ。
 城門をくぐって、壁の中へと馬車は入っていく。
 今日はついに川沿いの町に辿り着いた。この町からはいよいよ川下りだ。
 宿は結構大きな宿の一番上の階だった。きっと一番いい部屋なのだろうが、町がそこそこの大きさなので、宿もそこそこっちゃーそこそこだった。
 それでもしっかりしたベッドで寝られるだけで本当にありがたいと思う。


 さて。
 これから魔法を使う為の準備である。
 ということはつまり。
 そういうことである。
 ちなみにミレイにとってはお食事タイムである。
 以下はギンシュちゃんの台詞ダイジェストで。

「私は……その……今まで男性との交際も何もなかったのだ……だから……その……はじめてで……」
「やさしく……してくれ……」
「ほ、本当にそんなことをするのか?」
「なっ……ああっ……そんなぁ」
「うぅ……恥ずかしいが……これはっ……」
「あぁっ、これがっ、これがあっ」
「すごいぃい! こんなのぉ!」
「だっ、だめだぁ! わたしはぁ! ああっ!  あああっっっ!!」
「ああ……もう……お嫁にいけない……」

 こんな感じである。
 あえて一言だけ言うと、『大変美味であった』と言わせていただこうか。
 ちなみにミレイもご一緒して、おなかいっぱいらしい。それはなにより。


 という訳で宿の裏庭に出る三人。勿論【クリーン】の後に。
 ギンシュちゃんには手を上に向けて貰って、魔法の指導である。
「じゃあ目を閉じて、先ほどあった事を思い出して」
 私はそう言いながら、彼女を後ろからぎゅっと抱きしめるようにして、そしてへそのあたりをさわさわする。
「ひゃんっ!?」
「ほら……この辺りがじんわり暖かくなってこない?」
「くる! くるからぁ! 触らないでくれぇ……思い出してしまう……」
「思い出すのが重要だから。それで思い出しながら……手のひらから風が吹く想像をして……」
「わ、分かった」
 ギンシュちゃんは目を閉じて妄想と想像を行う。ちょっと息が荒くなってきて私もむらむらする。さっき終えたばかりなのにね。
「想像がしっかり終えたら、呪文は何でもいいから、きっかけの言葉を唱えてみて」
「な、なんでもいいのか? 私は【火魔法】の訓練の時にはしっかりと呪文を教わったのだが」
「私が読んだ本には、呪文はきっかけに過ぎないって書かれてたから、私自身は特にこだわってないけど。そもそも呪文を言わずに魔法を使うことも可能だから」
「それはまた……なんとも大胆な理論だな。よし……では。吹けよ突風!」
 すると、ギンシュちゃんの手のひらからビュオォ! と一陣の風が吹き、高く高く空高く昇っていった。
「いまの……は……」
「おめでとう! これでギンシュちゃんも今日から【風魔法】の使い手だね」
「おめでとうですぅ!」
「ははは……やった……やったぞ……私も……私も……ううぅ」
 ギンシュちゃん、泣き崩れちゃった。
 たまたまなのか、そうでないのかは分からないが、ちょっと魔法が使えないだけでこんなにも鬱屈してしまう人達に出会ってしまうこの世界は、なんだかちょっとおかしいと思う。
 教育がなのか、思想がなのかは分からないけれども。
 でも、とりあえず目の間の二人は私がなんとか助けることが出来た。
 今後も自分が人助けなんて出来ればいいな、と思う。
 思い上がりかもしれないけれども。
 むしろ私は私でこの世界のことをもっと教えて欲しいが。
 ってかあの本……ホントもっと世の中に広まればいいんじゃないかな。
 作者の名前とか見てこなかったなー誰なんだろうなー。
 私はそんなことを考えていると。
「エリィどのぉ!」
「わっ!? どどどしたの」
 ギンシュちゃんは私に思いっきり抱き着いてきたので、私はたたらを踏んでしまった。
「ありがとう! 本当にありがとう! 私はぁ……わたしはぁ……」
 ぐずぐずしているギンシュちゃん。よしよしなでなでしちゃる。
「これでもう、騎士団なんぞに用はない! 王都に戻ったら魔法騎士団に入団するぞ!」
「あ、そーするの?」
「それはもちろん! 私のずっと昔からの夢だからな!」
「でもお兄さん達もそこ所属で、また男性社会とかでいじめられたりしない?」
「そ、それは……でも魔法で」
「ちょっとえっちなことしたくらいだと多分想像力が弱いと思うんだけど」
「で、ではどうしたら……」
 ギンシュちゃん涙目。ここは折角だから、私はこういう言葉を投げかけてみる。
「どうせだったらさぁ、私達と一緒に来ない?」
「ん?」
「まだ何も決まってないけど、とりあえず私達二人は冒険者をしながら色々な土地を旅したいって思ってるだけど、その間にもっと色々したりして、もっと色々な魔法も覚えられるかもよ?」
「色々な……魔法?」
「そう。なんなら騎士団に所属しないまま……お兄さん達や、なんならお父さんだって超えてみない?」
「ち、父上をだって!? そんなことが……」
「こんなの、使ってみたくない?」
 そこで私は電撃を球状にしてバチバチと空に放る。空中へと飛んで行った電撃球は、放電しながら夜の闇へと消えていった。
「な、なんだアレは!? 今のも魔法なのか!? 初めて見るぞ!?」
「あ、やっぱりそうなんだー。じゃあかなり珍しい魔法なんだね」
「訓練すれば……私も今の魔法が使えるようになるのか!?」
「多分。ミレイはもしかしたら難しいかもしれないけれど」
「えーっ!? どうしてですかぁ!? 私も今の覚えたいですぅ」
「属性分類としては【光魔法】みたいなんだよね。だから【闇魔法】が得意なサキュバスのミレイには種族的に難しいかも」
「そうですかぁ……」
 しゅんとしてしまうミレイ。でもすぐに復活して私を見つめてくる。
「でも練習はするですぅ!」
「そうだね。練習すれば覚えられるかもね。あと【闇魔法】でも特別な魔法があるからミレイはそっちを覚えるといいかも」
「ほ、ホントですかぁ!?」
「うん。理論上は出来ると思うよ。まだ試してないからアレだけど……暴走すると危険だから怖くて使えない」
「そんな魔法……逆に怖いですけど」
「そうだね。でも魔法は元々怖いものだと私は思ってるよ。ちょっと想像するだけで人体を簡単に切り裂く刃が作れちゃうんだから」
 そう言って自分の手を見つめる。私には未だに最初の暴走した【風魔法】が脳裏から離れない。
 アレは、私の妄想が生み出してしまった暴走だ。
 この世界は、魔法で安易に世界を壊せてしまう。
 そして、自分にはその力があることを計らずも認識させられてしまった。
 だからこそ、私は私を戒めなければならないと思う。
 迂闊なことは出来んなぁ。
 とか思いつつ既に相当色々と迂闊なことをしまくってる気がしなくもないが、まあそれはそれで。
「とにかく、ギンシュちゃんはもう少し訓練して、なんとなくでも魔法の使い方を体に沁みこませてから就寝しようか」
「そうだ! 一回だけではまぐれの場合もあるからな! 何時でも魔法が使えるようにしないとな!」
「あと……さっきのこと……ちょっと考えておいて」
「あ、ああ……」
 ギンシュちゃん、初対面の時こそアレだったが、根は素直ないい子なのだ。
 私は彼女とも一緒にいたいと、今は思っている。
 おっぱいもすごかったし。なーんて。
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